異感
はてさて。
フェリオナが居座って10日が経ちました。
今 フェリオナには1日400字を漢字ノートに書かせてます。ロリの辞典を与えて分からない言葉をひかせ、それもノートに記録させてます。飲み込みが早いらしく、小テストも今の所1問ミスらしい。
…………ええ、“らしい”のです。
我が妹から受けた報告によると、そうらしいのです。
「フェリおじさん!ここ見た?」
「あぁ、見たぞ。衝撃的だったな!まさかここで裏切っテシまうトハ!」
「薄情者!って思ってたけど、んぅ〜〜ってなった!いいとこ取りだよね!ええ、どっち?ってびっくりした」
「私もだ!もう一度読ミ返シテ、シテやられた気分になったぞ。ああ、ロリよ、トこロで“宣誓”トハ何だ?」
「えーとね___……」
二人の仲が大分よろしいようです。
ええ、趣味が合うことは良いことですよ、ええ。フェリオナの知識が蓄えられてるし、表情も豊かになった。ロリとの話題もあって、しかも和気藹々として、大変嬉しゅうございますよ。本を借りて来たかいがあったというものです。ええ。
…………何か追いてかれてない?
うぉぉぉ!ロリ!近い!フェリオナにくっつき過ぎ!
そんな横に並ばんくともページ見せれるでしょお!?
……絶対に何かあった!この10日間で絶対何かあった!!でないとこんな大男とここまで仲良くなることないっしょ!どうして教えてくれないのロリ様!どうして尋ねると頬染めてんの!!血涙だしちゃうよ兄ちゃん!
「…………フッ」
よし、落ち着こう。クールになるんだオレ。
そうだよ、しょうがないさ。
だってフェリオナのおかげでオレはアルバイト増やしちゃってるもん。柵の件で管理人さんに怒られちゃったけど、お金出すと目の色変えちゃってまぁ。『家庭の事情もあるだろうから、今回は許すよ』ですって。ありがとうございます管理人さん。
あぁ貯金が………。ロリの大学の学費が……。良いよ、高卒したら稼いでやるさ。チクショウ、フェリオナを殴りたい。数十万だぞ!数十万!!遺族年金の何ヶ月分だと思ってるんだ!今んとこ授業料も特待で免除されてるし、親戚の人が仕送りしてくれてるしで何とか食費も経費も抑えてるけど……うん、生活出来てるよ? うん。けどピンチ! 来月から検定あるんだぞー。勉強しなきゃなんだぞ〜。流石に余裕ないヤバいぞ。はよフェリオナを働けるようにしきゃだぞ……。
消灯時間21時にしてやろっかなぁー。色々制限しちゃおっかなぁー。
「二人共、そろそろ出掛けるから準備して」
「はぁい」
「分かった」
仲良し二人はマンガを仕舞い、支度し始める。
今日は土曜日。
大掃除をする為にとっといた休日だ。本来ならこの時間から始めているのだが、フェリオナに宣言した通り図書館へと足を運んだ。
※
木材に本のにおい。独特の静けさが漂った図書館に、足を踏みれる瞬間に神経が鋭くなるような感覚。
___ 久しぶりだ。
昔はよく図書館祭りなどのイベントに参加していた。寝転がって読むと、よく注意されたものだ。今はもう年に1回あるかないかで、滅多に訪れることはないが。
新刊の本棚の配置も変わっている。
視聴覚室__なんていう大層な部屋はなく、ただ板で仕切られた個室で、ヘッドフォンを着けて借りたDVDやビデオをセットして視聴する。
2階から見れば中が丸見えなテレビ部屋に入り、フェリオナとロリは2時間ほど鑑賞をしていた。
その間オレはというと、検定勉強をしている。
今回取得すれば、全商1級が3種目。年を越えてまた簿記検定を受ければ、これで4種目。だがこれらの検定は高校レベルだ。一般レベルの日商を取得せねば、就職の雲行きが怪しくなってくる。受験前には余裕をもって勉強をしたい。
確実に職について、ちゃんとした生活を送るのだ。妹が自由に進路を選べるように。テレビも買って、ドライヤーも買って。なに不自由なく暮らしたい。___……暮らせるかなぁー?
「にぃに、にぃに。借りる本選んだよ」
オレの所に駆け寄ったロリが声を掛けにきた。後ろにはフェリオナが本を抱えて待ってくれている。
ちゃんとルビのある本を見つけたようだ。
「__うん、帰ろっか」
※
帰り道。
図書館からの道のりが3キロ程ある。川沿いの道を通って、オレ達はアパートへと向かっていた。
「そういえば」
ロリは思い立って口を開く。
「フェリおじさん、さっきみた映画。あの魔法はあるの?」
うぉっと?
「変身シテイたやツか?」
「うん」
「そうだな……アラムデュアもあるぞ。ただ、純血ノ人間ガ獣になるような魔法ハ、今ノ所見た事なイ。必ずそうイった血筋を持ったもノガ獣になる」
…………んー? ああ、異世界人っていう設定だっけ。
「へぇ? フェリもマホー使えるんだ?」
「派手なもノでハなイぞ。せイぜイ剣に効果を与えるくらイだ」
オレの質問に、笑ってフェリオナは答える。
「__ああ、剣を振らんくても大丈夫なの? 怠けちゃうんじゃない?」
するとフェリオナの表情が暗くなった。
「……そうだな、鍛錬せねば。そロそロ姉上に怒ラれそうだ」
「___ お姉さんいるんだ?」
「そうだ。図書館で働いている、優秀な姉なのだ」
フェリオナは、そのお姉さんの事を思い出しているらしく、視線が遠い。
…………姉は、居るんだな。
「つっても、銃刀法違反になるから本物の剣なんて持ち歩いちゃ駄目なんだけどねー」
「そうなノか!?」
…………え、モノホンなの?
愕然とするフェリオナを見るに、そうらしい。ヘェー。
ロリはその一連を見て、口元を隠して後ろを向いている。
こら、笑い声聞こえてるぞロリ。
そんな、ことをしていると。
吠えられた。
犬が、唸りをあげて背後から走ってくる。
野良犬が。
遠くない。気付くのに遅れた。あんな息が荒いのに。
犬が、吠えて。目を血張らせて。汚れた、茶色い犬が。首輪をつけていない犬が。標的はロリ。距離でいえばロリが近い。ロリが、か細い声で悲鳴をあげようとする。したいのに、上手く発せていない。ロリは動かない。動けない。アレは威嚇している。何故? 牙を、剝いている。何故だ。
速い。噛まれる。ロリが? オレの妹が。どうして? だって、ほら、華奢な脚に噛みつこうと___。