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kimi  作者: LEIN
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まさか!と馨が笑う。



馨 まず向こうの都合を聞いて、開いてそうな日に決めるね。だから大抵は土曜日の夜とかになるよ。


kimi ということは、チャットしてから数日後になるわけね。


馨 そうそう。


kimi その間、忘れられないように相手にメールしたりするのね。


馨 いや、特に僕からはしないよ。会う前にしつこいと思われたらなんだかイヤだもん。


kimi あまり日が開くと、向こうが忘れちゃうんじゃないかしら


馨 あはは。10日ぐらいなら忘れないよ(笑)。


kimi なるほどね。


kimiは赤い万年筆をピタリと顎に当てて、ディスプレイに写る馨の文字を見つめていた。


馨 どうしたの?


kimi あぁ。私なら、次の日に朝食を食べたら「あぁ、変な子と可笑しな約束しちゃったわ」で、馨の事忘れちゃうわね。


馨 ひどい女だなぁ(笑)。


------------------------------------------





ひどいのは一体どっちかしら?



明日は約束があるからチャットに来れなくてごめんね。


そう言って去って行った馨。



スタンドを消して、ベットに潜り込む。


暗い部屋の中で私は考える。



明日も貴方はまた


わたしのしらない女を抱くのね


私は複雑な思いに駆られた。








翌々日の約束を私は破った。


馨はそれでも次の日も部屋を作り、私を待っていた。




kimi ハーイ。馨。


馨 昨夜はどうして来てくれなかったの?


馨は少し怒っているようだ。


kimi 私も毎日暇な訳じゃないのよ。


馨 そうか…。


馨 kimiに会わないと、僕はなんだか全てにやる気がなくなってしまうよ。


kimi ごめんなさい。


kimi で…、昨日の密会はどうだったの?



恐る恐る訊ねてみる。


馨 加奈子さんっていう人だったんだけど、まず加奈子さんに案内されて、和食のお店に行ったんだ。


馨 なんか小さな石の粒が敷き詰めてある、長い庭を通ってね。


kimi 高級そうなお店ね。


馨 そう。なんか街の中にあるのに、いきなり和の別世界だよ。


馨 二人だけの個室に案内されて、すごく緊張した。


kimi 緊張して味が解らなかったとか?(笑)。


馨 最初は何がなんだかもう(苦笑)。後から段々味が解るようになったら、目茶苦茶美味しい事に気がついたんだ。


kimi で…加奈子さんは綺麗だった?


馨 うん!美人だったよ!


馨 (ウットリ)。


kimi 幸せな子ね。で、それからどうしたの?


馨 お金を払おうとしたら「いいから」って手を抑えられて。


馨 会計占めて4万8千円也!!


kimi 彼女はお金持ちなのね。


馨 ロクにお酒も飲んでいないのに…。


kimi 馨にとってはそんな豪華な食事は初めて?


馨 あそこまではないよ。中産階級の子供だもん(笑)。


馨 和食も極めると目茶苦茶美味しいものなんだなぁ…。


kimi それからどうしたの?


馨 加奈子さんのお気に入りのバーに連れて行ってもらったんだ。


kimi うんうん。


馨 そこも凄かった。


馨 グランドピアノを演奏しててさ、みんなお金持ちそうで。


kimi アハハ!!


馨 「僕、こんな格好してきてよかったのかな??」ってオロオロしたっていうの(笑)。


馨 世の中には僕の知らないワールドが存在するものなんだなぁ…(シミジミ)。


kimi そうよ。馨が知らないだけ。


馨 kimiはそういう所に行った事あるの?


kimi ないわよ。


馨 じゃあ僕とおんなじじゃん。


kimi 悪かったわねー。


kimi で、それから?


馨 シコタマ飲んじゃったよ。優しい人で、僕がお酒好きなの見抜いたのか、「どんどん飲んで」って。


馨 グラスの残りがまだあるのに、すぐにボーイさんを呼んでくれるんだ(感慨)。


kimi ふむふむ。。。


馨 いろんなお酒を知ってるみたいでね、「なんとかなんとかがいいわよ」って、お酒のウンチクから説明してくれてね。


馨 なんだっけ。「タンカー」とかいうカクテルも勧めてくれて。。


kimi それを言うなら、「タンカレー」よ(笑)。


馨 そうそう。「カレーみたいな名前だな」って思ったの思い出した。


馨 アハハ。


kimi 「タンカレー」はかなりアルコールがキツクなかったかしら?


馨 舌が焼けるかと思ったよ(笑)。で、タンカレー?で僕はノックアウトされちゃったんだ。


馨 もう頭がフラフラになってさ…。


kimi 彼女がトイレに連れていってくれた?


馨 ううん。「大丈夫?」ってそのまま外に連れ出してくれて、ちょっと歩いたかと思ったら、そこが彼女の自宅だったんだ。


kimi 直接自宅?


馨 うん。そうだよ。


kimiは頭を巡らせた。女が見ず知らずの初対面の相手を、ホテルにではなく、家に上げるなんて!


馨 彼女は先にベッドに潜り込んじゃったんだ。真っ暗でさ。このまま一人で寝た方がいいのか、立ったままオロオロしてたら、彼女がベッドに招き入れたんだ。


kimi それで?


馨 彼女が僕の頭を胸に抱え込んだんだ。たまらなくなって夢中で吸ったよ。


馨 気持ちいいおっぱいだったな…。


馨は勝手に夢見心地になっている。




kimiの胸の中で、突然、何かが沸点に達した。



kimi もうたくさんよ!あんたの戯言なんて!!


馨 どうしたんだよ、kimi!!


kimi あんたはいつまでも、そうやって女を口説いていればいいわ。


kimi どうせ誰ひとり、あんたの事を愛してはくれないでしょうけれどね。


馨 なんでいきなりそんなひどい事を言うのさ!


kimi あんたは毎度毎度、「あんな女と寝た、こんな女と寝た」そればっかり壊れたレコードみたいに繰り返し人に聞かせるつもり?


馨 kimiは僕の全てを受け入れてくれたんじゃなかったの?


kimi 誰がウダウダくだらない、女々しいヤツなんか受け入れてやるもんですか。


馨 僕のママを辞めるつもり?


kimi ママ、ママってね。他人のガキの、泣いた喚いた、やったをマリア様みたいに受け止められると思ってるの!


馨 ひどいよ、kimi。


kimi いいこと、あんたは最初から私にも、女にも、騙されっぱなしなのよ。


馨はPCの前で身体がぶるぶる震えるのを抑えきれなかった。


馨 もういいよ!何が「ママになってやる」だ。何が「全部受け止めてあげる」だ。所詮そこらの女と一緒じゃないか!


kimi 結構。これで私もせいせいするわ。


馨はギリギリと壊れるほどに壊れるほどに食いしばっていた。


馨 僕だって、嘘ツキのオバサンなんか、もうバイバイだ!二度と僕の前に現れるな!!


kimi 望むところよ。


kimi じゃあね。



kimiはスイッチを押して、PCごと切ってしまった。


これでいいのだ。


これで私は、無くした「愛」などというものに惑わされずに済む。


何よりも、社会の常識から逸脱した、おかしな性の世界にひっぱられずに、まっとうな人間として、胸を張って生きていけるのだ。





スッキリしたはずなのに


寝ようとしても、なかなか寝付けない。


kimiは起き上がってスタンドを付けた。


細い外国製の煙草に火をつける




どうしたの?


私とあろうものが


何を考えているのよ。




私から見つめれば


あの子はただの子供じゃない


しかも不可解な世界の


レズビアンだって。笑っちゃうじゃないの。


レズビアンの癖に


愛だの恋だの嘆いちゃって滑稽だわ。



「ママが一番すきだ」


馨の嬉しそうな、画面から飛び出てしまいそうな喜びが一瞬浮かんで、手をはらった。



真っ赤なローブのまま立ち上がり


焦げ茶色の戸棚に辿りつく


少し乱暴に扉を開けて


ヘネシーを取り出した。



苛々としながら蓋を開けてウィスキーグラスに注ぐ。


砕かれた樹氷のような氷を浮かべて。



酔いが回れば忘れてしまうものよ


貴子はヘネシーを煽った。




わたしはベットサイドに戻る


あの人が今日も帰ってこないのが幸いだった。




ヘネシーに口をつけ、片手に煙草を挟みながら、私はうなだれた。




「もうたくさん!」


餓鬼のたわごとに付き合うのはまっぴらだわ。





こんな世界がある事なんて


私は知らなかったのに


いっそ知らなければ


あんな馬鹿な子を育てようなどと


あんな女ぐるいのガキを。


見守ってあげたいなどと思わなかったのに。

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