幕間『己がメリクリ②』
霧の湖のほとりに聳え立つ、紅い館。
兄1人、妹3人、友達1人、部下たくさん。
そんな状況で、長女である少女──レミリア・スカーレットはワイングラスを掲げる。
「忌々しいことではあるが……今日はクリスマス。聖なる日ではなく、ただ、皆が楽しむ日として、今日という日を祝おうと思う。乾杯」
「「「かんぱーい!」」」
レミリアの音頭と共に、皆が無邪気にグラスを掲げる。
血のように紅いワインを口に運び、少女たちは顔を綻ばせる。
「なんて美味しいの……! 兄さん、褒めてつかわすわ」
「まあ、50年ものだからな」
上機嫌な家の主、レミリアの言葉に彼女たちの兄……ヴラドは微笑んで答える。
「これもーらい!」
「あ、お姉様! それ私のです!」
幼い2人……フランとハリスマリー・吸は机の上にある鶏の丸焼きを巡って格闘を繰り広げ、ヴラドと咲夜、美鈴のまだ幼い子供である露黎と梓葉は母たちによって甲斐甲斐しく世話を焼かれている。
「むきゅっ」
「パチェ、こんな時ぐらい本を読むのをやめたらどうだ」
「……まあ、アンタがそう言うならやめるけど」
「そうです! パチェさんも一緒に楽しみましょ!」
「分かった分かった」
そう言って、ヴラドと吸に言われた通り、パチュリーは本を閉じる。
「吸ちゃーん! 遊びに来たよ!」
「あ、チルノちゃん、大ちゃん! ここ座って!」
吸の言葉に従い、チルノと大妖精は紅魔館の長机の空いている椅子に座る。
「う〜……あたい、溶ける……」
「あ、チルノちゃん!」
「はわわ、ロウソクに近づいちゃダメだよ〜!」
大妖精、チルノ、吸。3人の微笑ましいやりとりに、紅魔館の面々は自然と笑みが零れた。
◇◆◇◆◇
「妖夢。仕事終わったら、ちょっと人里にでも行かないか?」
「人里ですか。良いですが……幽々子様、いいですか?」
「もちろんよ」
縁側で妖夢の庭仕事としての仕事を眺めていた幽々子は2人に許可を出すと、妖夢の隣で素振りをしていた幻真を呼び出し、耳元で「ちゃんとやりなさいよ」と囁く。
幻真は苦笑いしながらもコクリと頷き、再び素振りに戻った。
しばらく経ち妖夢が仕事を終えて、白玉楼の屋敷に設けられた妖夢の私室に入り、服を着替える。
それを外で待っていた幻真は、出てきた妖夢の姿を見るや、即座に吐息と言葉を漏らす。
普段のように、抹茶色やウグイス色の服を中心として、薄い緑系統の色で纏められている。長袖の焦げ茶色の服の上に緑色のヒラヒラとしたトップスを重ね、その上から毛糸で編まれた網目の大きなクリーム色のベストを羽織っている。
さらに、緑色のミニスカートと黒いハイソックスの間から覗く、白く美しい絶対領域が全体的な可愛らしさ一掃引き立てていた。
「……可愛い」
「え、そ、そうですか? その……ありがとう、ございます……」
「お二人さん。イチャイチャしてるのもいいけど、早く人里行きなさいな」
そう言って、お互いに顔が赤くなった妖夢と幻真を、幽々子は茶化しながら送り出した。
人里に2人は到着すると、まずはこの季節の名物である人里のクリスマスツリーを見物に行く。
目の前にいる、自分たちよりも少し若そうなカップルを微笑んでいると、カップルは空間の狭間に落ちる。2人は驚きながらも、顔を見合わせて少し笑い、人里の中心からは少し離れたレストランに入った。
「……すまない妖夢、レストラン満席でちょっと歩かせちゃったな」
「いえ。これくらい寧ろいい特訓なくらいです。それに……」
「妖夢は本当にブレないな。それに、何て? すまない、うまく聞き取れなかった」
「い、いえ、なんでもないですっ!」
小さくて聞こえなかった言葉が気になりつつも幻真は変わらない妖夢を愛おしみ、笑う。
「刀屋にでも、見に行こうか」
「はい! ……それにしても、クリスマスに刀屋ですか」
「たしかに、俺たちにはちょっと似合わないかも?」
「もう、幻真さん、失礼ですよ」
そう言って笑い合いながらも、2人は馴染みの刀屋に入った。
幻真がどこかで見たことのあるような人影を見ていると、妖夢が少し頬をむくれさせる。
「もうっ……浮気ですか?」
「いやいや、そんなんじゃないさ」
「ならいいです」
妖夢はそう言いながらも幻真を連れて店内を見て回り、やがて一振りの刀の前で足を止め、悩むそぶりを見せる。
「うーん……」
「どうしたんだ?」
「その……この刀は凄くいいんですけど、高くて手が出せなくて……。虎徹、村正、王武、魂切……」
自らの持つ刀の名前をつらつらと挙げ列ねながら、なにかを採算するように考える妖夢。
「じゃあ、俺がプレゼントしよう」
「え!? いいんですか!?」
「ああ。もちろん」
「やった!」
幻真の言葉に、妖夢は微笑ましく喜びながら、刀を店員の元へ持っていった。
幻真はその刀をちゃんと見たその瞬間、ズキリと頭痛がする。が、すぐによくなったのでそれも気にせずに幻真は自らの財布から一枚のカードを取り出した。
◇◆◇◆◇
家族と共に、優一は自らの持つ大豪邸にてクリスマスを祝っていた。
豪華絢爛な装飾の施された家で、自らの幸せを噛みしめるべく、料理を食べる。
何かが違う、と。そう思ったのも束の間、妻の手によってケーキが運ばれてきた。
そういえば、愛しいとは思いつつも、顔をちゃんと見てはいなかった。
自らの愛する妻の顔を見るが……あぁ、自らの愛する嫁の顔だ。違いない。
何が違うというのか。
自らの意思を一蹴し息子、娘、妻、そして自分の3人でケーキを切り、取り分ける。
さすが自らの愛妻である。蕩けるような美味しさだ。
細やかながらも自らが勝ち取った、平和で、愛すべき時間が、そこには流れていた。
◇◆◇◆◇
「はぁ……。何でこんなところにいなきゃいけないのよ!?」
「しょうがねぇだろ、俺らは相手が居ねえんだから」
「そんなこと言ったって……」
「仮初の夢くらい、あいつらに見せてやれよ。なぁ、そう思うだろ、──」
終作の言葉に僕は頷いた。皆が幸せなら、それでいいだろう。終作が悪夢を振り撒くのも困るから、僕らは監視していよう。
「──までそんなこと言うの!? はあ、やっぱり理解不能だわ。せっかくサンタコスまでしてきたっていうのに」
「気合い入れてきたところ悪いが、ここは合コンじゃないぜ。ま、俺ちゃんは嫌いじゃないけどねん。そうそう、お前にちょっとしたプレゼントがあるんだ」
そう言うと、終作は桜に刀を渡した。
何の装飾も施されて居ない、無骨な刀。
「そうそう、これが欲しかったのよね。クリスマスに浮ついている奴らをバッサバッサと……ってそんなことしないわよ! センス悪すぎない!?」
「アレ、そう? 桜なら喜んでくれるかと……」
「んなわけないじゃない! ねえ、──もなんとか言ってよ!」
こんな聖なる日なんだ。喧嘩なんてするもんじゃない。
僕が嗜めると、桜は渋々と自らの席に戻る。
「はぁ……それにしても、暇ね。メリークルシミマス、とはよく言ったものよ。ねぇ……──。そろそろ……