異省
「な………………」
言葉を失う。
フェリオナはまさにそんな状態だ。
オレの発言でこんな静まり返るのっていつぶりだっけ? ん、そんな事あったっけ? ちょっとしたイジメ?あぁ、違う違う、ちょっとした悪戯に付き合わされてた頃だっけ?皆がたのしそうに笑うからオレも 笑ってたら………ん?発言してたか? まぁいっか。いけないなぁ、最近物忘れが多くなった気がする。そろそろ歳かなぁ〜。
オレの妹が、肩にもたれかかってきた。よしよし、可愛い可愛い。
「……聞いていたのと違う……! 」
ようやく口を開いたフェリオナだが、まだ納得出来ないようだ。
「だから言ったろー、どれだけだよって。こっちでは二人が居なくなって5年だ」
「…………だが、名前が……」
「何、知ってんの? 最初から言ってよー。あ、個人情報ってヤツなのかな? ははー。デタラメに決まってんじゃん。いつ気付くかなーって思ってたけど。あ、でもそれで慣れちゃってるから呼びなおさなくても別に良いよー。もしかして、よく面倒事に巻き込まれたり、騙されたりしてない?」
「…………」
思い当たる節があったようで、フェリオナは視線を落とす。
図星かよ。
「悪く思わないでよ? コッチだって、大剣を抱える何処の誰かも知らない人間を住まわすなんて、異例なんだからさ」
「……それは………いや、襲撃されなかっただけマシか…。大剣はすまない、あれは大事な物なんだ」
「いーよ、おあいこってことで。ところでフェリオナ、オレらを見つけて何したかったの?」
「…………アイハ達の現状を説明して……」
「うん」とオレは頷く。
「____“ナオトは助からない。だからせめて最期は、他人にやられる前に、私が終わらせたい”」
彼女の事を思ってか、フェリオナは悲痛な声で言った。
『……だから、ちゃんと説明して、言いたいことやナオトに伝えたいことを、あの子たちに聞きたいの』
「…………私は、その旨を伝える為に来たのだ」
フェリオナはそう言って、再度姿勢を正す。
「いいよ、終わらせちゃって。頑張れマミー!……って、伝えといて」
「…は…?……それだけか?」
「ん?うん、だから別に良いよって言ってんの」
あり得ないといわんばかりに、フェリオナは動揺する。
「……も……もしかしたら、まだ救う手立てがあるかもしれないんだ!……アイハは、口ではあんな事言ってたが、本心ではまだ迷っていた……!……せめて止めてと、二人が言えば、彼女はまた考えなおすかもしれないんだぞ!__ようやく……ッ…」
言葉が詰まり、フェリオナは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「フェリオナ」
「…………………」
オレは、物言いたげなフェリオナを見据えて言う。
「それは、余計なお節介っていうんだよ。」
「____……」
オレは、構わず言う。
「あの母さんが畏まって言うんだ。相当悩んでの決断なんだってのは、言われなくとも解るんだよフェリオナ。敵になりながらも、試行錯誤してその結果に及んだのなら____オレら子供が、いう事はないよ」
話しは終わったので、オレは椅子を引いて席に立つ。
「ぁ、ロリー。買い物手伝ってー」
「うん」
その場にフェリオナを残し、オレとロリは家から出た。
※
「ロリ〜、防犯ブザーって電池ある?腐り始めてない? 」
今日はいつものスーパーではなく、電車に乗ってデパートまで訪れている。
「カッター何色がいい?あ、裁縫の糸も買わなきゃ。サバイバルの参考書もいるかなぁ、護身術とか」
「…………あっちに行くつもりなの?」
買い物に付き合ってくれるロリは、オレの服を引っ張って質問してきた。
「まさか。でも、備えあれば憂いなしっていうでしょ?良心やら正義感やらでフェリオナが、二人の為だ!とか何とか言いだして、脅してでも母さんに会わせようと、そのアラムデュアってとこに連れてくかもしれないじゃないか」
オレは笑って妹の頭を撫で、買う商品を選ぶ。
…………そんな顔すんなよロリ。
分かってんよ、フェリオナがそんな事しないってことはさ。
※
アイハ___もとい、会沢春子。
よくユーザー名で母さんは、アイハと名乗っていた。
それから、会沢尚登。
今ではもう死亡人扱いの、最初に居なくなった父親だ。
この二人の名前が、見ず知らずの不審者の口から出るものだから、もう何がなんだか。………はぁ、ロリに宥めてほしい。
___5年以上放置しやがったオレの親。
…………何やってんだかなぁ〜………今更。オレは死んだと思い始めてたのに。気持ちの切り替えが出来たのに。割りきれたのに。今になって、何で、こんな奴が。
ほっときゃ良かったのに。こんな、回りくどいことして。理由こじつけて。こんな、ふざけた真似して____ホント、………………何してんだよオレ。
1ヶ月間。
色々対処はしたんだ。もぅ、考え込む暇なんかないくらいには動いちゃって。働いて。まぁ元々そんな余裕はないんだけども。予定作っちゃって、忙しい忙しいってして。
たまにフェリオナと会話をすると、理性が不安定になるから困った。 …………本当は、訊きたかったんだ。洗いざらい吐いてもらいたかった。細部に至るまで、どうして出会ったのかとか。色々、知りたかった。
…………けど。
けどさ。
何だよ異世界って。何よ魔王とか勇者って。
……ああ、分かるよ? よくあるよね、そういうの。もぅ定番ともいえるよね。うん。
あの二人が続けて失踪するのだって。まぁ、何かあるとは思ってはいたんだよ? 何かトラブルにでも遭ったんだろうって。なんか予想外過ぎる事情だったけどさ。
分かってはいるんだ。
フェリオナがこんな冗談言わないくらい。勉強も何もかもあんなに必死にして。嘘つくのが下手なんだって、真面目過ぎる奴だって。そんなの同居して、フェリオナの性格はもう十分に分かった。
頭では、分かってるんだよ。そっちも大変だったんだってさ___だけど、どうしても、気持ちが、ついていけなかった。整理、出来なかったんだ。もう、我慢が、出来なかったんだよ…………。