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馨は机にうつ伏せになったまま、右手でキーボードを叩いていた。
もう2時間もこうしたままだ。
誰かが入室してきた気配がして、ハッと起き上がった。
馨 僕が悪かったよ!!
バかおる 悪かったって何が??
馨 ごめん、間違えた。。。
馨 って君はいったい???
バかおる さぁね(笑)。
バかおる ふふん。
薫 ???
薫 バかおるって…。
バかおる 入りなおすよ
バかおる さんが退出しました。とディスプレイに表示され、すぐにまた誰かが入室すると、部屋はロックされた。
美樹 これでわかった?
馨 まったく。。また邪魔しに来たのかよ(笑)。
美樹 ふふん。
美樹 このくそばか馨め
馨 はぁ??
美樹 このあいだ、「ゆか」で入ってみたのに気がつかなかったろう?
馨 あー、14歳、彼女からメールが来なくて悩んでた子って…まさか。
美樹 そっそ。
美樹 お前にしちゃニブイな。
馨 あれは完璧に騙された!!
馨 僕としたことが…。。
美樹 で、何やってんのさ。
美樹 三日間も−kimiさん待ち−とかなんとかボーっとしちゃって。
馨 よく見てるナー(笑)
美樹 で、kimiさんとやらは?
馨 友達なんだ。
馨 友達であり、ママでもある。
美樹 なんだそりゃ?
突拍子もない事を言うのが馨のバカ正直で面白い所だけれど、さすがに「ママ」には呆れた。
美樹 で、そのママから待ちぼうけってヤツかwww
馨はうなだれた。
美樹 おい、なんか話せよ。チャット部屋開いてるんだろ。
馨 なんか、駄目なんだ…。
美樹 なんでその人がお前の「ママ」なんだよ。
馨 僕が女の子に振られて落ち込んでたら、僕のママになってくれるって言ってくれたんだ。
美樹 それで引いたんだろ
馨 …。
美樹 ネット上だろうが、”ママ”呼ばわりされてさ
ふふんと美樹は鼻で笑った。
馨 kimiはそんな人じゃないよ。
美樹 どうしてそんな事が言える?
馨 僕の”ママ”になってくれるって、ちゃんと約束したんだ。
美樹は、キーボードに両手を置きながら、チッと舌打ちをした。
馨 …。
美樹 おまいの両親の事は残念だったけれどさ。
馨 うん。
美樹 優しいママだったんだってな。
馨 ありえないほど、僕には優しい女だった。
馨は、喪服のまま、一人ぼっちで海を見に脱走したのを思い出していた。
なぜ僕を置いて、二人は行ってしまったのだろう。
いなければいいと思っていたのに
いなくなったら、どうしていいのかわからない事だらけになった。
美樹 ママは置いておいて、どうしておまえは、年上ばっかりナンパする?
美樹 美樹 小さい頃は、同級生の女を好きだったんだろ?
馨 わからない。
馨 きっと、あの時と今は好みが変わったんだよ。
馨ははっとして入れなおした。
馨 kimiは違うよ。家族として愛してるんだ。
美樹 ”永遠の母親”みたいな存在としてかもな。
馨 …。
美樹にはピーンと来た。
馨 やっぱり「ママ」がいやだったのかな…。
美樹 さぁね。母性愛を感じると同時に、気持ち悪くなる事もあるだろ?
馨はしょぼんとパソコンの前で頭を垂れている。
美樹 そのケンカの時、何を話していた?
馨 この間会った、女の人の事だよ。
美樹 うんうん。
美樹 どこからケンカが始まった?
馨 豪華な和食を食べて、バーに行って、そのままフラフラになったら、お家に連れていってくれたんだ。
美樹 それから?
馨 彼女のベットで胸触ったところまでは普通に話してたよ。
美樹はイライラして頭を掻き毟った。
美樹 馨さ。
馨 うん?
美樹 まったくいつもながら…。
ニブイと言いたい気持ちをぐっと堪えた。
美樹 母である前に、kimiさんは女だぜ。
馨 どうしてだよ?
馨 kimiはママだよ。寝る女じゃない。
美樹 向こうはそれだけじゃないかもしれないじゃないか。
馨 は?
馨は思わず笑ってしまった。
馨 楽しく話しているだけさ。kimiにはそんな気はまったくないよ。
美樹 だったらどうしてそこで怒る?