第十六話 「現状整理」
それから十分か、十五分か。
三十分は経っていないだろうな、と枕に顔を埋めたままのヘリアンは思考した。
皺一つ無いシーツに右手をついて寝返りを打つ。
幸いな事に枕は濡れてはいなかった。
もしも濡れていたら男のプライドとかそういうものがマズかった。
理不尽なことに巻き込まれ、何もせずメソメソと嘆き哀しむ、なんてのは悲劇のヒロインの役割であって自分の柄ではない。
いやしかし、城に戻るまでの道のりはリーヴェによるお姫様抱っこで運ばれたんだったか。既にヒロインじみた扱いをされていたことを思い出し、顔を覆う。
男のプライドうんぬんについては、あの時点で木っ端微塵に粉砕されていたのかもしれない。
……まあ、なんだ。
こんな下らないことが頭に浮かび始めたということは。
もうそろそろ、気持ちを切り替えるべき頃合いということだろう。
「……よっ、と」
掛け声と共に、両手を振り下ろした反動で上半身を起こす。
妙に心が凪いでいた。
気持ちの切り替えにはもう少し時間がかかるかと思っていたが、不思議と落ち着いた気分になっている。
何故だろう、と首を傾げかけ、そしてすぐに答えに行き着く。
「あぁ……」
やはり薄々と気づいていたのだ。この現実に。
丸一日かけて有り得ない出来事を見続けた俺は、心の何処かで、有り得ないこの世界を受け入れる準備を整え始めていたのだろう。
或いは自我を守るために、本能が気持ちを切り替えることを強要したのかもしれない。
どちらにせよ、人間の心とは随分と都合良く出来ているものらしい。
生物の根幹部に備わる自己保存能力はかくも偉大だ。
取り分け、人間のソレは生物の中でもかなり優秀な部類に入るのだと、大学の講義で習ったことがある。
専攻外ではあるが何かの役に立つかと、単なる興味本位で臨床心理学を受講しておいたのだが……。
「まさか、異世界でそれを思い出すことになるとは、な……」
皮肉げな苦笑を一つ浮かべて、ヘリアンは両手を眼前に翳した。
そのまま両の掌を少しだけ顔から遠ざけ――思い切り頬に叩きつける。
バヂィッ、と乾いた音が部屋に響いた。
……ちょっと勢いが強すぎたかもしれない。
けれど、おかげで、目は覚めた。
「――なら、考えろ」
現実逃避は既に終えた。
ならば、ここからは現実と向き合うべき時間だ。
現実には有り得ない筈のこの状況を正しく認識すべき時だ。
顔を上げろ。
前を向け。
出来ることから手をつけて具体的な行動へ繋げろ。
ここでウジウジと悩んでいたところで、事態が解決するわけもないのだ。
「となれば、まず考えるべきは」
目的。
これから行動するにあたっての方針の決定だ。
「何故こうなったのかの原因追求……、いや」
そうではない。
それはあくまで目的達成の過程であって、俺の目的自体は――。
「――現実世界への帰還」
そうだ。
俺は帰りたい。
現実に戻りたい。
確かにゲーム[タクティクス・クロニクル]には青春の殆どを捧げた。
どこぞの掲示板では廃人候補にリストアップされたこともある。各ワールドの覇者ともなれば大なり小なりはあれ皆同じようなものだろう。
だけど、少なくともヘリアン自身の自覚としては廃人ではない。
仮想世界に人生そのものを捧げる覚悟などしていない。
あくまで娯楽として、ゲームとして、[タクティクス・クロニクル]という箱庭を愛したのだ。
だから俺は、現実世界に帰りたい。
その為には。
「帰還方法を探す」
ではどうやって探すのか。
調査のための手掛かりは今のところ無い。
そこで『何故転移したのか』という冒頭の疑問に立ち返ることになるが、アルキマイラが出現した場所……つまり深淵森の何らかが原因になったのではなかろうか、という誰でも思いつきそうな陳腐な予想しか出てこない。
「……こんなことになるなら、もっとその手の本を読んでおくべきだったな」
再びブームが訪れたおかげか、ネット広告や本屋などで異世界ものの宣伝を目にする機会は多かったが、それらを読む時間があればゲームをしていたような自分である。異世界転移を取り扱った本は、数冊気紛れに読んだだけだった。
それも大して興味も無かったヘリアンは、友人から借りたその本を流し読みしたに過ぎず、その手の知識は断片的にしか存在しない。
異世界転生や異世界転移を取り扱ったその手の本をもっと読み込んでいれば、何らかのヒントがあったかもしれないのに――と考えるのは所謂ゲーム脳、漫画脳なのだろうか。
既に死語と化して久しいどころか化石のような言葉だが、しかしゲームや漫画でしか起きないような事が実際に我が身に起きているのだ。ならばゲームや漫画をヒントにしようという発想は、一考の価値ぐらいはあるだろう。
とは言え後悔先に立たず。
それらについて、表面的な知識しか持っていない自分では良い発想は……いや。
「……そうだ。何も俺本人が知らなくてもいい。俺が知らないなら、知っている奴に聞けばいい」
思い至る。
自分だけではないのではないかと。
他にも異世界転移した人間がいるのではないかという可能性に、思い至る。
一昔前に本屋の店頭で猛威を奮ったその手の創作物では、『本来の転移者に巻き込まれて転移した』といった物語が確かにあった筈だ。
ブーム再燃に乗っかって再販されたこともあり、最近の広告でやたらと宣伝されていたので、そういうストーリーの本が出ていたことは記憶に残っている。自分もひょっとすれば、そういう巻き込まれポジションではあるまいか。
「可能性としては、有りそうだよな……?」
ヘリアンは、自分を特別な人間などとは思っていない。
中学や高校のクラスでは委員長やリーダーの役割などには縁が無く、やったとしても副委員長のようなサポート役しかしたことがない。
部活に打ち込んでいたわけでもなく、当然というか帰宅部であり、何らかの表彰を受けたような記憶も無い。
つまるところ、自分は舞台のセンターで眩いスポットライトを独り占めに出来るような人間ではないのだ。それは今まで生きていた十八年あまりの人生の中で証明されている。
だから、転移したのが自分だけなどとは思わない。思えない。
自分が転移したのだから、他のプレイヤーも転移している可能性は十分にある。
となれば短期的目標の一つとしては、
「協力者の……いや、同じような境遇にあった人との接触。そう、異世界転移した人達の、捜索……」
異世界人が自分だけでなければ、何らかの痕跡があるはずだ。
周囲にはそれらしきモノは見当たらないが、全く別の場所に飛ばされている可能性だってある。そんな彼、あるいは彼女が存在するならば協力し合える筈だ。
しかし、もし同じ境遇の者が存在しなかったとしたら――この世界に自分一人だけなどと考えたくもないが――帰還方法を一から自力で探さなければいけないだろう。
その場合はこの世界で深淵森や転移現象について調査を行い、帰還方法の模索を進めることになるだろうか。
だが何にせよ、まずはこの世界の事を知らなければ話にならない。
……よし。
細かい事は後で詰めるとして方針を固める。
まず、最終目的は『現実世界への帰還』。
その為の短期的目標の一つとして『異世界転移者の捜索』。
他の転移者が見つからなかった場合は『帰還方法の自力模索』。
更にそれらを達成する為の足がかりとして『この世界の情報収集』。
こんなところか。
「……いや、もう一つ」
ああ、そうだ。
そういえばもう一つだけ。
決して忘れてはならない重大な。
今後意識し続けなければいけない大原則があった。
それは『生き延びること』だ。
俺は死にたくない。
こんな世界で死にたくない。
死ぬのなら、せめて現実世界で死にたい。
家族も友人も居ないこんな世界で独り死ぬなんて耐えられない。
「……ッ」
両腕で身を抱くようにして、勝手に震えだす身体を押さえ込む。
思い出すのは先程身を以って体感した“死”だ。
あれは、怖かった。
心の底から怖かった。
怖くない者など居ないだろう。
復活こそしたものの、アレは紛れもない死の感覚だった。
貴様だけは道連れにしてやるという殺気。
実際に暴力を振るわれるという恐怖。
ちっぽけな人間では抗えるわけもない絶望感。
目の前に迫りくる凶器。
鼻先に漂う死臭。
豆腐を砕くかのように弾け飛んだ頭部と無造作にぶち撒けられた脳漿。
そしてなにより――ヘリアンという“命”が貪られる死の感覚。
おぞましい感覚だった。
言葉で表現なんて出来ない。
ご丁寧にもスローモーションで体験させられた“死”は、人類の言語で表現可能な領域を超えていた。
もうあんなのはご免だ。
一瞬で死ねたからか痛みこそ感じなかったものの、アレは拷問も同然だ。
復活出来るとは言え、もう二度と死にたくない。
自分の精神が何度もアレに耐えられるとは思えない。
それに――
「復活回数は有限……。あと5回死ねば、そこで終わり……」
ゲーム[タクティクス・クロニクル]において、王の死=即ゲームオーバーの図式は成立しない。デスペナルティがあるものの、王は復活することが出来る。
確かにそれはそうだ。
だが、そのデスペナルティが問題で、王が死ねば軍に所属する魔物の全ステータスが2ランク減少する状態異常にかかるのだ。これはほぼ戦力半減を意味した。また、減少したステータスが元に戻るまで24時間を要する。
ステータスランクは例外を除けばSが最高な為、どんなに強力な魔物であろうと、王が2回死亡した時点で全ステータスがDランク以下にまで落ち込むということになる。この時点で戦力としては無きも同然だ。
更に“命の貯蔵”は最大6つまで。
先程死んだ為、残りは5つだ。
後5回死ねばゲームオーバー条件に該当する。
ゲームでは死亡後に高額課金する事で“命の補充”が出来たが、システムサイトに繋がらなくなった今ではそれも叶わない。
――そして[タクティクス・クロニクル]において、ゲームオーバーとは即ち、セーブデータの削除を意味した。
そこに情け容赦などは無く、データを復活させる課金アイテムなどもない。
運営する会社は、いくらクレームが来ようが『ゲームオーバー=終わり』という信念に似た考えを頑なに守り続けている。簡単にゲームオーバーにならないよう幾つかの救済措置があるものの、一度ゲームオーバーになれば取り返しはつかない。
泣こうが喚こうが、ゲームオーバーにより削除されたデータは復活しないのだ。
「じゃあ、この世界でゲームオーバーになったら、俺は、どうなる……?」
考えたくもないが。
其処に待っているものが、ヘリアンにとっての本当の“死”なのだろう。
「……他にも、ゲームオーバー条件はある」
大別すれば条件は3つ。
①反逆者により首都を掌握されれば、革命成功判定となりゲームオーバー。
②全ての都市の支配権を失えば、滅亡判定となりゲームオーバー。
③“命の貯蔵”を使い切れば蘇生出来ず、完全死亡判定となりゲームオーバー。
この3つだ。
要するに“王の国”が滅べばゲームオーバーということだ。
中でも『条件①』の、反逆者による革命が一番やばい。
一度覇権を握ってさえしまえば他条件によるゲームオーバーは発生しにくいが、どんなに栄華を誇ろうと、反逆者に首都を制圧されてしまえば一瞬で滅ぶのだ。
「オーガの一派はともかく……すぐ裏切られるようなことは、無いはずだ」
ヘリアンは、多少効率が悪くなろうとも善政を布くよう意識していた。
その甲斐あって、国民の【忠誠心】と【幸福度】はかなり高いと言える。
中でも軍団長らの【忠誠心】には人一倍気を使ってきた。
城の防備もしっかりと固めており、並の魔物が反乱を起こしたところで首都が完全掌握される事態にはそうそうならないだろう。
だが同時に、この世界で“王”として見限られようものなら、あっさりと玉座を追われるのではないかとの不安を抱いているのもまた事実だった。
ヘリアンはアルキマイラの王だ。
弱肉強食の摂理に生きる魔物達の王だ。
世界の覇者として万魔の軍を率いる王だ。
しかし一方で、“王ではないヘリアン”などただの一般人でしかない。
王の仮面を剥がされれば、そこには軍団長どころかゴブリンにすらあっさりと撲殺される最弱の男が残るだけである。
だからヘリアンは王でなくてはならない。名立たる魔物を前にして、王の仮面を被り続けなければならない。そうでなくては、この万魔の国の王に足る存在で在り続けなければ、自分はもう、安穏と生きていくことすら出来ないのだ――。
「――――、」
――ダメだ。
今、これ以上この問題について考えるのはダメだ。
これを考え続ければ動けなくなる。
恐怖で何も出来なくなってしまう。
軍団長や魔物達と何も話せなくなってしまう。
それだけはまずい。
だから建設的な事を考えろ。
これからどうすべきかを己に問え。
前に進んで歩いて行く為に思考を費やせ。
ここで心折れている暇などないのだ。
「……他に、考える、べき、こと」
別の何かを思考しなければならない。
建設的で、かつ逃避ではない何か。
そう、例えば。
先程固めた方針の一つである『この世界の情報収集』に含まれる事でもあるが。
この世界における【ヘリアン】の能力検証、だとか。
「……復活することは、出来た。ゲームと同じように【ヘリアン】は蘇生した」
では。
他にゲームで出来ていた能力についてはどうだろう?
「[タクティクス・クロニクル]と、この世界との違いは……? ゲーム内で使えていた王の能力については、今でも全て使えるのか?」
まず、代表的な各種仮想窓は使えた。
戦闘支援や情報参照に使う<戦術>。
情報共有などの機能を使用する<権能>。
遠隔地でも意思疎通を可能とする<通信>。
ログ参照やカメラ等を使用する<基本>。
少なくともこれらは使用可能だ。
他人からは仮想窓が見えない点も、[タクティクス・クロニクル]と同様である。
他に常用する仮想窓としては、輝度調整や音声調整等の細かい設定を行ったり、ログアウトやGMコールを行う為の設定仮想窓があるが……これについては今は殆ど意味が無い。
「仮想窓:開錠」
口語操作で呼び出された仮想窓が空中に投影される。
半透明の画面を指で操作すると、拠点情報を呼び出すことが出来た。
直接操作、思考操作、口語操作。
仮想窓の呼び出し操作に関してはこの三種に大別されるが、いずれもゲーム通り機能するようだ。
試しに思考操作で首都の<拠点情報>を閲覧してみると、探索に出る前に確認した時と比べて幸福度が悪化しているのが分かった。これは、反乱発生による影響も含まれているのだろうが……。
「実際には探索に出る前の時点で、ある程度悪化してたんだろうな……」
確かに、探索に出る前に確認した幸福度は転移前後で変化が殆ど無かった。
しかしそれは幸福度が減少していなかったのではなく、減少したという事実をヘリアンが情報として把握出来ていなかった為、ステータス画面に反映されていなかったのだろう。
しかし、現在では第六軍団を中心とした国内の情報収集活動により最新の情報が収集され、その結果が<拠点情報>にようやく反映されたというわけだ。
ゲーム[タクティクス・クロニクル]では“知ったこと”しか可視化出来ない。
現実でもニュースや新聞、人伝に聞いて情報収集をするのと同様に、プレイヤーも能動的に情報を集める必要がある。
現実世界の現代日本では、政治家が古い情報や掴まされた偽情報を元に判断した結果、地位を失いかねないようなとんでもない失敗をやらかしてテレビニュースを騒がせることがあるが、これは[タクティクス・クロニクル]の王にも同様のことが言えた。
また、ひとえに幸福度と言っても、実際にはそれを構成する複数の要素――ゲーム的に言えば細分化された各種非公開数値情報――が裏で存在する。
その為、プレイヤー自身が、幸福度が増減した原因を推察する必要があるのだが……今回の場合は、転移による影響で市民が不安がったり、一連の反乱騒動により減少したのだろうとアタリをつける。
国民に対してアンケートを取ったり、第六軍団に更なる詳細情報の収集を命じれば原因追求も可能だが、今はそこまでする必要はない。
「原因が分かったところで、今すぐどうこう出来るような問題じゃないしな……」
後回しにする。
今は現状の把握が最優先だ。
次は、
「<情報共有>に関して」
これも[タクティクス・クロニクル]と同様だった。
近接範囲内……五十メートル以内に存在する配下については、情報共有が自動的に実行されている。
また、一定範囲内……一キロメートル以内に存在する配下からは、ヘリアンから働きかけることで情報共有が手動的に実行可能だった。先程の反乱騒ぎの際に、第六軍団所属のヴァンパイア族に接続したことで、それが実証されている。
通常は接続した時点の情報しか反映されないが、接続したままの状態を維持していれば、近接範囲内と同様にリアルタイムで最新の情報に更新され続ける。
同時接続が可能なのは最大八体迄だったが……今もそうであるのかは検証する必要があるだろう。
戦闘状態下限定の情報共有能力についても、同様に検証が必要だ。
プレイヤーと同様の戦闘に参加している配下の中から最大八体迄、という制約があるものの、どんなに距離が離れていようとも情報共有をする事が可能だ。しかも近接範囲内の場合と同様に、リアルタイムで情報が更新され続ける。
先程の探索時での戦闘では、隠密兵も含めて全ての配下が間近に居たので、この能力が使えるのかどうかは別途検証しなければ分からない。
他にも、拠点間での情報共有能力があるが……首都以外の拠点が存在しない現状では意味がない。
「<通信>や<指示>については……一応は機能したな」
バランとは、テキストチャットを使用した通信が出来た。
各配下への指示も、転移直後に行った際には問題なく機能した。
ちなみに、配下に指示を出したからといって、王が望んでいる結果がいつも得られるとは限らない。NPCの性能や性格、状況等により、NPCがどのような形で指示を実行し、どのような結果が得られるのかが変わるのだ。
これについては現実化――と表現して良いのかは怪しいが――した今も同じだが、より注意深く指示をする必要があるだろう。
以前、【知性】のステータスが少々残念な配下に対して、物は試しと敵拠点の偵察任務を命じたことがある。結果として大惨事になった。この世界で同じ過ちを起こせば洒落にならない。
「……<配下蘇生>についてはどうだ?」
[タクティクス・クロニクル]では、プレイヤーだけでなく魔物も蘇生可能だ。
ただし王のそれとは性質がかなり異なり、また制約も多い。
まず、蘇生可能な対象は自国か属国の国民のみに限られる。
例えば野良でレアな魔物を発見した際、捕獲に失敗し勢い余って殺してしまったからといって、それを蘇生することは出来ない。国民ではないからだ。
また、蘇生可能なのはプレイヤーがフルネームを知っている魔物のみだ。
というのも、蘇生対象の指定については候補からの選択式指定ではなく、名前を打ち込む入力式指定を採用している為だ。
一文字でも間違えると蘇生は出来ない。
数万以上の全配下のフルネームを覚えるなど人間業では出来ないので、自然、主要な配下しか蘇生出来ないことになる。
更に、死亡してから24時間以上経過した魔物も蘇生対象外になる。
仮に百万体の配下のフルネームを覚えていたとしても、その名前を入力しているだけで24時間など簡単に過ぎてしまう。
そして最後の制約として、蘇生可能回数には上限が設けられている。
一体の配下につき蘇生回数は二回までだ。
アイテムや装備等で蘇生上限回数を増やすことも出来ず、三回目の死亡はその魔物のキャラクターデータ消失という無慈悲な死が与えられることになる。
ただし転生すればカウントされていた死亡回数は零に戻るので、二回死亡した後に転生させれば再び二回蘇生できる余地が出来る。しかし転生によりLVが1に戻るというデメリットがあるので、やたらと乱用することは出来ない手段だ。
また、転生の儀式は永世中立国にある専用の施設でしか行えなかった事から、恐らくこの世界では不可能なものと思われる。
「使えるか検証……するわけにもいかないよな。これも保留。他には――」
――ぐう。
と、腹が鳴った。
「……………………あぁ」
そういえば。
転移してからこのかた、食事をした覚えがない。
「……こんな状況でも、腹は減るんだな」
当たり前過ぎる自然の摂理だった。
まずは自分の体調管理をしっかりするべき、ということらしい。
一つ苦笑を零して、サイドテーブルに置かれていた、唯一部屋の外に音を伝えることの出来る呼鈴を鳴らす。
三秒と経たずに静々とノックが鳴らされ、リーヴェが入ってきた。




