008 レミー魔法商店
新キャラ登場です
『始まりの洞窟 ダンジョンマスターの撃破が確認されました。ハウジングエリアを開放します。』
ハウジングってネトゲとかでよくあるあのハウジングのことかっ!?
家具集めや庭具の配置、ずぼらな自分でもゲームの中ではあら不思議! 気分は某リフォーム番組の匠になってしまう。
共に築こう理想郷。
某番組のBGMが脳内再生される中、広間が光に包まれる。
なんということでしょう!
現れたものはダンジョンの中とは思えない光景だった。
リッチと戦った墓地はどこへやら、だだっ広い平地が広がっている。空もあれば森もある。
平地の片隅には二階建てのこじんまりとした一軒家が建っていた。
「せ、先輩! ハウジングってあのハウジングですか! テンション上がってきましたよっ」
「セバスチャンから聞いていた通りだわっ! まずはあの一軒家に向かうわよっ」
「はいっ!」
先輩はズンズンと一軒家へ向けて歩き出す。タツヤ君はその後ろをウキウキとついていく。
ていうかセバスチャンてあのセバスチャンですか? 執事ってやつ?
もしかすると先輩はお嬢様だったりするのだろうか。
もちろんタツヤ君はごく一般的な中流家庭の生まれである。庶民オブ庶民だ。
身分違いの恋、いいじゃないか。ドンと来い。恋だけに。
一軒家には入り口に看板がかけられており、”レミーの魔法商店”と書かれていた。
「たのもーっ!」
お店にはいるときの掛け声じゃないと思いますよ先輩っ!
店内は魔法商店という名前の通り、漢方のようなものから動物の身体の一部など、胡散臭そうなもので溢れていた。棚の一角には魔法使い用の装備なのだろうか、ローブや杖なども陳列されている。
興味深かったのは本棚だ。初級魔術入門や、初級錬金術師入門などオタク心をくすぐる書籍で溢れている。MPが一桁の自分でもこれで勉強すればいずれ魔法が使えるようになるんだろうか。撃ってみたいぞ火炎弾ファイアボール。
ややあって、店の奥からパタパタと人が近づいてくる音がした。
おそらく店主であるレミーさんだろう。名前は看板で予習済みだ。
そう思って足音の方に目をやると、そこに立っていたのは身長百三十センチほどの幼女だった。
髪の色はブロンドで、ずぼらそうなボサボサのロングヘヤーに紫色の瞳をしている。小さな身体は漆黒のローブに包まれており、ハロウィンのコスプレ幼女を彷彿とさせた。
残念ながらタツヤ君にはロリの毛はないが、この子はとても可愛く見える。危険な道に目覚めてしまいそうだぜ。
「さっそくおでましか。まずはこれを受け取るんじゃ」
幼女に似合わぬ口調で気だるそうに言葉を発すると、彼女は先輩に一つのリングを差し出した。
「始まりの洞窟クリア報酬、封印の指輪モデル:僧侶じゃ」
「ありがとうっ! 確かに受け取ったわ」
先輩の説明を思い出すと、俺の指輪はモデル:騎士で騎士の能力を行使できると言っていたな。
ということは、あの指輪をはめれば僧侶の力を使えるようになるのだろう。
僧侶というからには回復とかできるんだろうか。それなら僧侶は女の子がいい。女医さん最高。ジャスティスだ。
ところで、レミーさんはまだだろうか。
もしかしたら店番を自分の子供にまかせてお出かけなんてしてるのかもしれない。
こんな可愛い幼女を一人っきりにするなんて色々と危ない気がするんだけれどな。大体大事なクリア報酬を渡すのを子供に任せるってのもいただけない。
まあ指輪の中らしいし、外の世界とは勝手が違って当たり前なのだが。
「派手に首が飛んでいたから心配していたのだけど、大丈夫そうね」
首が飛んでいた? 誰の?
「まさかあそこから折れた剣が出てくるとはのう。棍棒であれば対処はできたんじゃが。外見はパっとしないが、そこそこ見込みはありそうじゃな」
そう言って幼女はこちらへと視線を向けてくる。
ま、まさか。この幼女は。
可愛い顔がニヤリと、悪戯っぽい笑みに染まる。
「ダンジョンマスター、リッチのレミーじゃ。これからは魔法商店の店主として力を貸してやろう」
「あ、あなたがさっきのリッチですって? 骸骨じゃないし、背も高かったはずですよ! 声とかダンディーだったし!」
「あれはわしの戦闘用フォームじゃよ。時の秘術によって維持しているこの身体は脳みそが若く、やわらかい発想ができるから研究には向いているのじゃが、ああいう戦闘には不向きでのう」
さらっと語られる時の秘術。知らず知らずにこんなに愛らしい幼女の首を跳ねていたとは。
知らずにやったとはいえ、なんだか罪悪感が生まれてしまう。
ていうかこの幼女何歳なんだ?
「そう申し訳無さそうな顔をするでない! わしだってお前を吹き飛ばそうとしたであろう。爆ぜろ! とな」
「そういえばそうでしたね。アレは痛かったですよ」
「殺す気で撃ったのじゃが、痛かった程度で済まされては面目が立たんわい」
「火炎爆裂はそこそこ上級の魔法なのよ? 私だってヒヤヒヤしたんだからっ」
先輩の心配そうな顔、嬉しかったなあ。美少女に心配されることは嬉しいことなんだと、今日初めて知りましたよ。
「ところでレミーさん、一つお尋ねしたいことがあるんですが良いですか?」
「わしに答えられることなら、構わんよ」
横には先輩もいるし、一応相手は女性だ。聞いてはいけないことだと理性ではわかっている。
それでも好奇心には逆らえなかった。
「レミーさんて本当はおいくつなんですか?」
「レディーに歳を尋ねるとは、失礼なやつじゃのう。答えはもちろん秘密じゃよ」
答えは当然の如くシークレット。しかしながらこの反応。こいつはアレだ、ロリババアというやつだ。
危険な道などどこ吹く風か、完全合法安全ロリ。
異性として好意を抱いたとしても問題もないわけだ。自身に芽生えつつあったあったロリータ・コンプレックスを打ち倒し、心置きなくロリババアを愛でる気持ちを受け入れる。
俺はロリコンじゃない。相手はババアだ。合法だ。
「なんじゃなんじゃ、気持ちの悪い顔をしおって。もしやおぬし、そういうことか? 次は好みの異性のタイプでもききたいかのう?」
レミーーは目を半開きにして妖艶な表情を浮かべた。外見は幼女なのに顔だけは完全に女のソレだ。
腰に手をあてセクシーポーズまでとっているではないか。幼女ボディなのにそこそこ艶めかしいぞ。
な、なんだこのロリババア。もしかして心が読まれているのかっ!?
「は、話の途中で悪いんだけどっ! そ、そ、そ、そろそろ帰るわよっ! さすがに今日は疲れたわっ!」
不機嫌そうに声をあげた先輩は俺の手を掴むと、そのまま店を後にした。
恐るべしロリババア。あの顔は完全に肉食獣ビッチの顔だ。薄い本で何度も目にしたことがあるぞ。
童貞としては大変に興味が有るのだが、先輩が疲れているのでは仕方がない。
大体こっちにきて十時間ほどはたっている気がする。夕飯に宿題、親にも怒られるかもしれない。なんだか焦ってきた。
「先輩、早く帰りましょう!」
「それがいいわねっ! 全く油断も隙きもないんだからっ」
油断に隙き?なんのことだろう。
そう言うと先輩は、指輪を見つめて帰還の呪文を唱えた。
「帰還!」
先輩の足元に大きな魔法陣があらわれたかと思うとまばゆい光を放ち、目の前が真っ白になる。
数秒後、光が落ち着ついたのであたりを見回してみれば、夕暮れ時の教室に先輩と二人で立っていた。
時計に目をやると、時刻は十七時十分。
先輩との待ち合わせは十七時だったよな。
「もしかして、十分間しか経ってないんですか?」
「良くわかったわね。指輪の中では時間の流れが違うのよ。大体一時間がこっちの一分間なの」
なんという夢のような指輪だろう。指輪の中で睡眠すれば現実でネトゲやり放題じゃないか。
夢の廃人ライフが実現しちゃうぜ。
「だから指輪の中では疲労がたまりにくいのよ。ダンジョンを攻略してもあまり疲れなかったでしょう?」
「確かに、十時間くらい戦っていたはずなのに全然疲れませんでした」
「同じように指輪の中で睡眠をとっても休めないから注意してね。外にある身体が休んでないから意味がないの」
指輪の中に入っていても身体は外にあるから、身体に変化はないということか。
幸か不幸か、廃人ライフは実現できないようである。
「指輪の中に入っているときに身体はどうなってるんですか?」
「目をつぶって動かなくなるだけよ。呼吸はちゃんと行ってくれるの。他人には瞑想でもしているようにみえるんじゃないかしら。ちなみに、その指輪は私の許可がない限り外すことはできないわ」
「先輩から頂いた指輪を外すわけがないじゃないですか」
「なっ、なにいってるのlっ! 当たり前でしょうっ!」
先輩はそう言って突然後ろを振り向いた。
やっぱり俺と目と目を合わあせて話すのは辛いのだろうか。すこし傷つくなあ。
「と、とにかく、これから毎日ダンジョン攻略に付き合いなさいっ! 明日の放課後も教室で待ってること! いいわねっ」
「わかりました」
「それじゃ、また明日っ」
返事をすると、先輩は振り返ることなく教室から出ていった。
明日から毎日、放課後は先輩と……? 思わず口がニヤけてしまう。
手紙から始まり、ゾンビにスケルトン、リッチがロリバアアか。今日は色々あったなぁ。
腹も減ったし、まっすぐ家へ帰るとしよう。