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kimi  作者: LEIN
3/19

と、kimiさんが入室しました。というトピックが画面に踊った。



「kimi こんばんは!」


「馨 こんばんは!!」


来てくれたのだ、kimiさんは。


特別これから口説ける相手でもないのだけれど、何かワクワクするものを感じる。


きっと彼女が「大人の女性」だからだ。


僕は大人の女性のチャットでの、落ち着いた、それでいて人生の深みを知っている口調が大好きだった。



「kimi お待たせしちゃったかしら?」


「馨 いや、ワクワクしながら待っていたからいいんだよ」


「kimi 30分も待っていたのね」


チャットの部屋の外からは、誰が、どんなメッセージで待機しているのかがわかるようになっているのだ。



「馨 見てたの!?」


「kimi 早かったのね」


「馨 だったら声を掛けてくれれば良かったのに。意地悪だなぁ(笑)」


「kimi 見ていて面白かったわ。また会えて良かったわね」


馨はちょっと拗ねた。


「馨 ネットナンパ放ったらかして待ってたのに。」


「kimi あら、馨クンは恋人を探しているんじゃなかった?」


いつの間にか、僕は「馨さん」から「馨クン」になっている。急に子供に落とされたような、ガッカリするような、でも、確実に距離がちぢんたような嬉しさを感じる。


「馨 まぁ、そうなんだけど、僕の場合はやり方が無茶苦茶なんだよ(苦笑)」


「kimi 無茶苦茶ってどんな?」


「馨 うーん…。」


「kimi まぁ、いいわ。馨クンってどんな子なのかしら?」


「馨 そんなの一口では言えないよ」


「kimi 芸能人では誰に似てる?」


「馨 言われた事もあるけれど、自分じゃ似てないと思う。しいて言えばインド人?」


「kimi えっ?」


「馨 夏にカンカンに日に焼くとするでしょう?そしたら、僕はインド人か、ポリネシア人にでも間違えられるんだ(笑)!」


kimiは赤い万年筆をぴたりと頬に当てた。



「馨 kimiさんは芸能人に例えると?」


「kimi 誰にも似てないわよ」


「馨 じゃあ身長は何センチ?」


「kimi 164よ」


僕と同じだ、と馨の文字が嬉しそうに弾んでいる。


「kimi 私も同じなのね。じゃあ体重は?」


「馨 61キロ。kimiさんは?」


「kimi そんな事、女の人に聞くものじゃないわよ(笑)」


馨は眉毛を下げて、困った顔をしている。




「馨 だって、知りたいんだもん。じゃあ、痩せてるか、ぽっちゃりさんかだけでも教えてくれないかな」


「kimi 痩せてると言いたいところだけれどね。出てる所は出てるわね」


「馨 じゃあ、”グラマー”なんだね!」


「kimi そうよ。」


「kimi …何か余計な期待をさせちゃったかしら?」


「馨 したした!」


「kimi グラマーなおんなが好き?」


「馨 もちろん!」


「kimi なぜ?」


「馨 …だって、母性を感じるじゃないか。」


「kimi 馨クンは単にデブ専なんじゃない?」


馨は少し困惑する。


「馨 デブ専って事はないけど。。だってさ…、柔らかい方がいいでしょ?」


「kimi おっぱいが?」


馨はひゃっと椅子から落っこちそうになった。


「馨 …おっぱいは特にだよ。正直、柔らかい胸の間に顔を埋めながら僕は死にたいよ」


「kimi 胸フェチなのね」


「馨 そうかもしれない。」


柔らかな胸を吸いながら、挟まれながら、永遠に甘えつづけられれば、僕は何も後悔する事はないだろう。


「kimi 何か想像してるでしょう?」


「馨 ちょっとだけ、ね。」


なんて正直に、こんなテーマで会話する子なのだろう、この子は。


「kimi いつもこんな事をチャットで話しているのかしら?」


馨はうーんと、天を仰ぎながら、今までここで何百人と話した会話を思い出していた。




「馨 確かにちょっとHな話は多いかもしれないなぁ。。」


「kimi チャットでHを迫るとかもする?」


「馨 そんな事しないよ。あんなバーチャルHつまんないもの」


「kimi バーチャルHって?」


しまった。墓穴を掘ったかもしれない。このひとは入りたてで、チャットで、”あの事”が行われている事すらも知らないのだ。


「馨 つまりその…。」


「kimi つまりどんな?」


「馨 チャットしながら、画面の向こうで、アレをなさっている状態とでも言えばいいのか…。」


「kimi つまりは、テレフォンセックスならぬ、チャットセックスって事?」


馨はちょっと困ったように頭を掻いた。


「馨 まぁ、そういうこと」


「kimi 馨クンが毎日来てるのは、それを楽しむためなのかしら?」


「馨 まさか!」




いかにチャットHが面白くないかを、どう説明しようかと必死になる。



「馨 あんなのさ、あっだの、「ああああああああ〜」だの…」


「kimi うん?」


「馨 よく、そんな言葉、恥ずかしげもなく打てるなぁと…」


「kimi そうかしら?」


「馨 だって不可能じゃない?いたしながら打つんだよ。「イクー」とか(爆)!」


「kimi キーボードが濡れちゃうわね。」


「馨 ………。」


「馨 …………。」


「馨 ………………………………………………………………………………………………。」


「馨 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!。」



「kimi 大袈裟ね(笑)」


「馨 なんて事を!!(笑)」


「kimi ふふ。」


「馨 Hそのものは大好きだけれど、なんでチャットHをしたいのかがまったく僕にはわからないよ」


「kimi それはね…女も、淋しい夜もあるのよ、きっと」


馨は困惑した。どうしてもキーボードと、見えない、触れない画面の向こうのタチを相手に、興奮できる気持ちがわからないのだ。




「馨 そうなのかもしれないね。でも…ああいうのはちょっと困るかなぁ。。。」


「kimi 興奮しないの?」


kimiは結構、こういう事を、真顔で見つめながら言えるなのだろう。


なんだか心臓がドキドキしてくる。


「馨 しないってば!!!」


「馨 だって、やるだけやったら、「あーすっきり」ってな感じで、おやすみなさいだよ。」


そうだ。この手の女の人は、ただ、それをする事が目的で部屋に入ってきて、話をそっちに無理矢理もっていく。そして、応対していくうちに、いつしか返答が切れる。


そう、想像に火がつけば、後は自分の行為に夢中になって、ディスプレイの向こうの人間の待っている感情なんてどうでもよくなってしまうのだ。



「kimi 面白そうだわね。チャットH。」


「馨 やりたいの?」


「kimi 冗談よ。」


馨は慌てた。


「馨 あれは面白くないよ!こっちはウンザリしながら、「乳首吸っていい?」とかやってるの。早く終わってくれないかなー、とか思いながら(笑)」


「kimi ふーん」


「kimi ねぇ…」


「馨 うん?」


「kimi 馨は自分でしないの?」


「馨 自分でって?」


「kimi 一人Hよ」


「馨 な、なんという質問を。。。」


「kimi (笑)。で、どうなの?」


「馨 いや…」


「馨 やり方わかんないもの。」


この子は、マスターベーションのやり方も知らずに女を口説いているのか、とkimiは笑ってしまった。ちょっとからかってみたい、意地悪な気持ちがもたげてきた。


「kimi ねぇ…」


「kimi 君は女の子相手に寝た事ある?」


「馨 …」


「馨 あるよ。」


自分を頂点に導けないのにどうやって相手の女を絶頂に導くのかしら?


「kimi H,Hって言うけれど、ビアンの人はどうやってするの?」


「馨 指だね」


「kimi 指だけで絶頂に導くの?」


「馨 もちろん。だって僕たち、ついてないもの」


まずい質問をしてしまったかしら、と思いながらも、興味を抑える事ができない。


「kimi 自分でできないのに、相手にはできるのね?」


「馨 うん。最初の人に、丁寧に教えてもらったから。」


教えてもらえなければ、今でも僕は、経験がないまま、どうしようと頭を悩ませていたかもしれないと、馨は真面目に語っている。


「kimi 自分は絶頂に行った事がないのに、相手が達した事がわかるのかしら」


失礼だな、と馨は少しむっとする。


「馨 数打ちゃ、嫌でもわかるよ」


数打ちゃって事は、純情な風でいて、この子は結構女慣れしているのかしら?


「kimi 相手はどこで見つけたの?」


「馨 大人数のチャットとか、あとはイベントとか、ビアンバー。そしてメインはここだよ。」


「kimi お盛んだこと」


「kimi 今まで、何人ぐらいと寝たの?」


息を潜めるかのように、kimiは問いかけてみる。


「馨 うーん…。100人ぐらい?」


あっけらかんとすごい数字が出てきたので、kimiは面くらってしまった。


「kimi それジョークよね?」


うーんとね、といいながら、馨は指折り数えている。


「馨 多少人数の誤差はあるかも。20人過ぎた辺りから、実は顔も名前も飛び飛びしか覚えていなくて」


「kimi 呆れた!何年ぐらいここでナンパをしているの?」


「馨 1年ぐらいだと思うよ。」


「kimi あなたって…」


「馨 何?」


「kimi 1年で100人!!クレイジーね(笑)!」


「馨 誰も彼女になってくれないから数が増えていくんだよ。」


「kimi 単なる遊び人なんじゃないの」


「馨 そんな格好のいいもんになりたいよ」


「kimi えっ?」


「馨 僕が、本当に”いい男”ならば、女の子が手放すはずがないじゃないか」




僕の友達なんか、長く付き合える能力があるもの。そう言ったきり、馨は黙ってしまった。


「kimi …ねぇ、馨クン。」


「馨 うん」


「kimi あなたが、おっぱいとか、Hな話を平気でするから、きっと相手はムラムラとするのよ」


「馨 なんだか失礼だなぁ(笑)」


本当に聞きたかった事は、そうじゃない。


この子に会った人は、どうして会った人はそんなに簡単にHしてくれるのかしら?


あまりにもばか正直な性格に、確かに安心感はするけれど、


実際に会ってみて、肌を預けてもいいと思わせるのは並大抵の事ではないはずなのに。


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