映子ちゃんと球技大会を見学した日
前回は文化祭のお話をしましたね。今回は行事つながりで球技大会です。
球技大会は3月。もうすぐ進級するこの時期。クラスメイトとの絆を確かめる行事といった感じでしょうか。
わたしにはそんなものないですけどね。
球技大会。大した準備もなく突然行われるこの行事。
うちの学校は特に突然です。前日に言われます。理不尽です。
しかしたまたま映子ちゃんは球技大会に参加できることに。誠に嬉しい限りでございます。
さて、今回の球技大会の競技はドッジボールだそうです。痛いのは嫌ですね。あまり参加したくありません…。と思っていたら、映子ちゃんから参加したくないとの連絡。見学しようと言われました。丁度いいです。映子ちゃんと一緒に見学することにしましょう。
球技大会当日。映子ちゃんは体操服すら持たず学校にやってきました。
「久瑠実~。おはよ~。」
眠そうです。寝るのが遅かったのでしょうか?
「おはようございます。寝不足ではないですか?」
そうきけば映子ちゃんは笑って寝過ぎだと答えました。
私が無理するなとうるさく言うものだから、夜更かしもできやしない、とのこと。
健康なのはいいことです。
「映子ちゃん。ところでですが、球技大会はなぜ参加したくないのでしょうか?」
「あんま球技好きじゃないし。…怪我しそうだし?」
はてなを付けられても困ります。
教室で朝礼を終え、女子は体育館へ、男子はグラウンドに向かいます。男女別なので。
私と映子ちゃんは、私の人脈を使い適当にウソをついて見学をさせてもらえることになりました。
だから制服のまま体育館へ向かいます。
「こうやって私たちだけ制服でいると、少し罪悪感がわきますね。みんな女の戦場に行っているというのに。」
体育祭もそうですが球技大会も女子の部は戦場と化します。それはもう地獄絵図としか言いようのない光景に包まれます。本当に恐ろしいです。
「いいじゃないか。安全第一だ。怪我は本当に困る。」
しかし映子ちゃんは一応行事大好き人間ですから、参加したいとは言うと思っていたのに意外です。
「安全は大事ですね。しかし映子ちゃん、いつも行事は参加していたのに今回はそんなにいやなのですか?」
「いやだ。球技はやりたくない…。」
何か嫌な思い出でもあるのでしょうか?
話していると、招集がかかりました。行事前にあいさつはつきものですからね。そのたぐいのことをやるみたいです。
やたらテンションの高い皆さん。あんまりテンションが上がっていない映子ちゃん。
私はどんな顔をしていればいいのでしょうか。
挨拶も終わり、やっと球技大会に入ります。
私と映子ちゃんは見学とはいったものの、球技を見ることにあまり興味がないので舞台裏でお話しすることにしました。
「汚いですね…。ここで構いませんか?」
仮にも天下のモデル様ですからあまり汚い所に身を置かせるのは気が引けます。普段映子ちゃんがモデルをやっているということは全く意識していませんが、こういうときにはさすがに気にしてしまうものです。
「いいよ。なんかTHE体育館!って感じするし面白い。」
映子ちゃんの感覚ってやっぱり少し浮世離れしているところありますよね。いや、小学校のころから登校回数が少なかったそうなので仕方がないのですが。
「それならよかったです。とりあえず座りましょうか。」
私は比較的きれいなところの埃をはらい、床に腰を下ろしました。映子ちゃんも私に見習い、埃をさっと払って私の隣に座りました。肩がもう少しで付きそうなぐらい近い場所に。
ひっそりどきどきしている私のことなど映子ちゃんはあまり気にしていないのでしょう。
「なぁ久瑠実。学校だしコイバナしよう。」
突然何を言い出すのでしょうかこの人は!少し驚いてしまいました。
「…面白いことはありませんが構いませんよ。」
自慢じゃないですが私、男に恋したことがありません。
「好きな人は、いるか?」
あなたですよ!そう聞くあなたが好きなんです!憧れとしても友達としても、恋愛感情的にもあなたが大好きですよ~~!!!
「いますよ。ひとりだけ。一途なのでかれこれ4年、片思い中です。」
映子ちゃんに出会ったのは中学一年生の時ですから、もうじき4年です。結構な片思いですね…。まぁ友達として、恋愛感情で、は今年度に入ってからの話ですが。
ああもう!同性愛者の心をぐさぐさやらないでくださいよ!!!
「そうなんだ…。久瑠実も恋してるんだな。」
貴方が好きなんだと言えないことが大変もどかしいです。
「ええ。私も人間ですもの。映子ちゃんは?」
「あたしも一人だけ。もうじき一年片思いだ。」
さては大変美しい殿方なのでしょう!!殺してやりたい!その人になりたい!…落ち着きましょうか。
「そうなんですか。映子ちゃんも、片思いですか。同じですね。」
そういって笑いかけると、映子ちゃんもにこっと笑いました。
「そうだな。同じ。…コイバナって精神的にやさしくない気がする…。」
「本当ですね。私はあまりしたことがなかったのですが、あんまり心地の良いものに感じられないのはなぜでしょうか…。」
「話かえようか。」
「そうですね!じゃあ…。」
何の話をしましょうか。映子ちゃんは学生らしいお話がしたいのですよね…。
私も映子ちゃんも部活動というものに所属していないわけで、その上勉強のことなど気にしたこともないわけで。
すると映子ちゃんが唐突に言いました。
「久瑠実。一回仕事場みに来ないか?」
「撮影ですか…?うーん…。」
「いやか?」
もちろんいやではないのです。だって映子ちゃんからのお誘いですからうれしくないことなんてあるわけがありません。
しかし…。
「嫌ではないんです。でも、映子ちゃんとエコさんが混合してしまうのが怖いのです。行きたいです。行きたいですけど、まだ、早い気がします。もう少し、映子ちゃんを知ってからにさせてください。」
正直に言いました。嘘をつく気などありません。
…映子ちゃんには入学式の日、普通の女の子でいてほしいというようなことを言いました。
だからでしょうか。映子ちゃんと呼ばれる普通の女の子と、仕事をこなすエコさんを同時に自分の目で見るのは怖くて仕方がないです。
自分の過去の発言に責任を持てなくなってしまうのは辛いです。
同一人物ですけど、学校でエコさんにするような対応をしてしまったりするのは嫌です。
「そうか。じゃあ、また今度誘ってもいいか?」
「もちろんです。申し訳ありません。…頑張ります。だから少しだけ待ってください。」
「突然ごめんな。はっきり言ってくれてありがと。」
笑顔で言う映子ちゃん。申し訳なさがこみ上げます。
未熟な私が悪いのです。やっぱりエコさんの大ファンですから、映子ちゃんとエコさんを重ねたら、映子ちゃんが消えてしまうかもしれないのです。
「なんだか少し暗くなってしまいましたね!あの、この前の調理実習の話していいですか?」
映子ちゃんも居心地悪く感じてしまうかもしれませんから、さっさと話題を変えてしまいました。
ちゃんと、行くと答えられるようにならなくては。
そのあともずっと映子ちゃんとお話していましたが、私の頭はずっと映子ちゃんに仕事場に来ないかと聞かれたことでいっぱいでした。
私には自信がありませんでした。3年以上も追っかけ続けてきたエコさんです。私の中でのその存在の大きさは私が一番よくわかっています。
だから怖いです。映子ちゃんがエコさんになる姿を見たとき、私はどうなってしまうのか。まだ、怖いです。
球技大会は無事けが人も出ずに終わったようです。
私と映子ちゃんはこっそり舞台裏から出て、終わりのあいさつのために並ぶ人並みにまぎれました。
帰りは一緒に帰ったけれど、私の心が晴れることはありませんでした。映子ちゃんと一緒にいるのに。
今回はこの辺で切らせていただきましょう。
あんな日はなかなかありませんでしたね。あの日の夜ひどく悩んだのを覚えています。結論として、もう少し今までどおりに関わって、もう一度誘われた時に自信があれば行こうということにまとまりました。
本当にみっともなかったですね。
次は何の話をしましょうか。
まだまだ続きます。少しずつ恋模様がはいってまいりました。