竜人族の少女
とある街に一人の少女がやってきた。
彼女には他の者とは決定的に違う部分があった。
顔はかわいらしい普通の少女なのだが、体には硬い鱗があり、尻尾まで生えているのである。
その少女は、竜人族の最後の生き残りであった。
かつて人間と竜人が地上の覇権を争っていた頃、「ドラゴンスレイヤー」なる武器を携えた男の手によって、絶滅寸前まで追いやられてしまった。
生き残ったのはたったの2人。
その2人の間の子供が、彼女であった。
それから20年。
竜人族のことも忘れ去られつつあった頃……
彼女の名前はユーリ。
年は20である。
年頃の彼女は、結婚に憧れていた。
しかし、同族の相手が存在しないため、親の反対を押し切り街まで降りてきたのだった。
始めて街にやって来たユーリはまずその活気に圧倒された。
ところ狭しとひしめく店。
見るもの全てが始めてだった。
「そこのフードの人、これ味見していきなよ!」
「えっ、私ですか?」
ユーリは突然声をかけられ戸惑ったが、一口貰ってみることにした。
「な、なにこれっ! 甘い!」
それはチョコレートと呼ばれるこの街の名物であった。
ユーリはこの始めて食べる黒い塊に心奪われた。
「始めて食べるみたいな顔してるね。 気に入ったなら買っていきなよ!」
しかし、ユーリには所持金が1ホイミもなかった。
ちなみにホイミとはこの世界の通貨である。
100ホイミで1ベホイミ、100ベホイミで1ベホマである。
「……お金ないです」
「なんだよ! 冷やかしなら帰りなっ」
冷たい言葉をかけられ、凹みそうになったが、あのチョコをもう一度食べたい一心から、思い切って言ってみた。
「あ、あの! これと交換してください!」
それは、お昼に食べるつもりだったドラゴンライスであった。
「……!」
店の商人は驚いた。
ドラゴンライスはかつて絶滅した竜人の作る米だ。
ドラゴンコレクターの間では高値で取引されている。
商人はしめた!と思った。
この価値を知らないのなら、教えてやる必要もない。
「……仕方ないなぁ、お嬢ちゃんに免じてチョコレート1個とならいいよ」
「本当ですか! ありがとう!」
こうしてユーリは騙されたとも知らず、チョコレートと交換してしまった。
ユーリは早く食べたい気持ちを抑え、広場にやって来た。
ここなら人もそんなにいないし、ゆっくりチョコレートが堪能できる。
「じゃ、いっただっき……」
「ギュルルルルルルルルル……」
え???
音の鳴る方を見ると、ゴミといっしょに捨てられている人を発見した。
その男は、大事そうに剣を抱えながら倒れている。
そして、ユーリを見ると一言つぶやいた。
「それ、ください……」
結局ユーリはチョコレートをあげてしまった。
「いやー、ありがとう! お金なくってさ」
「……その剣売ればいいじゃない」
「駄目だよ、これは命より大事なものだから。 ドラゴンスレイヤーって剣なんだ。 俺はこの剣で竜人族の最後の生き残りを殺す旅に出てるんだ」
え?
もしかして一番助けちゃいけない人を助けちゃった?