決戦
みち行く人の流れに逆らってギュルは走った。
ドン! と街の人間とぶつかって弾き飛ばされる。
「ってえな! 気をつけろクソガキ!」
く、と悶えながらも立ち上がり、あるところに向かっていた。
ドラゴンスレイヤーの置いてある武器屋であった。
この現状を止められるのは自分だけかもしれない、とギュルは思っていた。
竜人族の鱗を切り裂くにはドラゴンスレイヤーが必要だ。
街が炎に飲みこまれる前に何とかしなければ……
しかし、ギュルには懸念があった。
果たして自分にユーリが斬れるのか?
「……今はそんなこと考えてる場合じゃない!」
迷いを断ち切って全力で武器屋に向かった。
すると、向こうから武装した数人がやって来た。
「アルド隊長!」
ギュルはアルドを引き留め、事情を説明した。
ユーリがカムスに体を乗っ取られたこと、ユーリは竜人族だったこと、そして、それを斬るにはドラゴンスレイヤーが必要なこと。
「俺には、ユーリを斬ることができないかも知れません。 隊長に、ドラゴンスレイヤーを渡します」
「……ならばなおさら君がやらないとな」
なぜ自分がやらなければならないのか?
ギュルが疑問を投げかけようとした時、アルドが口を開いた。
「君がユーリを斬りたくないという思いが、決め手になるかもしれない。 ユーリの「竜の部分」だけを斬るんだ」
「……!」
できるのか?
そんなことが……
「俺たちは今から弓を使ってやつを追い立てる。 剣での攻撃が通用しないのなら、翼を狙って機動力を削ぐ。 そして、君がとどめをさすんだ。 やれるな?」
「……」
今までのことがよぎった。
街で行倒れていた自分を助けてくれたユーリ。
あの時は運命の出会いってやつを信じてしまった。
気づいたら必死に駆け出して、絶対に逃がすまいとしていた。
結論は、やはりユーリを斬ることはできない、だった。
それでも、アルドに言われたとおり、竜の部分だけを斬ることができたなら……
「やります!」
それに賭けるしかない。
アルドは弓兵を街に配置し、弓で追い立て始めた。
「くらえっ!」
弓兵の一人が建物の中からユーリの翼を狙って弓を放った。
しかし、即座に腕で矢をはじかれ、火球の反撃を食らう。
「くっ」
火球が直撃する寸前で窓から飛び降りて回避した。
炎に建物が飲まれ、一瞬で消し炭となる。
「なんつー火力だ……」
どうにか翼を射抜いて地上に引きずり降ろさないと勝負にならない。
弓を放っては走って反撃をよける、という戦いを繰り返していたが、だんだん疲弊してきた。
「はあ、はあ……」
隠れられる建物もなくなってきた。
「隊長!」
弓兵の一人が叫んだ。
「合図をください!」
「分かった!」
4か所に潜伏する弓兵が一度に狙いを定めて撃つ、という作戦である。
しかし、隊長が合図を送る前に、ユーリが仕掛けてきた。
急降下し、弓兵の一人を襲撃した。
「……!」
剣を抜いて反撃するも、鱗にはじかれ鋭い爪で裂かれる。
「ぐああああああっ!」
更に反転して次々と弓兵に襲い掛かる。
建物がなく、居場所も丸見えのため、恰好の餌食となっていく。
「おい! 俺が相手だっ」
アルドが叫んだ。
ユーリもその声に反応してアルドの方に飛んだ。
アルドが剣を構え、ユーリが腕を振り下ろす。
剣と爪がぶつかり合う。
アルドは手首を返して、爪の軌道をそらし、そのまま翼に向かって剣を走らせた。
ザンッ……
傭兵団随一の剣がユーリの翼を捕らえた。
片翼の翼を削ぐことに成功したが、同時にアルドも爪による致命傷をうけ、その場に伏した。
全員始末したことを確認し、再度街に火を放とうとした時、向こうから人影が現れた。
ドラゴンスレイヤーを携えたギュルであった。
「キサマ…… その剣は……!」
ユーリは一瞬たじろいだが、炎で攻撃すれば問題ないと判断した。
「消し炭になれ!」
が、炎は口の中でくすぶって消えた。
魔力切れであった。
「!?」
火炎による魔力の消耗がカムスの想像を超えていたのだ。
そして、それはカムスにとってかなりまずい状況であった。
魔力が無ければ相手に憑依することはできない。
じり、と一歩後ずさる。
ギュルが剣を構え、走り出した。
「うわあああああああっ、くるなあああああっ」
「うおおおおおおおおっ」
背後から一閃。
ユーリの鱗を裂いた。