打倒カムス
ユーリとギュルは夕方、森のいつもの場所に戻って夕飯を作り、それを食べながらカムスを捕らえるための作戦を考えた。
厄介なのは、カムスは他人に憑依する力を持っている。
そのため、普通に戦って倒しても意味がないという点だ。
「うーん、そんな不死身みたいな相手、どうやって倒したらいいのかな?」
「……一つだけ思いついた方法があるわ」
ユーリは森のキノコの話をした。
ここで取れるキノコには、睡眠作用をもたらすものがある。
それをカムスに盛って、目覚める前に換金所に引き渡せばいいのではないか? という方法だ。
「憑依するにしても、自分の意思が必要でしょ? それなら、眠らせてしまえばいいんじゃない?」
「そっか! でもカムスに近づかなきゃいけないよね…… それって結構危ないんじゃないかな?」
ギュルにそう言われ、ユーリははっとした。
カムスはこちらの心を読める、それを感じさせるセリフがあった。
もしこちらの手の内がバレていたらこの作戦は通用しない。
「……何か良い手はないかしらね」
「……だったらいっそのこと」
ギュルの考えた作戦。
それは、ギュルが先に相手の宿泊先に潜入して毒を仕掛けるというものだ。
「これならこっちの心を読まれずに済むでしょ?」
「……なるほどね。 でも具体的な方法も考えてよね。 そっちが提案したことだし。 その間に私は毒キノコを調達してくるわ」
こうして、2手に別れて作戦の準備に取り掛かった。
時刻は午後9時を回った。
ユーリは森から毒キノコを調達し、ギュルも作戦を思いついたため、そのまま街に向かった。
まず相手の宿屋を探さなければならない。
偶然にもカムスは居酒屋に出払っており、居留守を狙うなら今が好機であった。
宿の数はかなり多かったが、手配書を見せたらすぐ店員が応じてくれたため、2時間ほどで寝床は見つかった。
ギュルがカムスの部屋に入っていき、毒キノコを仕掛けて戻って来た。
「オッケー、絶対うまくいくよ」
そして、宿の前で張ってからおよそ20分、とうとうカムスが戻って来た。
そこから更に20分待ち、頃合いを見計らってユーリが部屋の中を伺いに向かった。
(あのキノコは速攻性だから、食べてからものの5分もあれば眠りにつくわ)
ゆっくり階段を上っていき、扉の前まで来た。
のぞき穴を覗くと、ベッドに横たわって動かないカムスが見えた。
(やるじゃない、ギュル)
扉を開け、カムスに近づいた。
その時だった。
バアン!
扉が急に閉まり、カムスが目を覚ましユーリの方に向き直った。
片手にはキノコを持っている。
「こんなものに引っかかると思うか?」
キノコには紙が付いており、「おいしいキノコなので、食べてください」と書かれていた。
(怪しすぎるわっ!)
心の中で突っ込んだが、もはや後の祭りだった。
「俺様を眠らせてどうする気だったんだ? ずいぶん強引な手を使うじゃねえか」
ユーリは身構えた。
しかし、相手は予想外のことを口にした。
「ったく、しかたねーから妻にしてやるけどよ」
「……?」
「好きなんだろ? 俺様のことが」
てっきりここから戦闘になるかと思っていたユーリは、まさかの展開に唖然としてしまった。
男はみんなアホなのか?
「あ、あの……」
なんで惚れなきゃいけないんですか? と言いかけてユーリはあることを思いついた。
もしこれがうまくいけば、相手の陰謀を阻止できるかもしれない。
「あの、魔導書を見せてもらいたいんです。 私があなたに惚れたのは、それを手に入れる実力があると存じたからです」
「……そういうことか。 ちょっと待ってろ」
カムスは手のひらから魔道書を出現させた。
「こいつが……」
ゴウッ……
カムスが説明する前に、ユーリは口から吐いた炎で魔道書を焼き払った。
魔道書は消し炭となり、残った灰が床に散乱した。
一瞬、何が起きたのか分からなかったカムスは、しばらく身動きが取れなかった。
そして、宿屋の全室に響き渡る声で叫んだ。
「きさまあああああああーーーーーっ」
ドオン!
という音が響き、宿の屋根を吹き飛ばして何者かが飛び出してきた。
外でユーリの帰りを待っていたギュルは、それを見て驚いた。
「な、何だアレ!?」
それは、翼を生やし、尻尾まで生えているではないか。
まるで自分が追っていた竜人族の特徴そのままだ。
その者の顔を覗いて、ギュルは愕然とした。
「ゆ…… ユーリ!」
ユーリはカムスに体を乗っ取られたのであった。
カムスは怒りのままに魔力を増大させ、ユーリの竜人族の力を使い、火炎で街を焼き払い始めた。
巨大な火球が街を襲う。
「うわああああっ」
「逃げろおおおおっ!」
一瞬にして街は地獄と化した。
ギュルもその炎に飲まれまいと必死に駆け出したが、ある言葉が頭をよぎった。
「ドラゴンスレイヤー……」
カムスはムスカです