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どうやら異世界から来たようです  作者: るろうず
第二章
19/28

異語



1日たって、分かった事を思い起こしてみようかなと思う。


まず、ここは『シェルミン キノケソー』と言うらしい。


地名なのか異世界の名前なのかは、分からない。

惑星が丸いことも知らないらしいですもん。


それから、やはりここは水中だった。海の中に出来た国だ。

魔法でなのかは知らないけれど、球の半分を描くように、海の壁が出来ている。文字通りに。

地面は砂が多く見られるが、石で敷き詰めた道もあった。


オレが横になってたあの丸い建物は、城内にあった。あそこは、医務室か何かの部屋だったんだろう。


案内されるがまま門に訪れると、街の風景が良く見えた。

やはり、屋根は角張っていない。城も、街の家々も、まるい構造になっている。

城門の正面、街の隅には、海水浴場が見える。遠くてあまり見分けはつかなかったが、子供達が遊んでいた。



ニルミアンヌさんに付いて行って、辿り着いたのは、彼女の自宅らしかった。その1部屋を、貸してくれるらしい。オレの家の部屋よりも広い。


暫くは、ここで過ごすのだ。



驚くことに、浴室があった。

ただ、浴槽はなく、お湯が溜まった大きな器には入らない。…………良かった、お湯に浸かる習慣してなくて。きっと耐えられなかったかも。あ〜、でもやっぱり風呂入りたい。

というか、上着脱ぎ始めた時に急に入ってきて言うものだから、最初驚いたよ……。






オレが、持っているもの。


まだ血が消えてない穴ぼけの制服に、リュックサック。それから筆記用具、筆箱、ノート、問題集、メモ帳、下敷き、スマートフォンに財布。あと腕時計。


ニルミアンヌさんの話によると、上から落ちて来たらしい。

絵とか描いて、身振り手振りで何とか尋ねてみると、彼女は上を指差し、それから指先を地面へと向けた。


あのギィシャとかいう魔物。アレもどうしたのか尋ねると、彼女は少し考えて、首を傾げていた。


あの様子は、何かを隠していた。

分からないのか、取り逃がしたのか、それとも言葉じゃないと説明出来ないのか。


…………ギィシャについては後回しにしよう。





食事は、流石海の国というべきか、海産物が多い。

ご飯の代わりに『ワゥス』が出されていた。生地を太く伸ばして、小指程の長さにカットされた食べ物だ。ワンタンの皮に似ていると思う。

食器は石を素材として製造されている。食べる時に用いたのは匙だった。給食でよく使われる、M字型の先割れスプーンだ。匙が大きかったり、柄と先の太さは大差なかったりとやはり普段見ている物と若干の違いがある。


……当たり前だ、異世界なんだから。



使い終えた皿は、洗剤を使っていなかった。専用の液体に漬けて、あとはニルミアンヌさんが水を自在に操って汚れを落とす。

オレの出番かと思ったけど、何もできなかったや。



結局 1日中ニルミアンヌさんに甘えてばかりだった。

せめてもの思いで、制服を切った布を利用して清掃を今後とも続けていく事にした。




やっぱり、言葉が分からないのは不便だ。


「…………そんなマンガみたいに上手くいかんかぁ……」


オレ、英語は苦手なんスけど。


「やるしかない……」


やるっきゃねぇよなぁ。


馴染みの無い、半球に凹んだ天井を眺めながら、オレはそんな独り言を口にして瞼を下ろした。





「イェハ〜!キィハウノォ、ルンガルセェ!」


「けハウノー、シャリャ るキュニェラハ ラゥな?」


「ハゥウドマック!」


「ハウードマック、ワスサ アニ。ユシイサス」


「ュシイサスォ!」

出したオレの手を握り、ハウードマックと名乗った少年は歯を見せて笑った。


おぉ、ちょこっと会話出来たぁ…………ニルミアンヌさんと自己紹介の練習した成果が滲み出てるよ……。初対面の時の挨拶は必須だよなぁ。


そんな事を思いながらニルミアンヌさんとハウードマック君が会話しているのを眺め、オレはそこら辺の岩に腰を下ろした。


ニルミアンヌさんの元に、よく子供達が訪れている。親にお使いでも頼まれているのだろう、来た子供等の手には必ず食材の入った籠が握られていた。

そこで何故か、初めて会った子達に『ルンガルセい』と呼ばれる。

…………何故だ? アレか、よそもん的な、居候的な仇名を付けられているのか。まぁ失礼な子達ッ!確かに現在無職な未成年ですけども!つい最近まで勉強と青春を仕事にしてた高校生だったんだよ!…………あれ、青春してたよな? 年齢イコール彼女居ないのは事実だけど、行事以外殆どアルバイトだったけど青春してたよね? 高校生ってもぅ青春のそのものの存在だよね?そうでしょ?ねぇ誰か!うんって言って!なんか淋しい!


雑言終わり。




ノートにハウードマック君の似顔絵を描き、彼の名前を書く。これで8人目。


ニルミアンヌさんは、この地域のアイドルの様な存在だった。

街を案内してもらった時、行く先々で立ち話をしていた。老若男女問わず、声を掛ける者は様々だ。…………ん? 年寄りな人居たっけ……?


「アニ!キュスヘェ〜!」


「くスヘー」


話が終わったらしいハウードマック君は、こちらに手を振って速やかに帰宅して行く。それ見送ったニルミアンヌさんが、オレのいる家へと歩いて戻って来た。


「アニ、くスヘー、ラァクァルノォ」

そう言ってニルミアンヌさんは首を横に振り、「キュスヘェ」と間違いを教えてくれた。


「キュスヘー」

「ニノォ」

言い直すと、彼女は笑顔で肯く。…………まるで先生だ。


「アニ、シャユシノォ ラゥヌアヌォアリィ?」

これは、『今日は何かしたい事はあるのか』と訊いている。

オレは、苦笑して肩を竦めた。これはまだ何も決まっていない時のジャスチャーだ。

その返答に彼女も苦笑し、それから「シャツェ」と言った。これは、『付いてきて』と言っているのだろう。オレは立ち上がり、先に歩きはじめたニルミアンヌさんの横に並ぶ。


数日経ったが、ニルミアンヌさんはずっとオレに付き添ってくれていた。

お蔭で何1つ問題なく過ごせているが、このままなのはいけないだろう。


そんな事を思いながら、オレは知らなかった言葉をノートに書き留めた。






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