004 初めてのダンジョン3
「下の階か……。どうしよう」
ゲームで培った経験から、下の階へと降りることは危険であると感じてしまう。
階が変わればモンスターも強くなり、攻略難易度はグッと高くなるものだ。
まして、今のタツヤ君にはセーブ&ロードなんて便利な機能は搭載されていない。
とりあえず、現在のレベルを確認してみよう。
道すがらかなりの数のゾンビを倒して来たし、そこそこ強くなっているはずだ。
頭の中でレベル、ステータス、レベル、ステータスと念じてみる。
どうやら念は届いたようで、目の前に文字が浮かび上がってきた。
”名前:石橋タツヤ
職業:騎士
レベル:5
【ステータス】
TP:200
MP:2
STR:1
VIT:1
DEX:1
INT:1
WIS:1
ステータスポイント:1
【スキル】
一閃 消費TP:30
スキルポイント:4”
レベルは五になっていた。
TPやMPは増えているが、MPが二って魔法は諦めろってことですか?
ステータスポイントやスキルポイントって取り返しがつかなそうだから嫌いなんだよな。
振り直しは無課金勢にとって高値の花、そもそも振り直しができるのかもわからないし、万が一できたとしても高額な課金を要求されることは日常茶飯事である。
攻略ウィキをみながら綿密な育成計画を立てたいところだ。
ポイントを振り分けないとステータスは変わらない。
でもその振り分けを考えるには先を知らなければならないわけで。
ゾンビ達を相手にする分には強化の必要性は感じられないしな。
「男は度胸。このまま降りてみるか!」
階段の先に先輩が待っていて、ダンジョンはこれでおしまい。
あなたこそ私の騎士様ですっとか言って抱きしめてくれるかもしれない。
そんなくだらない妄想をやんわりと否定しつつ、階段を降った。
* * *
階段は建物にして三階分ほどの長さだった。
辿りついた先は、相変わらずの洞窟である。
しかしながら、ゴツゴツとした岩丸出しだった壁はそこそこ綺麗に掘り進められ、人の手が加えられた雰囲気がある。
一階では灯りが必要だったが、この階層では約十メートル感覚で松明が壁にかけられ、薄暗いながらも灯りを持たずに周囲を見渡すことができるようだ。
松明君とはここでお別れだな。いままでありがとう。
住まいに対して魔物もレベルアップしていそうな雰囲気。
冒険をしている興奮と緊張でドキがムネムネする。
おっかなびっくりと進んでいると、モンスターを発見した。
「あれは……、スケルトンか?」
白骨が直立不動のまま棒立ちしている。
ゾンビとは違って、足腰はしっかりとしているようだ。
しかもその手には金属製の剣と木製の丸い盾が装備されていた。
剣と盾……すごく羨ましい。
ドロップアイテムとして頂くことはできるんだろうか。
相手の戦闘力は未知数だが、棍棒があるので有利だろう。
スケルトンは打撃に弱い、というのがファンタジー世界の常識だ。
不意打ちなどしかけたいところだが、相手はこちらに向かって突っ立ている格好である。
幸いにも敵は一体だ。正々堂々と挑ませて頂こう。
「そこのスケルトン! 立ちはだかるなら容赦はしないぞ!」
なんか勢いで格好つけてしまった。意外とテンションあがってるんだな。
もしかしたら知性があるかもしれないので話しかけてみたのが、存外挑発的なセリフになってしまった。
しっかりと喧嘩を売った気がする。
「カタカタカタ」
相手からの返事はない。なんかカタカタ言っているのが不気味だ。
代わりにこちらへと脚が踏み出される。
剣をもつ腕は垂れたままだが、身体の前に盾がセットされる。
「や、やるのか!」
喧嘩を売っておいて少し及び腰になってしまった。これでテレビのドッキリだったら本当に恥ずかしいな。
この瞬間を生中継、先輩にも笑われたりドン引きされているのかもしれない。
いかんいかん、今は闘いに集中しなくては。
未知の敵と闘う際に大事なことは、相手の戦法を探ることだろう。
タツヤ君は即死系ゲームからこれを学びました。
なにより剣とか向けられたら慎重になるのが人間というものだ。
剣と闘うんだぞ剣とっ! 触れたらスパっと痛いんたぞっ! 決してビビっているわけではない! 絶対にだ!
スケルトンは構えをそのままに、まっすぐとこちらへ歩いてきた。
お互いの手が届く距離に差し掛かるやいなや、剣が振り上げられる。
そのまま特に工夫はなく攻撃が繰り出された。
斬撃を棍棒で受け止める。力はなかなか強いようだ。
棍棒を握る腕がビリビリと痺れてきた。
たまらずスケルトンとの距離を取る。
遠目に見た剣には少しだけビビったものの、近くで見る分には錆びついており、切れ味はあまり良くなさそうだ。
どちらかというと鈍器のような性能だろう。
今の斬撃なら一閃の方が早いはず。
スケルトンはこちらに向かってまたもや歩をすすめ、次なる斬撃を行う心づもりのよう。
ここは待つスタイルで、間合いに差し掛かるやいなや一閃を叩き込んでやろう。
狙うは盾。他の場所を狙おうにも、突き出された盾が非常に邪魔くさい。どうせ突き出されるならそこを狙ってしまえ。
なにより一閃であれば盾ごとでもスケルトンを吹っ飛ばせるような気がする。
骨だから体重も軽そうなどと、軽い気持ちでいたのがいけなかった。
「【一閃】!」
間合いに入ってくるスケルトン目掛けてスキルを放った。
棍棒と盾がぶつかり、派手な音があたりに響く。
スケルトンは少しばかり体勢を崩しかけたものの、しっかりと盾で棍棒を受け止めてみせた。
マジですか。骨だけの身体のどこにそんな力が。
そのまま、先程と同じように剣が振り上げられる。
棍棒が盾によって止められている今、振り下ろされてはたまらない。咄嗟に後ろへ飛んで距離をとった。
「なかなかやるじゃないかスケルトン野郎!」
「カタカタ」
笑われたような気がするのは気のせいか?
アゴがカクカク揺れてますよスケルトンさん!
やっぱり下の階層はレベルが違うな。心なしか初見より盾が大きく感じられるぞ。
こうなったらパワーアップだ!もとよりその予定だったのだぜ!
ここは物理をあげて殴ってみよう。
力こそパワーだ。
ステータス、物理攻撃力アップ!と、力強く念じてみる。
すると、目の前に文字が浮かび上がった。
”名前:石橋タツヤ
職業:騎士
レベル:5
【ステータス】
TP:200
MP:2
STR:2
VIT:1
DEX:1
INT:1
WIS:1
ステータスポイント:0
【スキル】
一閃 消費TP:30
スキルポイント:4”
STRが1増えている!
物理といえばSTR!最高に脳筋な感じが堪らない。極振りとかロマンです。
一ポイントでどれだけの変化があるのかはわからないが、棍棒を握る腕に力を込めると先程までとは比較にならない程の迸るエネルギーを感じた。
筋肉モリモリマッチョさんてこんな気分なんだろうか。
よーし見てろよスケルトン。これがお待ちかねのフルパワーですよ!
様子を伺うターンは終わりだ。
素早くスケルトンの間合いに入り込む。
狙いは先程と同じく、眼前に構えられた盾。
大きく感じられた盾がちっぽけな的に見えるのは、全身にみなぎるパワーのおかげだろう。
「【一閃】!」
掛け声と共に放たれた一撃は、速度こそ変わらないものの確実に重さを増している。
今しがたは受け止められた一閃だが、今度は振り抜くことができた。
スケルトンの持っていた盾がダンジョンの壁へと打ち付けられる。
「カッ!?」
当のスケルトンは体勢を崩し、盾を装備していた腕の肘から先が無くなっている。
一撃を受け止めること叶わず、腕ごと千切れてしまったようだ。
ぅ笑えよぉ、スケルトォン!
棍棒を上段に、打ち下ろしの体勢をとる。
スケルトンは残る片腕で剣を水平に構え、受け止めるつもりのようだ。
今度はスキルなしでいってみるか!
「ていっ!」
振り下ろされた棍棒は錆びた剣をへし折って、そのままスケルトンを叩き潰した。