傭兵団へ!
その夜、2人は並んで夜空を眺めていた。
「あの一番輝いてるのが一等星ね。 ここで問題、アレとアレとアレとアレを結んだら何座になるでしょうか?」
「んー、何だろう。 いて座?」
「ハズレー。 ぎょう座でしたー」
「なんだよそれっ」
ユーリは幼いころ、よく一人で夜空の星座を結んで遊んでいた。
身近にいるのは両親だけで、年の近い友達もいなかった。
そのため、こうやって同じ年の異性と話すのは初めてであり、ユーリにとって楽しいひと時であった。
また、ギュルの方もユーリという新しい仲間に励まされ、前向きな気持ちになっていた。
「1ベホマラーなんてあっという間だよ! 明日の審査、絶対に通ってやる!」
傭兵団に入るためにはまず審査に通らなければならない。
この審査の成績次第で、前線に所属するか後方支援かが決まる。
当然、前線に立った方が報酬は高く、命がかかっている分、その額は後方支援とは比べ物にならない。
ユーリは薪の火を消して、瞬く間に眠りについた。
翌日、街にはたくさんの人だかりができていた。
みな出稼ぎで村から来た傭兵希望の者たちである。
「うわ、ずいぶん多いな」
審査の行われる会場は中央の広場で、書類を書いたものから順番に受ける。
ユーリとギュルは受付に並んだ。
「ねえギュル、書類って何を書くの?」
「掲示板に貼ってある紙を読んだんだけどさ、年齢と名前だけでいいって」
「ふーん、じゃ審査ってのは?」
「さあね、俺も初めてだからなぁ」
そうこう言っている内に、受付の目の前までやって来た。
それぞれ書類に名前を書き込んで待っていると、担当者に呼ばれた。
「じゃあユーリさん。 1番に行ってテストを受けてください」
「あ、はい」
担当者の指さした方に向かうと、1番と書かれた旗があり、ユーリより先に来た若者が岩を持ち上げようとしていた。
「うおおおおおおおおっ」
「はい、無理ですね。 次は2番へ行ってください」
そして、ユーリの番が来た。
目の前には巨大な岩が置いてある。
担当の説明によれば、その岩を持ち上げることができるか? という審査であり、魔法も使っていいとのことであった。
その岩は自分の腰の高さまではあろうかと思われる大きさで、一般人が素手で持ち上げるとなるとかなり困難な重さであった。
しかし……
「ふんぬううううううっ」
ユーリが渾身の力を込めると、岩が持ち上がった。
少し浮いてる程度ではあるが、今日はこれで2人目の成功者であった。
「君、女の子? 魔法も使ってないのにすごいね! でも、さっき受かった人も結構いい歳したおっさんだったんだよなあ……」
「へえー、でも女で持ち上げられるのは私くらいよ」
竜人族の身体能力、恐るべしである。
この後、時速300キロで飛んでくる石を棒で跳ね返すという動体視力のテストも軽々合格し、晴れて前線メンバー入りが確定した。
「午後に本格的な内容の説明がありますので、合格の用紙を持ってお待ちください。 会場は建物の中になりますので」
そう言われたが、まだしばらく時間があったため、ユーリはギュルを探すことにした。
ギュルとは入れ違いで審査を受けていたため、1番の審査会場に向かった。
すると、岩の目の前でうずくまっている少年を見つけた。
担当者から、次の人が迷惑してるから、と促されているが立ち上がろうとしない。
ユーリは嫌な予感がした。
まさか……
「ぐっ…… くっ……」
どこかで聞いたような嗚咽を漏らす少年。
大粒の涙が頬を伝い、地面を濡らしていた。
「ギュル、どうしたのよ? ここは邪魔になるわよ」
「俺をっ…… いじめてっ…… くっ……」
「ギュル、とりあえず行きましょう。 後方支援から始めたっていいじゃない」
ギュルを抱えながら、ユーリは場を後にした。
審査会場から少し離れた掲示板の前で、ギュルが落ち着くまで待った。
「どう? もう大丈夫?」
「……」
コク、とうなずき、ユーリはふうっ、と息を吐いた。
「全く、20なんだからその泣き虫卒業しなさいよ」
「だって……」
「とにかく、私は審査通ったから、別行動になるけど平気ね?」
すると、ギュルは腰でも抜かしそうな勢いで驚いた。
「えええっ、受かったの!? どうやってあんな審査通ったんだよっ」
教えろよ! 嫌よ! とじゃれあっていると、強面の兵士がこちらにやって来た。
「どけっ、今から手配書を更新するんだ。 騒ぐなら向こうに行け!」
2人はビクッとなってその場から離れ、兵士が手配書を張り付けている様を見ていた。
「ずいぶん横暴な言い方よね……」
「ユーリ、聞こえるよ」
兵士が去ると、2人は手配書を見た。
その手配犯の金額を見て、ギュルが声を上げた。
「1ベホマラーだって! この人」
そこには、40台半ばと思われるおっさんの顔が描かれており、「カムス・ラピタ」という名だ。
男は、世界に点在する「終焉の魔導書」を探している魔術師であった。