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kimi  作者: LEIN
5/19

5

貴子は手を挙げてタクシーを止める。


「渋町へ」

「わかりました」


タクシーは動き出し、貴子は深く腰をかけ外を眺めた。


いくつもの灯りを追い越してゆく。


私は張り詰めたこの街が好きだ。


どこかで別れたら、二度とすれ違う事もない街。


皆が他人同士の街。



私が張り詰めたこの街が好きなのは


自分自身も張り詰めて生きてきたからかもしれない。



時間が刻々と進んでいくのがわかるこの街の中


すれ違うのは他人ばかり


どこからこれだけの人間が溢れ出て、


みんなどこへ帰るのか


人が波のように押し寄せて


もう、「物」のようにしか見えない。



それでも、それぞれに心を持ち


痛みをもち


あるときは喜び、ある時は悩みのどん底に陥るのだろう


でも、すべては他人事ー



私がここまで来るまでの道程は長かった。


男もそう


何人の男が、私の上を通り過ぎただろう


そこには喜びもあったけれど、


必ず終わり、というものはつきまとう



「ここで結構よ」


タクシーを止め、マンションへと帰る


12階のボタンを押し、エレベーターに写った自分の顔を、見た。


もう若くもない。焦りにもにた感情が、私を急かす。


このまま、沢山の砂粒のように


埋もれて過ぎてしまっていいの?


人ひとりの存在が、とてつもなく軽いこの街で−


-----------------------------------------




田中貴子はベットの上でそわそわと落ち着かなく時計を見つめた。




今日もあの人は残業だろう。


新しい都市開発のプロジェクトとやらで、この所、3時間も寝ていない。



貴子は立ち上がって、居間へと向かった。



重厚なカーテンを開け、夜の街並を見つめる。



この最上階からは、巨大な大都市も全て一望することが出来る。



ここの夜景が貴子のお気に入りだった。


けれど、今は、無情な淋しさを感じる。




一人きりの長い夜をずっと過ごしてきた。


あの人が嫌いになったわけではない。


むしろ愛している。








結婚という形は取れないけれど


この二人の自由な関係が私は気に入っている。


あの人は私との関係に満足しきっている


だからこその安心感なのだろうけれど



このままでいいの?




誰に会うわけでもないのに、貴子は化粧台に座る


私はまだ、綺麗かしら?


鏡の中でいろいろな表情を作ってみる


次の瞬間、まだ映ってもないはずの老いの影を、背中に見た。


たまらなくなり、貴子は枕を鏡に投げつけた。

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