001 リア充への招待状
3/31 改稿しました。
教室からの眺めはまさに夕暮れ。
普段なら昨日録画した深夜アニメを観ている時間である。
絵に描いたような帰宅部である自分が放課後の教室に居残っている理由はただ一つ。
ついに、来てしまったのだ。
リア充への招待状。
俗に言うラブレターというやつだ。
”一年二組石橋タツヤ様へ
あなたに話があります。
本日の放課後十七時に、教室で待っていてください。
高瀬マリナより”
入学して一ヶ月が経っているとはいえ、自分に縁などないであろう三次元女生徒の名前など記憶していない。
可愛らしくもキレイに書かれた女性的な文字がまだ見ぬマリナちゃんへの期待をふくらませる。
現在は十六時五十五分。
予定より少し早く、教室の扉がガラララッと開け放たれた。
「一年二組石橋タツヤさんっ! あ、あなたにお話がありますっ!」
現れたのは身長百五十五センチほど、髪の色は銀色で、姫カットが麗しい。
瞳の色は燃えるような赤色で、キリッとした眉毛が強い意思を感じさせる。
ブレザーの制服をきっちりと着こなしており、胸元には二年生の証である青いリボンが締められていた。
ちなみに、胸の方は控えめである。ていうか、超美少女なんですけど。
「先輩が手紙をくれた高瀬マリナさんでしょうか?」
「二年一組高瀬マリナです。えっと……、ま、まずはこれを受け取ってください」
そうして差し出された手を覗き込んでみると、なんとそこには銀色の指輪がちょこんとのっていた。
いきなりのリングである。
付き合って初日から束縛とか愛が重いぜチクショウ。
差し出された指輪を素直に受け取る。
そして、次に告げられた言葉は全く予想していないものだった。
「た、タツヤ…… 私の、私の騎士になってください!」
「え、ええ? は、はい?」
いきなりの騎士である。
騎士と書いてナイトと読むやつだ。
もしかして先輩はメンタルがヘルスなやつなんだろうか。
軽く受け取ってしまった指輪が手のひらで重さを増していく。
ズシリ、ズシリとめり込んでくるようだ。
とはいえ、マリナ先輩を逃してしまえばリア充になれるチャンスなんて二度とないのかもしれない。
たとえ先輩がメンヘラでもこの腕で抱きしめてあげよう。
我が青春の一ページ目だ。
決めるやいなや、先輩に向かって跪く。
「この石橋タツヤ、高瀬マリナの剣としてこの身を捧げることを誓います。」
やってやったぜこんチクショウ!
騎士とか言われるから黒歴史間違い無しのセリフまで飛びだしてしまったぜ!
剣とかいてつるぎと読んでくれっ!
「あ、ありがとう、タツヤ。それじゃあ、指輪をはめてみてくれますか」
「わかりました」
一度は重く感じたこの指輪も、今ではとても軽やかだ。
これでタツヤ君はリア充さ。オタクライフともさようなら。
いざ、指輪を左手の薬指へとパイルダー・オン。
その瞬間だった。世界が回り始める。
ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。
遠のく意識の中、先程までの美少女はどこへやら、悪戯っぽくジト目になった先輩がぽつりと呟く声が聞こえた気がした。
「はめたわね……、契約成立よっ! 私の騎士として精々がんばりなさい」
視界は完全にブラックアウトし、気づけば薄暗い洞窟に立っていた。
「せ、先輩!?」
当然のように返事はなく、辺りを見回しても先輩の姿はない。
「ここはどこですか!? 誰かいませんか!? マリナせんぱいっ!?」
大声を上げてみたが、効果はなかった。
目の前には洞窟が続いている。後ろを確認してみれば、壁である。
右手の壁にかかる松明を除くと、ただただ暗闇が先へ伸びている。
先輩と教室にいたはずなのに、どうしたことだろう。
十分ほど待機してみたが、人の気配は感じられなかった。
「ここで突っ立っていても仕方がない、先へ進んでみよう」
壁にかかる松明を手に取り、暗闇の先へと進む。
二十メートルほど歩いただろうか、そこには一振りの棍棒が突き立ててあった。
おそらく金属製だ。
バットくらいの大きさだろうか。
棍棒を眺めていると、ナイスミドルな渋めの声が頭に響いてきた。
『騎士への道を歩みしものよ。その証をここに示せ』
あ、頭に直接語りかけて来たっ!?
これは夢か!?
美少女との会話に体力がついていけず、倒れてしまったのか!?
もしかしてテレビのドッキリだったのだろうか。
記憶の最後にこびり付いた意地悪そうな先輩のジト目を思い出す。
いや、自分の彼女を疑うなんて最低な行為だ。
ちゃんと先輩は言ってくれていた。私の騎士としてがんばりなさいと。
それならば、さっきの声の通りに証をたててやろうじゃないかっ!
「とりあえず、今はこのビッグウェーブに乗るしかないぜ!」
自らを奮い立たせ、棍棒を手に洞窟の奥へ向かった。
なろう初投稿ですが毎日更新できるようがんばります。