朝日はのぼる(一応最終章です)
−2ヵ月後ー
馨はパソコンの前でうたた寝をしていた。
ふと顔を寝返り打って、パソコンの端に当たってしまった。
「あいててて」
目を擦って起き上がる。
もう朝の4時だ。
外からは朝日が昇る気配がする。
目を擦った右手の力が抜け、キーボードにすべり落ちてしまった。
「何やってるんだろう、僕は…」
慌てて起きると、すべり落ちた手の平がエンターキーに当たっていたのか、誰かが入室している事に気がついた。
TAAKO ハーイ
馨は眠い目をまたこすって入力した。
馨 こんばんは。あ、もうおはようかな。
TAAKO こんな時間までずっと起きていたの?
馨 いつの間にか寝ちゃってたよ。今起きたところ。
TAAKO −kimiさん待ってます−ってトピックにあるけれど。
TAAKO このお部屋、毎日作ってたの?
馨 まぁ…そうです。。
TAAKO お邪魔だったかしら?
馨 いいよ。もう、待ち人はここには来ないってわかってるんだ。
馨 それに、もう朝だもの。
TAAKO いい朝ね。
馨 うん。だんだんキレイな空になってきてる。
TAAKO 馨は彼女、いる?
馨 いないよ(笑)。
TAAKO あら、サミシイわね。
馨 確かに寂しいよ。
馨 でも、寂しい、寂しいって言ってるだけじゃ、何も解決しないから。
TAAKO 大人の意見ね。
馨 強がってるだけかも。
TAAKO 待ち人はお友達?
馨 ううん。ママであり、恋人であり、家族。
TAAKO 本当に変わった子ね。メールでもしてみたらどう?
馨 メールアドレスすら、知らないんだ。
馨 聞いておけばよかったよ。鈍くさいな、僕。
TAAKO 本当にね。
馨 ?
TAAKO ちゃんといい子にしてたのかしら?
馨 ?…
TAAKOさんが退出しました。と、ディスプレイに表示された。
馨は何度も何度もエンターキーを叩き続けた。
やがて、誰かがチャットルームに入室してきた。
馨 本当にkimiなの???
kimi おひさしぶりね。
馨 ウソ…。
待っていたはずなのに、馨の目が丸くなる。
kimi あの、ネットナンパ師が、一体ずーっと何をしているのかしらね。
kimi 二ヶ月間もナンパひとつもせずに、空き部屋にいるなんて。
馨 kimi!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
嬉しさは、段々と涙にかわる。
馨 会いたかったよ…。
馨はディスプレイの前で、顔をゆがめた。
kimi 私も会いたかった!
馨の頬が、すこしずつ震えてゆき、やがて、涙でぐちゃぐちゃになってゆく。
馨 僕は…、僕は、ずっとkimiに会いたくて…。
馨はひっくひっくと、しゃくりあげて、キーボードが打てない。
馨 会いたくてたまらなかったんだよ。
kimi うん…。
kimi わかってる。
馨 本当は大好きなんだよ!!
kimi 私を?
馨 うん…。
kimi ママとして?
馨 ママとしても、女の人としても、です。
ディスプレイの前でkimiも目尻に浮かんだものを拭っていた。
kimi 私もその言葉を待っていたのかもしれないわ。
馨 kimi…?
kimi さぁ、仕切り直しよ!
ディスプレイの前で、kimiはかけた眼鏡を持ち上げた。レンズの奥の目が優しく笑っている。
kimi 馨、両手を広げて?
馨 こう?
馨はディスプレイの前で両手を横にのばしてみた。
kimi そう。
馨はどういう事なのか、すこし当惑した。
kimi 広げたままね。
kimi 今、あなたの両手には羽根がついたの。
kimi だから、もう自分を閉じ込めないで、どこにでも飛べるのよ。
kimi そして、
kimi 私も飛び立てる羽根をつけて、両手を広げるわね
kimi だから馨、私の手の中に飛び込んできなさい。
馨は両手を広げたまま、肩も腕も、ガクガクと震わせて泣き続けていた。
もう終わったんだ。自分を閉じ込めて、飛べなくなっていた日々は。
そして、腕の中には、愛する、本当に愛する人が、本当に僕の中にいる。
この大都会に朝の空がいっぱいに広がっていく。
人も街も歩き始める。
そして、沢山の人々の、それぞれの生をコンクリートの大地が受け止めていく。
痛みも、喜びも、すべて、飲み込みながらー。
−END−
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