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どうやら異世界から来たようです  作者: るろうず
第一章 プロローグ
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異執



金属が地面を突き刺し、鐘のように高い音が響いた。

牙を埋めた歯茎に引っ掛かり、あの革製の鞘から曝け出された大剣が、目と鼻の先にある。日光に照らされ、反射して光って見える銀細工が、綺麗だ。


フェリオナが柄を両手で握りしめ、野球の様に大剣を振りきる。口元から喉へと斬られることはなく、剣の樋を歯で噛み締めて、攻撃を凌いだ魔物は、オレ達から距離をとった。


「前に会った犬よりも凶暴だな」


そう吐き捨て、フェリオナは前方を見据えて警戒を保ち、剣を構えた。

いや、あの子と比べちゃアカンて。


「………アイツさっきまでは大人しかったんだ、急に様子がおかしくなって………___フェリオナ、まだここには人が居る。川まで誘導してくれない?」


「分かった」と同時に、横にあったフェリオナの姿が消えた。

前を見ると、距離を保ちながら、魔物と剣を交えている。


「…………」


ぶっちゃけ逃げたい。

だが、あの魔物が気掛かりだ。オレの臭いも姿も覚えられてしまっている。……そのはずだ。………家の方へ逃げるのは愚策。ロリが危険な目に合う可能性が上がるのは目に見えている。フェリオナの力量が高い事を、信じるしかないか……。


オレは、川のある方向へと走りはじめた。1人と1匹も、ちゃんとこちらに向かっている。

決定打である最強の武器なんてない。……犬の餌でも罠にしたら引っ掛からないかなぁ?



「ヘィ、ワンちゃん!遊ぼうぜ!」

オレはそう呼び掛けて、手を大きく振る。こっちを見た。フェリオナはオレの意図を理解してくれたようで、一旦魔物と離れる。

…………ん? 違う? 何してんだと戸惑ったから取り逃しちゃった? だからそんなに叫んで何か言ってんの?

うわぁあ!来た!!


オレは全力逃走。階段を上るのはマジでキツかった。

吠えながら追い掛けて来る魔物は、時々頭を振りながら走っている。その脚も、何故だかぎこちない。興奮状態が抑えられないようだ。畑の網に引っ掛ったり、交通看板の支柱にぶつかったりしている。

…………もしかして焦点が合ってないのか ? だから臭いでオレの方に辿ってる?それなら、説明つくけど………。




予定通り、川沿いの草原まで辿り着く。オレは疲れ果てて倒れた。


___…………後は、頼む。




魔物の背中に刃先が食い込んだ。


慌てて追い掛けてきたフェリオナが、背後から刺しての登場だ。


「はあァァアア……ッ!!!」

気合いの篭った声を上げ、そのまま刃を滑らせて斬り込み口を広げる。

魔物が、呻きながら腕を振った。危うく爪に殺られそうになったフェリオナは、オレの目前まで下がって立ち止まる。


囮作戦成功!敵倒してないけど!!致命傷になったよね!

そう叫んでやりたかったが、そんな気力も無い。


フェリオナは鎧を着ているのだが、胴の部分だけだ。流石に腕当と脛当は着ける暇がなかったらしい。中には、オッチャンから貰ったジャージを上下に着用しており、物凄い違和感あるなぁと、背中を見詰めてオレは思った。



魔物が吠えた。随分お怒りの御様子。距離をとって、地面を蹴りながらこちらを警戒している。


突進する準備をしている様に伺えた。

フェリオナは、態勢を直して息を整える。それから再度、柄を握り直した。紫色の靄が、刃を被っている。これが、フェリオナが言っていた効果を与える魔法。………毒だと助かるが。

オレはいつでも隠れるように、起き上がった。足がフラフラなのは、勘弁してほしい。


___これから、一本勝負。


合図なんてなく、相手の隙を伺う集中力との闘い。息が乱れれば、それが合図の代わりになる。恐らくこれが決め手になってくるだろう。



暫く睨み合った末、先に動いたのは魔物の方だった。

フッと息を吐き、真っ直ぐこちらに向かって来る。速度が速いのはフェリオナも同じ。ほぼ同時に正面へと向かい合った。

100メートル走とほぼ同じ距離。その間3秒で、2つの影が交わる。





「……は?」



この間抜けた声は、オレか。フェリオナか。


魔物は、腹を剣で抉られながらも、フェリオナを跳び越えてオレの所まで駆け寄って来たのだ。

敵に、なりふり構わず。スルーしやがった。


なんだそりゃ。




胴を、咥えられた。オレの、体が。

衝撃で、牙が食い込んでいる。

痛い。

肩が、痛くて、むずがゆい。

フェリオナから逃げているからだ。動く度に地面からの振動が、ネチネチと傷口から伝わってくる。

オレの服から濡れている感触がするのは、汗なのか奴の唾液なのか、それとも血なのか、分からなくなってきた。



「…………う…ぐ……」

悲鳴を上げたいが、逆に傷口に響くので呻くことしか出来ない。

抵抗すれば噛み付く力が強まるだけ。1番傷が深いと思われる右肩に、埋められた牙を片手で掴み、振動を少しでも和らげるように支える。


魔物が、腕を振った。

途端、フェリオナが必死の形相で剣を振るいはじめる。オレは今、視界が横になって、魔物の後ろしか見えていない。

どうして、そんな焦り始めたのか…………あぁ、何となく分かった。


フェリオナが、まるで泣きじゃくる赤子のように表情が崩れている。昔 ロリもそんな顔を____…………。



「必ず!助けに___どうか、それまで耐えて__!!!」

「 フェリ……ッ!!絶対にロリ連れてくんなよ!!?」


言ったと同時に、視界が眩しくなった。目が慣れてくると、既に通路口が小さくなり、消えていく様を眺める。フェリオナの声も、聞こえなくなった。背景は、ここの空間は…………何度見ても気持ち悪い。


あの穴に、あの傷の様な通路に入ったのだ。連れ去られて、しまった。


魔物が声を上げて呼吸している。泣いているようにも見えた。

…………何で、オレを食わないのだろう。死んでると思っているのか?



あ。


…………ロリに、ご飯作ってやっていない。

検定の、結果報告も受けてない。

明日は早朝のアルバイトが、あるのに。………澄川達と一緒に昼食とるって。……了承、しちゃったのに。


____あぁ、クソ。


……… オレはこれから、あの日本じゃない、地球でもない、何処か遠くの世界に行くんだろうなぁ。


いや、それ以前に。

天国か地獄か。…………生きてるかなぁ?





そんな事を考えて、オレの意識は途切れた。






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