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コンパクトをたたんで、美樹は立ち上がった。
「いいから来いって!」
座っている馨の腕を持ち上げ、無理矢理立ち上がらせると、美樹は馨の腕を自分の腕に組ん
で、マクドナルドの階段を下りる。
「まだ、ハンバーガー食べてないよ」
「うるさい奴だな」
「美樹だってロクに食べてないくせに」
「あんな場所じゃ、お前が声を潜めるから、何を言ってるのかちっとも聞き取れん」
「アイタタ、痛いよ」
「いいからヨタヨタしないでちゃんと降りろ」
ジャケットの袖を引っ張られて、馨はよろよろと階段を下りきった。
ありがとうございました、と店員の爽やかな声が後ろから聞こえると、眩しい街並みに二人は出た。
「どこに行くのさ??」
「いいからついてこい。方向音痴。」
日曜日だけあって、ビジネスマンはほとんどいない。大きな交差店を、数え切れない程の人並みが、がやがやと楽しそうに歩いている。
「ほれ。入れ。」
と美樹が立ち止まったウィンドウを見上げると「松屋」だった。
「牛丼屋???」
美樹は返事もせずに先に入り、慌てて馨が追いかけると、右手の切符の自動販売機にお金を入れている。
そしてそのまま、カレーのテイクアウトのボタンを押した。
「お前も買えよ。」
「へ?」
「味噌汁もついてくるぞ。」
「…。」
馨も財布から500円玉を取り出し、真似して切符のボタンを押してみた。
「やっぱり買いやがったな。」
美樹は、考えすぎると過食に走る馨の弱い所を見逃さなかった。
馨は切符をとりだして、頭上に掲げてみた。
「なんだか、立ち食いそばの切符みたいだ」
「アホな事言ってないで行くぞ」
美樹はつかつかと通路を歩き、右奥のカウンターに切符を出した。
そして、ビニールの袋を受け取る。
美樹がくるっと避けたので、馨も真似して切符を出してみる。
袋を受け取って、
「カレーのテイクアウトってこうやるんだね」と丸い目を更に丸くする。
美樹はニコリともせず、
「行くぞ」とたったか今来た通路を歩き出した。
「どこ行くんだよ」
馨は慌てて追いかけて店を出た。
「こんな街中でテイクアウトのカレーを食べるのか?」
「はっはっは」
美樹は高笑いして歩いていく。
ちょっと静かな通りに入る。
道一本隔てたら、あんなに賑やかな通りなのになぜだろう?
と、向こうから、どうみても「不倫」であろう、眼鏡をかけた中年男と若い女が、べったり腕を組んで歩いてきた。
すれ違った二人を振り返って、また前を向くと、美樹が建物の前で立ち止まっていたので、馨はぶつかりそうになった。
ん?と思っていると、つかつかと中に入っていく。
「ここ、ラブホテルじゃないの!?」