第15話『深海と天秤にて』
「くそっ!」
幻真は怒りに声を荒げながら、ポントスに対してその剣を振るう。
ポントスはその一撃を自然体で受け入れ、その体は崩れ、そして再生した。
「なんなんだこいつ……! キリがない!」
「ポントス……海の……化身……体……水……物理、効かない……」
「なんだと!?」
幻真の言葉に、白界は頷いて答える。
幻真は白界の言葉に目を白黒させながら、それでもなお自らの刀を振るう。
雷刀ゼニシアと複貌の刀、持つ力の変化する刀である真神剣の二刀だ。
幻真の持つ武器であり、共に強力な性能を持つ、が……ポントスには、やはり効かない。
水を滅する方法など、幻真の手には2つしか残っていない。
「それなら、こいつでどうだ! 感情爆発『希望』、感情爆発『絶望』」
幻真はそう宣言し黒と白、2体の巨大な龍を呼び出す。
凄まじい瘴気とそれを彼方へ吹き飛ばす力、強大な2つの力が幻真、ポントス、白界を取り巻いていた。
黒き龍が叫び、穢れを纏う双腕をポントスへ振るう。白き龍は叫び、灼熱と極寒がポントスを滅さんと迫った。
「おーっとぉ。お兄さん、そんなに迫られたら困っちゃうよ」
ポントスはそれに対して自らのゲル状の手を剣のようにして、一刀のもとにその2体を斬り伏せた。
「なんだと……!? くそっ!」
幻真は悔しがりながら、ポントスに対して殴りかかっていく。
「もう……君の熱愛には応えられないってば」
「うるせぇ!」
幻真が激怒した瞬間、ポントスを殴らんとするその左腕に穢れが纏われる。
「え」
次の瞬間、ポントスは穢れを纏う一撃に殴り飛ばされていた。
「効いた!」
「くっそ〜。痛ェじゃねぇか……」
先ほどのヘラヘラとした様子は何処へやら、ポントスは苛立った様子で立ち上がる。
「お前は……俺を本気で怒らせた」
ポントスはそう言うと、背中から数多の突起物が生える。
「降り注げ氷の刃」
その突起物は天へ飛び、それは氷塊となって幻真達に降り注ぐ。
「くそッ! やけくそかよ!」
「任せて。受符『ただ最果ての旋風神』」
白界がそう唱えた瞬間、暴風がそこに顕現した。天を覆う雲を裂き、降り注ぐ氷塊を巻き込んで、それは宇宙へ自らの肉体を構成する雲ごと押し上げていく。
「なんだと……!?」
「お前はここで終わりだ! 双龍よ、我にもう一度力を……! 望龍『望みの双龍』」
幻真は先ほどの力を再び使用する。自らの肉体に友である希望と絶望の双龍を纏う。
「はぁぁぁぁぁ!!」
幻真のその右腕は、極寒と瘴気の力でポントスの肉体を──文字通り消滅させた。
「勝った……はは! やった! やったぞ!」
そのまま倒れ込んだ幻真を、白界は担ぎながらパンゲアに穴を開ける。その穴に飛び込んで、パンゲアを後にした。
「おい、終作たちを追わなくていいのかよ」
「追っても……意味ない……僕の体内が、そう……言ってる」
「そうなのか……? ていうか、体内ってなんのことなんだ……!?」
◇◆◇◆◇
──そして、神殿──
「辰。すまないが……ちょいと、休んでろ」
「は、え?」
終作はそう言うと、辰を次元の穴に閉じ込める。
「ちょ、ぇぇぇぇぇ!?」
「おやおや。今度は何を企んでいるんだい?」
ニタニタと嗤うファミルに対して、終作は嘆息しながら答える。
「何を、と言われてもな……お前をこのままにさせれば、滅ぶのはこの世界で、次に飛ぶのは俺のクビだ。それだけは俺も嫌なんでね。お前が相手じゃあ、足手まといは邪魔なだけだ」
終作は残酷にそう言い切ると、どこからかスペルカードを取り出した。
それを宣言すると同時に、終作の胸の中心に新たな目が出現し、その目はありとあらゆるものを『見る』。
「『終始の主たる観察者』」
それは終作の霊衣、アステカ神話は大神、オメテオトルの力を身に纏う。
「ほう……最高神にも匹敵するものを、足手まといと、そう言うのか!」
終作はファミルとそれ以上言葉を交わすことなく、次元の穴から大量の銃口を覗かせ、それをファミルに向けた。
次の瞬間、銃に込められた弾はファミルへと放たれた。
ファミルは結界を創り出しその弾を受けきると、その状態のまま終作へと殴りかかっていく。
「射貫け」
ファミルは終作を押し倒すと、ファミルの人差し指の指先から、赤黒く光る魔弾が放たれる。
「チッ!」
それは終作にあたる直前に、終作の力によって霧散する。次の瞬間、ファミルの首は終作の右手に力強く握られる。
「ハッ!」
「グッ……!」
ファミルは終作の右手を握り潰し、拘束から逃れると弾幕を終作の目の前に作り出す。
終作はその弾幕の衝撃に吹き飛ばされると、次の瞬間にその頭部をファミルによって蹴り飛ばされる。
頭部側面からの殴打、腹部への蹴り。宇宙生命神の"格"を伴った乱打が、終作を容赦なく打ち付ける。ファミルが終作へ意識を向けた次の瞬間、ファミルの首は無敵の神剣によって斬り落とされた。
「ふぅ……作戦成功か」
「貴様……嘘をついたのか!?」
「嘘なんざ一言もついてないぜ。もっとも、嘘をついたっていたむような心も持ってないけどな」
そう言って終作はケラケラと嗤う。
首だけになったファミルは悔しそうに、そして忌々しげに、自らの首を絶った辰の方を見た。
「……なんでそこまで摩多羅に怒りを覚えている? 摩多羅ってのは、お前が死んだあとに出現したんだろ?」
「決まっている! 奴は……本来この地を管理するはずだった私を騙し、この地を私から奪い去った!」
「それ以上喋るな」
終作はそう言うと、ファミルの首を爆破した。
「終作……!」
「お前は知らなくていいことだ」
酷く冷たい視線でその言葉と共に終作は辰を一瞥すると、次元の穴に飛び込んでいった。
その次の瞬間。神殿は、圧倒的な神性の力の前に崩壊した。