007 VSリッチ
先輩の指示に従い、亡者の集団へと突っ込んでいく。
最初に立ちはだかるのは槍を装備したスケルトンだ。
繰り出された刺突の一撃を盾で横へ受け流し、そのまま接近。棍棒の一撃で軽々と撃破する。
「私も負けてられないわねっ! 紅蓮の火球よ。我が敵を屠れ。【火炎弾】!」
先輩が赤く輝くワンドを振ると、槍スケルトンに続こうとしていたスケルトン達へむかって火の玉が降り注ぐ。
アンデッドが火に弱いのはファンタジーではお約束だが、このダンジョンでも例外ではないようだ。
ファイアボールが当たるやいなや、あっという間に燃え上がって灰になって崩れてしまった。
リッチの生み出したアンデッド軍団はインパクトこそあったものの、所詮は烏合の集。
これなら楽にアイツのところまで辿り着けそうだ。
しかし、リッチも黙ってみているわけではない。
「火の矢よ、我が敵を穿け。 【火矢】!」
リッチの指先から火で作られた五十センチほどの矢がこちらへと飛ばされる。
避けて先輩に当てるわけにも行かないし、試しに殴ってみよう。
「ていっ!」
「な、なんじゃとっ!わしの魔法がっ」
棍棒に殴られた火矢は爆散し、焦げ臭い香りがあたりに漂う。
さすがは共にダンジョンを乗り越えた相棒だ、頼りになるぜっ。
残るアンデットはゾンビとスケルトンが混ざった五体ほど。一気に片付けてしまおう。
「【乱れ斬り】!」
「「「カッ!?」」」「「う゛あ゛あ゛っ」」
目にも留まらぬ六連撃でアンデッド達を叩き潰し、勢いをそのままにリッチへと突進する。
「紅蓮の火球よ。我が敵を屠れ。【火炎弾】!」
「やらせないわっ! 母なる大地よ、我らを護りたまえ。【土壁】!」
リッチが火炎弾で俺の突撃を阻もうとした瞬間、先輩の魔法によって土の壁が地面からせり出し、魔法から守ってくれる。
全ての火炎弾を受け止めて土壁は崩れ去った。
その影から、リッチ目掛けてスキルを叩き込む。
「【一閃】!」
「なんのっ!」
渾身の一撃はリッチのスタッフによって受け止められてしまった。
魔法使いのくせになんて腕力してるんだよこの野郎! これがボスってやつなんだろうか。
スタッフと棍棒の凌ぎ合いの最中、ふいに骨だけの右掌が目の前に突き出される。
なんだか判らないがヤバイ! ステータスにお願いだっ!
ステータス、防御力上昇! ステータス、防御力上昇!
答えるように文字が浮かび上がった。
”名前:石橋タツヤ
職業:騎士
レベル:10
【ステータス】
TP:570/800
MP:3/3
STR:2
VIT:2
DEX:1
INT:1
WIS:1
ステータスポイント:0
【スキル】
一閃 消費TP:30
乱れ斬り 消費TP:200
スキルポイント:14”
「爆ぜろ。【火炎爆裂】!」
視界が真っ白になり、激しい耳鳴りがする。
正直痛かったが、深刻なダメージはない。ありがとうステータス!
防御力はVITが関係しているらしい。ついでにTPも五百増えてるじゃないか。
「た、タツヤ!? 大丈夫なのっ!?」
「大丈夫ですっ! ギリギリでVITステータスを上昇させました!」
リッチは俺と先輩のやり取りを眺めるだけで、手を出してくることはなかった。
余裕たっぷりってことかこの野郎! 先輩の前で恥をかかせやがって。
感情のまま、スキルを発動させる。
「一閃!」
「学ばぬやつじゃ!」
またもや棍棒はスタッフに受け止められる。
そうさ、わかっている。次の瞬間、同じように突き出される右掌。
この状況にぴったりの新スキルをお見舞いしてやろう。
眼前に現れる文字とともにお姉さんボイスが頭に響いた。
『タツヤはシールド・バッシュをおぼえた!』
”名前:石橋タツヤ
職業:騎士
レベル:10
【ステータス】
TP:540/800
MP:3/3
STR:2
VIT:2
DEX:1
INT:1
WIS:1
ステータスポイント:0
【スキル】
一閃 消費TP:30
乱れ斬り 消費TP:200
シールド・バッシュ消費TP:100
スキルポイント:9”
例のフリガナを避けるためにカタカナでお願いしてみたのに、そうなるんかーい!
どうして変な技名にばっかりされるんだろうか。日頃の行いが悪いから?
この憤りも込めて、リッチにぶちかましてやるとしよう。
魔法を発動しようとする右掌目掛け、盾を叩きつける。
「爆ぜ――」
「【シールド・バッシュ】!」
リッチの右腕が跳ね上げられ、魔法が天井へ向かって打ち出された。
大きく仰け反るような格好は、まさしく隙きだらけ。
「くっ!」
リッチは体勢を立て直そうとするが、もう遅い。
俺は棍棒を手放し、ベルトに挿した剣を掴んだ。折れたスケルトンの剣を拾っておいて正解だったぜ!
そのまま懐へと入り込み、リッチのアゴ目掛けてスキルを発動させる。
「【一閃】!」
「がああっ!」
手応え十分。クリティカルヒットってやつだろう。
リッチの頭と胴体は無残にもさよならバイバイ。
髑髏が宙を舞う。
「タツヤのくせにやるじゃないのっ」
「先輩の援護のおかげですよ! 土壁がなければ近づけてませんから」
おおう、先輩からお褒めの言葉だ。
タツヤのくせにってのが気になるけれども。うわっ……私の評価、低すぎ……?
スケルトンの剣は技に耐えられなかったのだろう。ボロボロと崩れ去った。
まぁもともと錆びついていた位だし、役目は十分に果たしてくれたよ。ありがとうスケルトンソード。君のことは忘れない。
脳内で友に別れを告げていると、頭にお姉さんボイスが鳴り響いた。
『レベルアップ! タツヤはレベルが上がった。スキルポイントを付与します。』
『始まりの洞窟 ダンジョンマスターの撃破が確認されました。ハウジングエリアを開放します。』
次話は明日の12時ごろ投稿予定です。