表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4大迷宮

午後になり、建物の中で説明会が行われた。

前線で戦うのに選ばれた人間はおよそ30人。

みな、審査を潜り抜けた猛者であったが、その中に異質なものが混じっていた。


「おい、あいつ……」


「ああ、今手配中の……」


場のざわめきがだんだん大きくなり、誰かがその者の名前を呼んだ時、ざわめきは最高に達した。


「カムス・ラピタだ!」


みなが腰に携えた剣に手をかけ、その者を取り囲んだ。

この一時騒然となる事態に、ユーリも慌てた。


(何で手配書の人がこんな所に?)


カムスはゆっくり辺りを見渡すと、こうつぶやいた。


「この中に俺様とまともにやりあえる奴はいねーな。 そこのお嬢ちゃんはそこそこやれそうだけどな」


ニヤリ、とカムスは笑ってユーリの方を見た。

一瞬ドキリとした。

何でそんなことが分かるのか? 


「そりゃあ、魔術師は何でも分かる」


「……!」


まるで、心の中でも読まれたかのような返答に、ユーリは恐怖を覚えた。

この男は不気味だ…… そう思った。


「何であなたがいるんですか。 飛んで火にいる夏の虫とはあなたのことだ」


また新たに一人、男が加わった。


「アルド隊長!」


25にして傭兵団を束ねる若き天才、アルドである。

すでに20の時には傭兵団で随一の剣使いであり、今年、前任の隊長からその座を譲りうけた。


「ほう、お前はかなりできるな」


カムスは腕を組んでアルドを観察した。


「だけど、俺の首は……」


ヒュン……


カムスが口を開いた瞬間、アルドの剣が正確にカムスの首をとらえた。

頸動脈は切断され、ドサリ、とその体は地に伏せた。


「さ、さすが隊長だぜ!」


おおお、と歓声が上がった。

ユーリもその光景を見て唖然とした。

こうもあっさり大金の賞金首が取られてしまったとは……


「みんな、説明会の続きをやろう」


アルドがそう言って、戻ろうとした時だった。


「俺様はそれじゃ殺せねえぜ?」


集まった兵の中から声がした。

その声の主が前に躍り出た。

カムスであった。


「俺には実体がないんだ。 死んだらまた誰かに乗り移ればこの通りだ」


「ありえない……」


思わずアルドもたじろいだ。

もしカムスの言っていることが正しければ、どんなに斬りつけたところで、別な人間に憑依して乗り移られたら意味がない。


「乗り移られる方も抵抗はできないからな。 これ以上俺を攻撃するのはやめた方がいい」


「……」


「俺を今回の作戦に参加させろ。 そうしたら大人しくしておいてやる」


「……」


アルドはまずい、と思った。

なぜなら今回のこの作戦は、カムスよりも先に魔導書を手に入れる、というのが目的だったからだ。





終焉の魔導書を集めている者がいる。

そう連絡が入ったのは先日だった。

世界に点在する4つの魔道書、これをすべて集め呪文を唱えると、地上の全ての文明、人間が滅び、残るのは術者とそれが選んだ者だけであると伝承にはあった。

また、その残った2人を「アダム」と「イブ」とし、新たな理想郷を作るだろう、ということも記されていた。


魔道書は難航不落の「4大迷宮」に隠されているため、実質集めるのは不可能とされていたが、たった一人でその内の一つを攻略したものが現れた。

国は至急、その者を指名手配とし、他の迷宮の魔道書の回収に乗り出したのであった。


白羽の矢が立ったのは、最強として名高いアルド傭兵団であった。

早速、「要塞迷宮」を攻めるようお達しがあった。


要塞迷宮は中が入り組んだ迷路になっていて、加えて敵国の砦としての機能も果たしている。

その遺跡を進み、最深部に魔道書があるとのことだった。

よって、アルドたちは、敵を排除しつつ、この遺跡に潜入し最深部を目指さなければならない。

現在のメンバーに加えて、更に猛者が必要と判断したアルドは、もう30人の新たな兵士を募った。


しかし、カムスが現れたことで、魔導書を横取りされる可能性が出てきた。

これでは元も子もない……





説明会が終わり、ユーリはギュルと合流した。


「なんか、要塞迷宮ってところに行くみたい。 報酬は前金で10べホマ、任務達成で90ベホマだって」


「ちょうど1ベホマラーじゃんか!」


「……そうなんだけど」


ユーリは事情を説明した。

カムスが現れたことで、任務達成に陰りが見えたこと。


「それだったら、やっぱりあいつを倒した方がいいと思うのよね」


「……マジ?」





一方、カムスは居酒屋にいた。

グラスに入った酒を眺め、そこに映し出されるユーリを見てこうつぶやいた。


「竜人族の最後の生き残りか…… 俺様の妻にふさわしい」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ