悲異 The story of sister
さっき、にぃにから電話がありました。
フェリおじさんに代わったら、バルコニーのすみにおかれていた戦とう服を着て、剣を持ってそのまま下に飛びおりちゃいました。
さっきのにぃにの声。なにか急いでる感じでした。
…………なんでフェリおじさん、剣持って行ったの?
にぃに、もしかして。また、変な人に絡まれたの?
※
コンコンと、玄関の扉がノックされました。
「…………すまない…………」
開けてみると、全身ずぶぬれで、フェリおじさんが帰ってきました。
とりあえず、中に入れます。
玄関につっ立ったままのフェリおじさんに、タオルをわたしました。
「……ねぇ、にぃには?」
気になって聞いてみると、フェリおじさんが、土下座をしました。
「すまない!……すまない……ッ!!」
手を合わせて、フェリおじさんはあやまります。
にぃにが、連れ去られたみたいです。
「え?」
※
にぃにが、居なくなりました。
悲しいです。ものすごく。
泣きたかったけど、ガマンします。
フェリおじさんを、ふろに入れました。川に落ちたそうです。
にぃにに電話してみました。…………出ません。もう一度電話してみました。…………やっぱりダメです。
にぃにはちゃんと、こういう事があると予想していました。
こういうときは、どうするんだって、ちゃんと教えてくれました。
あわてないって、次のこと考えるんだって、言ってました。
「…ぅえぐ…っ………」
…………だから、考えなきゃ。泣いちゃダメ。絶対に泣かないって、わたし決めてるんだもん………。
[腹がへったら飯を食うべし。ちゃんと量も考えること]
「フェリおじさん、お腹へった?」
「………ぁ、いや…」
まだフェリおじさんは暗い顔してます。
「わたしお腹へった。いっしょにご飯、作って食べよ!」
フェリおじさんはうなずいてくれました。
ご飯はあります。ふりかけかけて、いただきしました。
豆ふが期限そろそろです!冷やっこにしました。
キャベツがあります!サラダにしました。
たまごがあったので、スクランブルエッグを作りました!マヨネーズがかくし味です!
二人で、食べました。
ちょっと豆ふ多すぎたかな………。サラダ、ちょっとしおれてて食感がヘンです。スクランブルエッグは、コゲてたけど、おいしかったです。……けど、なんか味がいつもよりうすく感じました。
もっと、うまくならなきゃ。
[情報を集めるべし。わすれないようにメモすること。まずは自分のことから]
わたしは会沢理乃です。今年で10才になります。
わたしはお家にいます。
目の前には、フェリおじさんがいます。
くわしく話を聞いてみました。
魔物があらわれたみたいです。
ギィシャといいます。…………えっと、あらむでゅあと異世界を行き来するらしいです。
いつもは、おとなしいみたいですが、今日は違ったみたいです。そのギィシャちゃんが、にぃにを連れ去っちゃったって。ひどいです。
毒を、ギィシャちゃんにもったらしいです。だから、にげて生きてるはずだと、フェリおじさんは言ってました。
通路を行き来するのがめずらしいだけで、それ以外の魔法とかは、今までの戦いを思い出して見たところ使えないと、フェリおじさんは言ってました。
………にぃに、しぶといので、フェリおじさんを信じます。
メモメモ…………。
「なんだ?その本は」
「“もしものしおり”だよ」
フェリおじさん、首をななめにしました。
…………ホントは、フェリおじさんを怪しんで作ったしおりらしいです。これは、言わないほうがいいかも。
[もしも、お兄ちゃんの方が居なくなったら。まず、信じれる人に相談しましょう]
にぃに、フェリおじさんでもいいよね?
[お金の問題があります。お兄ちゃんの机の引き出しに、通帳があります。足りなくなったらゆう便局の機械を使っておろしましょう。見たことあるからだいじょうぶだよね?]
うん。
ちゃんと、見せてもらいました。
通帳の入ったポーチをテーブルにおきます。判子とメモ帳もありました。
わたしのお小づかいと、合わあせて70万8千4百6円。大っきいんだろうけど、どのぐらいすごいのか想像がつきません。
あ、しおりの最後らへんのページに、必要な支払いの方法と連絡先があります。事細かに書いてくれてます。
メモ帳には、なんでお金をおろしたのかが書いてます。
今月分の家ちんは払ったらしいです。電気と水道にガスは…………自動らしいですねっ。しおりに書いてます。よかった、見たことないので不安でした。
あ、1ヶ月前のに[柵の修理代]って書いてます。フェリおじさんがこわしたのですね。字が他のとくらべて、あらあらしてます。…………にぃに、すごくまいってたんですね。ふふ、そのときの顔が分かる気がします。
_____。
…………にぃに、会いたい。
ちゃんと、生きてるよね? フェリおじさんが言ってたもん。
お父さんみたいに、かってにいっちゃヤダよ?
[衣・食・住を確保できたら。次は自分ができることを、考えましょう。家事、勉強、なんでもいいです。参考は次ページへ]
わたしが、できること。
料理をもっとうまくなること。明日、学校に行って勉強すること。フェリおじさんを元気にさせること。
あ、連絡。
にぃに休むって学校に言わなきゃ。アルバイトの方にも。あ、ちゃんと理由とかどうするんだって書いてる。え、異世界に行ったって言っちゃいけないの?きん急事たいだよ?
…………ダメ、だって。
澄川兄ちゃんに電話して、明日のアルバイトを代わってもらいました。早朝にあるみたいです。ごめんなさい、おねがいします。
[オッチャン]?ってとこにも電話しました。しおりの通りに、しばらく休みますって、言いました。
《…………分かった……。嬢ちゃん、俺のこと覚えてっか?》
そう言われました。
えーと。…………あ![倒れた時に助けた人ダヨー]ってちっちゃく書いてる!それ先に書いてよ!というか言ってよっ。
《…………もももちろん!》
《………アイツいってねぇな…?》
おこってる?おこってる!?
《ごめんなさぃ…………》
《……? あぁ、今のはひとりごとよ!大した意味ねぇ!》
こわいひとりごとだったよ?
《あー……、それより、嬢ちゃん。アイツからは話聞いてるよ。アイツが電話しねぇって事は、その……行っちまったんだな?》
ぇ、にぃに、言うなって書いてるのに言っちゃったの?
《もしもの時は頼むって言われてる。……だから何だ、気軽に相談してくれ。出来ることは何でもするつもりだ。えーと……、嬢ちゃん、直接会って話しできるか?あ、家は知ってるぜ》
フェリおじさんも居るし…………だいじょうぶだよね?
「うん」
《よし。んじゃ明日の夕方にそっち行くから、よろしくな》
「うん、よろしくおねがいします」
電話を切って、ふーってしました。
…………なんか、つかれました。こわい人じゃなければいいけどなぁ。