7
パソコンを切った後、kimiは机の前で動けないままだった。
「好きな人がいるの、もちろん女の人よ」
私はどうしてあんな嘘を吐いてしまったのだろう?
馨は少しがっかりした様子と大いなる安堵を得たようだった。
「私は、ノンケ。あなたとは別の世界の人間なの」
どうしてそう正直に言えなかったのだろう?
馨は「そっかぁ」と言いながら、明るく去って行った。
あの子は感はいいけれど、素直な子だから、私の言う事をそのまま鵜呑みにしているだろう。
それでも私の「また明日つきあってあげる」という申し出に、あっさりと「うん!」と楽しそうに返してきたけれど。
どうして私はパソコンなんてしているのだろう。
それも、夜な夜な、馨ばかりと話している。
それとも、私の嘘は気がついていて、知らないフリをしたのだろうか。
あの子なら、それも出来そうだ。
下手に気を回して、私を傷つけない為に−。
明日、馨は本当に来るだろうか?
恋愛の相手にもならない、退屈しのぎをしているだけの嫌な女だと思っているかしら。
そんな事は大した事のない事よ。だってリアルな世界じゃないもの。馨にとっても、私は数ある、通り過ぎて去っていく名もない女の一人に過ぎない。
考えを止めようとしても、堂々巡りになる夜があるものだ。部屋の明かりを消して、眠れないままベットにうずくまっていた。
いつしか、混沌が、私を暗く深い淵に落としていった。
--------------------------------------
馨はパソコンの前でついた肘をだらしなく崩して、「kimi」を待っていた。
今は7時半。約束は9時だけれど。
なんでこんなに早くから部屋を作って待っているんだろう?
ウィンドウをもう一つ開け、部屋の外からサイトを眺めてみる。
夜中は混雑を極めるこのサイトも、今の時間ではまだ空きが5つもある。
馨は@マークを片手でぽんぽんと打ち込んではエンターキーを押す。
「退屈だなぁ…」
だらしなく机の上で寝そべったまま思わず呟く。
エンターキーをぽんぽん打ち込んでいると、
「変な子 さんが入室しました」
と出た。