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どうやら異世界から来たようです  作者: るろうず
第二章
26/28

異風




戸を開けると、眩い日差しと突風がオレを襲った。


((おー!いいねぇ!森が無くて清々しいよ!!))



「…………そだね」


無駄にはしゃぐドグに辟易としながらも、オレは外を見渡す。



まだ胃に違和感あるし、喉の奥が酸っぱいし熱い。……うがいしたんだけどなぁ。

着ている服はビッショリと濡れていた。べとつくし、風に吹かれて寒い。

はりゃ、濡れたまま二ルミアンヌさんと抱いちゃってたじゃん。……水棲人だし問題ないか?


首を傾げたオレは、気持ちを切り替えて深呼吸をする。



……さて、思い返そう。



防音室には換気口みたいな小さな穴があったけど、あんなんで快適に過ごせるほど良い空気では無かった。変に湿った生暖かい空気に異臭、それから船の揺れ。もう色々あって催された嘔吐は1、2回吐いただけでこれ以上は何も出てこなかった。

朝食が消化されて胃が空っぽになっていたからなのか、オレの体が丈夫に出来ているからなのか、それとも慣用性がよろしいのか。

幸い二ルミアンヌさん達はあの部屋にまだ留まっていて気が付いていない。声を出すのもなるべく我慢したし、バレてない……はず。

まぁ、何はともあれドグ以外にゲロ映像を目撃されなくて良かった。あんなグロいの見られちゃ恥っすよ。

……あ、グロいと言えばツルッパゲ。

しまったなぁ、ここ法律ってどうなってんのかな?正当防衛で許してくんないかなぁ。

ドグも普通にしてたし、この世界が弱肉強食で自己責任が常だと願っておこう。……あれ、オレ生きてけるのか…?




「シュムァルサゥ!キィルェッザァツヘェストツェ!!」

「シュムキュルェ!!!!トゥストトゥギィハゥシェ!!」



もの思いに耽る最中、飛び交う怒号。




「ンガストスゥユシ!!!」

これは防音室を見張ってた同僚さんの声。先程とは違って、お顔が随分と腫れ……おめかしされて可愛いらしい見目になっている。


「ノォニィチュハゥシェギィラハ ンガストツェラゥンガ……ッ!!!!!」


ひとりの水棲人が怒鳴り、特有の水魔法で槍が生成される。

尖端を向けられた同僚さんが、焦燥に言い返す。彼と仲良く縄で縛られたお仲間さん達も、釣られるように口を出した。


「これは、悪事を働いたお子様とそれをお父様が叱るシチュエーションの様に思いますが………どうですか、ドグ先生」


((そうだねぇー、少し惜しいかな。どんなイタズラをしたのか問い質すお父様と、ホラを吹く他所の子供達みたいだよ))


なるほど。尋問なぅってヤツか。



一歩外に出ると、そこでは呪文が飛び交うカオスな現場と化していた。

横には子供3人が居るというのに、 賑やかに大人の話しちゃうなんて余裕だね~。誰ですかこの水棲人。


え、子供達の様子見に行かないのかって? あんな空気の中で行けるかよ。そんな勇者居ねぇから。居たら神だから。


「イェ!ルンガルセィ!!シャトゥキュアル!」


……おっと、巻き添えくらっちまったよ。神の領域がすぐ目の前に……!!!!


オレに迫って質問を投げ掛ける。水棲人は今にも殴りそうな勢いだ。


「クァルシャヌアラヌアサァスゥ?」


あ、ここでも疑問形では語尾の発音は若干高くなるんだー。今更ながらどうでもいい事に気付いてしまった。


「ケィスゥニェイ」


「えと……何言ってるか分かりませんが、ちょっと落ち着きましょう。浅はかな言動は身を滅ぼすと言いますし…!?」


槍の存在感!チョットこっちに寄ってきてない!?



するとドグが彼の目前で浮遊した。

何かを言ったらしい。彼は目を瞑り、槍を収めた。


「ラァユシノォサァヌアリィアロラゥユシ、ルンガルセェ……ケィルェミィシャトゥキュリィフェンガッザァツラゥンガリィアル?」


……まだ怒りの方は収まっていない模様。

ぶっきらぼうに吐き捨てた彼は、わざとらしくオレの肩をぶつけて船内へと真っ直ぐ進んだ。



「……アイツら放置して大丈夫なの?」


(( 問題無いよ。ほら、手首見て。キミらにも使っていた黒い紐があったでしょ?アレは魔力を制御する拘束具なんだよ。何も出来ないさ……それに、ここは海なんだから逃げ場なんかないよ))


「そうなんだ。ここって…………___?」


((どうしたの?))


「……居ない」



ツルッパゲを含め、オレが目にした野郎共は7人だった。

1人は死亡、5人は捕獲された。


足りない。



「エルフが、居ない」


((『エルフ』……リュリアベルの事かい?確かに1人耳長な仁由族が居ないねー?))


「ドグ、通訳お願い」


((ハーイ))



了承した彼女を連れ、同僚さん達に近付く。


「やぁ、キィハウノー。さっきはどうも」


屈んで目線を合わせる。

ふくよかな同僚さんは、眉を顰めて何も言わない。


「ああ、安心してください。先程の件で恨んでなんかいませんよ。今のうちに仕返しー、なんて事はしませんから」


オレは苦笑混じりに伝える。

ここで発揮するのは営業スマイル。やはりアルバイトであれ、何であれ、職場の経験は人生において役に立つ。


どんな相手でも、ちゃんと快く笑顔で接さなきゃね。


「付かぬ事をお伺いしますが。エルフはどこにいらっしゃるのか、教えてくれませんか?」


「……サァサゥスェ、ルゥンガストラゥスェアル」


((『知らんよあんな奴』ですって))


……そっかぁ~。


「____ふぅ……」


しょうがない。



オレは腰を上げ、同僚さんの前髪を掴んでカッターナイフの先を眼球に向ける。


「ゴメンなさい、無知な者でして。少し、頭を働かせてくれませんか?誰でもいいですよ。

……もう1度、訊きますね。 エルフは、どこに、いらっしゃいますか?」


思ったより自分は短気だ。

そんな驚きを内心抱きつつ、少し強めに言ってみた。



あ、この人汗っかきだなぁ。もぅ額にまで汗が浮かんでる。

苛つきと反抗心に怯え。今はこれぐらいしか表情では読み取れない。まぁ眼球を突かれるのは痛いよな。


「……ウァスェギノシュム」


刃先を凝視して、苦し紛れに同僚さんは答える。


((『本当なんだ』〜))


うーん……純粋な人だなぁ。頭を働かせろと言ったのは、今の立場をもう少し考えてくれって意味なんだけど。

オレ『無知』って教えたよ?

こういう状況に追い込まれてるんだから、何か少しでも情報渡して、自分を助けるように交渉とかしないのかな?エルフをあんな奴と吐き捨てる程の関係なんだしさあ。



「キィノシュム!__……」


((『……__クルトゥルスの野郎は魔法使いだ。風系統も得意だったはず。もしかしたら、それで逃げたかもしれない』))


お仲間Aさんが何かを思い出したように、教えてくれた。


「へぇ、クルトゥルスさんは風魔法の凄腕なんですね。ついでに聞きますが、捕獲の際に対象を眠らせるのは魔法によるものですか。それもクルトゥルスさんが?」


((『その通りだ』))


「効果はどのくらいで?」


((『数時間経てば起きる。毒じゃねぇって言ってた』ー))


……ドグよ。

忠実に訳してくれるのは嬉しいが、棒読みは止めてくれ。オモロイから。



「そうでしたか、安心しました。他にお仲間さんはいらっしゃいません?」


((『……居ねぇよ。ここにいるヤツらも、オレも、所詮寄せ集めだ。仲間なんて大層な絆はねぇ。気付けばこんなだ。そういやサゥダラサの奴を見かけねぇな』))



「心中お察しします。ツルッ……サゥダラサさんは、事故でお亡くなりになりました……申し訳ございません」



眉を顰めて目を伏せる。声量はなるべく抑えて。次の一言目は、ゆっくりと。少し間をとり、最後も弱々しく発する。気まずそうな顔で。決して口角を上げるな。


「 ___……では、再度確認させていただきますね……。あなた方は雇われた身であって、何も知らない。……気付けばこんな事をさせられ、必死だったと。大変ですね……。あなた方の推測では、子供達はどうなると思いましたか?」


((『……ウラで売るんじゃねぇか? 不法だが、奴隷は沢山居るんだ。バレねぇと思ってやってるんだろうさ』))


やはり人身売買。奴隷制度は有り。しかも密輸とかいう。正規な法律で取り締まっているだとよ!!


これ以上は何も知らない様子だ。何か聞いても無駄な気がしてきたな。


「そうですか、ご協力ありがとうございます。スミマセン、無理に付き合わせちゃって」



素早く彼から手を離した。続いて謝罪を口にする。



それから、オレはハウードマック君達のもとへ駆けつけた。









彼等の体は冷たかった。


風で冷えたからではない。まだ日没まで時は進んでいない。

液体で染み付いた床の跡を辿れば、甲板の下に水氷の倉があった。

……どうやらここにいた人間は、水棲人を魚か何かかと思っているらしい。

魚も生物、水棲人も生物、異世界版平等主義万歳。お魚美味しいね、人間も美味しいかい?えぇ、食べてない?何言ってるのさ!人間も生物だろう!!


そんな皮肉を言い放ちたい。

目を開き、人に縋ってくる様な表情でオレを眺める犬畜生に。



……ゴメンなさい、ワンちゃんに失礼すぎました。




次話投稿期間 最長6日目です……(汗


遅くなりました、すみません。




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