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どうやら異世界から来たようです  作者: るろうず
第一章 プロローグ
8/28

異味


早いもので、居候の滞在期間は1ヶ月が過ぎた。


郵便ポストには支払いのハガキやら、スーパーのチラシやらが入っている。オレはそれに目を通して鞄に仕舞った。


「お帰りフェリオナ。どこ行ってたの?」


「図書館だ」


フェリオナは一人でもテレビ部屋に通い、DVDビデオの鑑賞を続けているらしい。

…………えぇ、鑑賞です。しっかり感想までノートに書いちゃってるんですよ。ここでこの音楽を流すのは意外だったとか。結構恋愛に鈍いらしく、どうしてこの男は恥ずかしがっているのかとか、どうしてこの二人はキスをしたのかとかも遠慮なく訊いてくるんです。うん、恥ずかしい。説明するこっちが恥ずかしい!


図書館の人達には、『最近日本に来たばかりで日本語を勉強してるんですよー』とか適当に説明した。ご迷惑お掛けします。ちゃんと1日2時間と定めてはいるが、粗相がないか心配だ。



「そっか。今日はオムライスだから手伝ってね」


「………………………………分かった」


青ざめた顔で、フェリオナは顎を引く。



オレはその様子見るなり、先日の出来事を思い起こさせた。





『そう言えばさ、フェリって何か料理作れるの?』


ロリが家庭科実習でクッキーを焼いて持ち帰ってきた日のことだ。ふと思った疑問を口にしてみた。


『……焼けば大抵たいテいは料理と言えるだロう?』


なんて、不安な発言をしたので試しに、卵焼きを作らせてみたのだが。

___うん、色んな意味で予想を裏切ってくれるよねフェリオナって……と、思わず感心してしまった。


殻を割らないでそのままフライパンへGo!



マジすか。



その時のロリの驚愕顔といったら、もうカワ___おっといけね、現実見なきゃ。





___まぁ、そういう訳で。レシピを教えている最中だ。


ゆで卵から始まって、今ではカレーライスが作れる。…………オレと一緒の時はね。

卵焼きはまだ苦手らしい。

割る作業に難儀しているのだ。最初オレが付き添っていた時は、5個も中身を噴出していた。気を抜くと、握り潰すらしい。台にトントンして開いて割るんだぞ……?

味は………まぁ大目に見よう。ただ、砂糖と塩どっちかにしてくれないだろうか。たまに一緒に混ざっているんだ。










柵の交換は完了している。

以前取り付けていたスチール製の柵の支柱は、床面に根付いた状態だったので、そこを綺麗に除去して専用の接合部品を設置し、新しい支柱を繋げる。__ とかなんとか、作業をしてくれたオジサンが言っていた。


千切れた柵はどうしたかフェリオナに訊いてみると、ずっと何処かに隠していたらしく、わざわざ持ってきてくれた。


『どうやったらそんな風になるんだよ』と、変形した柵を見てオジサンが笑うものだから、『人が降ってきたんですよ〜』と正直に答えてオレも笑った。 フェリオナは顔色が優れないようだ。あははははー。







食事が終わり、風呂も入り、明日の支度もした。いつも通りに過ごす。 ロリは先に就寝していた。

他の二人はというと、食卓に相対して座っている。



フェリオナが、オレの目前に茶色い封筒を置いた。



「………これは?」


「柵の弁償代だ。遅くなっテすまない」


熱心に発音の練習もしたのだろう。随分と自然な口調になった。


…………この短期間で。



封筒の中身を覗く。

この短期間で、30万も。働いてないのに。

一万円札でいっぱいだった。持っているだけで恐ろしい。

いずれ払ってもらおうと思っていた金額……よりも10万以上多い。しかも一括。どうやって集めたか、まぁ見当はついている。


骨董品店。

最初にフェリオナは、その場所を訊いてきた。

5件ほどピックアップして地図に描いたが、役に立ったみたいだ。


「………鎧でも売ったの?」

「いや、飾り物を少し。売ってこいと言われテいたからな」


ああ、そう言えば髪留めがない。髪の一部を束ねていたが。銀細工のバレッタも、売ってしまったのだろうか。


「ポケットに入れテいたのがいけなかったな、いくつか売りものにならなかった。最初は商談もうまく行かなかったんだ。電話も持っていないシ、身分証明証もなかったから成立が出来なくテな。そこに心優しい女性が代理でやってくれたのだ。まぁその代わりにお金頂戴ねと言われたが、それが買取額の半分もいかなくテ。本当に、彼女には感謝せねば」


「…………」


フェリオナはフェリオナで、この1ヶ月間は様々な経験をしていたらしい。


出来ればオレに相談して欲しかったかも。

まぁ、彼なりに考えて稼いでくれたお金だ。素直に受け取ろう。


「ありがとうフェリ、これで助かった」


返済額を超えたお金は、フェリオナの貯金として預かっておこう。もし家を出る事になった際にでも渡すか。しっかり記録せねば。


「それで、フェリオナ。今後はどうしたい? これでオレはあんたに何も咎める事はないし、職に就かせる意味もなくなった」


オレの問に、フェリオナは暫く沈黙し、やがて口を開く。


「………まだ、ここに居させテ欲しい。ここの常識を、もう少し学びたい。それに、人探しもやりたいのだ」


「ああ、そうだったね。オレも少し知り合いに尋ね回っとくよ」


まぁこの程度の会話で、オレとフェリオナは今後の方針が決まったのであった。






「おはようございます。オッチャン、マンガ貸してくれてありがとう」


「おはよう、どうだった?嬢ちゃん楽しんでくれたか」


「大好評だよ。流石オッチャン、趣味のために生きてるだけある」

「あたぼうよ!」


オレは褒め称え、オッチャンは鼻を擦って胸を張った。


オッチャンが経営している飲食店は、この地域に住まうオタクの打ち上げや飲み会をする穴場となっている。2階はその為のフロアとして活躍中だ。まぁ、予約しないといけないんだけども。


「昨夜宴会で使ったんだ。掃除頼む」

「了解」


店内から一旦出て、すぐ横の階段を通って階上へ行く。



「…………さて……」





『ナオト、アイハ。っテるか!』


フェリオナが、言っていた。


息抜きに、腹式呼吸をする。


ナオトとアイハ。それか、ナオト・アイハ。

まず苗字が定かじゃねぇんだよなぁ〜。


「…………しっかり訊かなきゃなぁ、フェリオナぁ〜」


溜め息混じりに愚痴って、オレは空を仰いだ。




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