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どうやら異世界から来たようです  作者: るろうず
第一章 プロローグ
14/28

異物



傷口が、大きく開いていく。


爪が見え、牙が見え、毛が見えて___全体像が、ここから見える。


アレは、魔物という動物なのだろうか?

最初は、狼を思い出した。毛色が、黒い狼に似ているからだ。だが毛の生え方はライオンのようだった。鬣があるからだ。佇まいも、何だか似ている。

今は、その様にしか視えない。

アレが、ギーシャ何とか?


叫び声が聞こえないのは、恐らく屋上に誰も人が通っていないからなのだろうか?…………そっか、お昼過ぎたのか。みんな腹空かせてるから、今はあまり外に出歩いてないのか?

辺りを見る。あ、歩きスマホをしてる人。自転車に乗って、前方しか見えていない人。

車の後ろ席に乗った子供が気付いて見ていたが、そのまま走り去って行く。向かいの歩道でカップルが気付いて指差していたが、何かの置物だと思ったのか、別の話に切り替える。


___あぁ、つまりアレは幻じゃないってわけだ。


通信中の電子音が、酷くうるさい。


通路が。傷が、狭まり消失してしまった。



…………何故だろう、何か魔物の顔がこっちを向いてる気がする。

試しに前に歩いてみた。


「_____…………」



あぁ、ヤバい。


人のいなさ気な道を選んで、オレは全力でダッシュする。



《…………はぃ…、にぃに? どうしたの》


寝てたなロリっち。


「……ロリッ! フェリオナに代わって…ッ!急ぎで頼む!!」


《………フェリおじさん!……___》


流石オレの妹!察しが良くて助かる!!


後ろを振り向いてみた。ヤツは、まだ屋上に居る。


…………スーパーの裏側周ったのに何でこっち見てんの!!!あ、そこ車通る___……って…………下りてきた!来るぅ!!コッチ来てるゥ!!!


《アニ、どうした?理乃が慌てて__》

「どうしたも何も………! ハァ…っ…………魔物?だっけ?! 何か見た事がありまくる、所から現れたんだけどッ!!」


《まことか!》

「まことですッ!!!」


…………あぁ……足音が聴こえてきたぁ!!!!


「か……!…………はぁ!…………川沿い!そっち向かってるから…………!」

ヤベぇ口の中が乾いてきた。

《分かった 今行く!》

「お願いします!!!!」


電話を切り、走ることに専念する。

右折し、建物に隠れながら逃げた。

たまに、人の声が聴こえるのだが、構わず逃げる。ヤツはしつこくオレ目掛けて、追いかけて来ているからだ。

…………あっ!屋根に乗っかった!いーけないんだぁ〜!!!ズルいぞコンニャロ!


はぁ、餌になった気分だ…………。




「はぁ、ふぅ…………っ……」


壁を背に、後ろを伺う。…………通りすぎてくれねぇかな?

足音が聴こえなくなったし、撒けたのかも…………。待て、ご飯の香りに釣られてねぇよな? さっきカレーの匂いしたけど!


「グルルル………」

あ、心配御無用でしたね。もたれ掛かってた建物の上からこっち覗いてます。

もぅ!コッチ見つめやがって!可愛くなねぇよッ!!



「うぉ!わ……ッ!!」


敵に背を向けるんじゃないね!魔物に踏まれ、そのまま脚が崩れて倒れた。


…………___あぁあオワタ。


「はぁ!はぁ!ッ………はッ………」


魔物が、クンカクンカしてくる。…………おいおいおい。美味しくないよ、オレ。

うお、舐めてきやがったコイツ!怖いって!


あ…ちょ……っ!


「__ 重い!臭い!!」


無理矢理体を仰向きにし、なりふり構わず叫んでしまった。

つか何食ってきたの!ものっそい生臭い!フェリオナか!


乗っかってくる魔物相手にオレ凄いって、褒めてやりたい……。


いや、それよりも。



「クゥン、クゥ__ン」


「___… お前、遊びたいのか…………?」

まるで、犬のように甘えてきた。


「____…………」


…………?




ピタリ、と静かになる。




「ぉぃ?」


返事が無い。魔物は、何も動かない。何も、発さない。荒い呼吸も聴こえない。急に、時間が止まったように、微動だにしなくなった。



胸が、ザワついた。



殺気。いや、それよりも質の悪い空気が、魔物から噴きでたみたいだ。


魔物の目元が、ピクリと動く。先程とは打って変わって、オレを見つめる目は、穏やかじゃない。身動きが出来ないように押さえられた手が、段々と重くなった気がした。


___気のせいじゃない…………!


「いっ……!………カハッ…!!」


コンクリート製の建物を容易く傷付けてた爪が、オレの胸元にた立てられた。痛い。

瞬間、生温い吐息がオレの顔を被う。


___喰われる。…………と、思った。



思ったが、犬より何倍も大きい口の中を、板の様な物が通った。


___ああ。


「すまない、待たせた!」



おせーよ、コノヤロ!とでも相棒っぽく言っといた方が良いかな……?



今見るフェリオナの顔は、いつもより頼もしいなと、オレは思ったのだった。




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