映子ちゃんが風邪を引いた日
ごくごく短め。
前回はしんみりと終ってしまいましたので、今回は明るくいきましょうか。
といっても映子ちゃんが風邪をひいて嬉しいはずがないのですが。
…まあそんなにしんみりしないように努力いたしましょう。
この前、映子ちゃんが風邪をひきました。理由としては働きすぎってところです。
毎日の撮影の疲れがついに体調にまで及んでしまったらしいのです。
その日映子ちゃんのお仕事が休みだったから仕事は休まなくて済んだようなのですが、学校に来られなかったことでひどく落ち込んでしまったらしい映子ちゃん。
何故だか学校に来たがる映子ちゃんですから相当ショックだった模様。
そしてその日の朝、映子ちゃんから私のもとにずーんとした雰囲気をまとうメールが送られてきたのです。
“久瑠実…風邪ひいた…。今日学校行くつもりだったけど休む。ごめん。”
私もズーンとしました。
月に数回しか学校に来られないのにその一回がつぶれてしまうなんて何てことだってかんじになりました。神様を呪おうとしました。無理でした。
ということで映子ちゃんに会えないのは嫌なので、私は放課後映子ちゃんのお見舞いに行くことにしました。
ちなみにその日の授業はほぼ上の空です。ノートはしっかり取りますけど。
手しか動いてませんでした。頭は映子ちゃんのことでいっぱいでしたので。
映子ちゃんのお家は私の帰り道の途中です。
遠回りをすることもなく、さらっと行くことができます。結構近いです。
もっとも、家が正反対だったとしても私は行きますけどね。映子ちゃんのお家がどこにあろうと、私は行きますよ!?
映子ちゃんのお家について、インターホンを押し少し待つと、聞きなれた映子ちゃんのお母様の声がしました。
「今あけるから少し待ってね~。」
私は全ての人間に対して敬語なのですが、映子ちゃんのお母様、少し前からため口で私に話しかけてくれるようになりました。光栄ですね。
「久瑠実ちゃん、いつもありがとうね。映子が風邪はうつしたくないけど、久瑠実ちゃんの顔が見たいと言っているの。どうする?」
私に聞かれても困ります。私はいつでも映子ちゃんの意思を尊重しますが、今回に至っては矛盾していますからどうしようもありません。
しかし、私の顔が見たいと言ってくれているのが何よりもうれしい…ということでちらっとのぞかせていただくことにしましょう。
「お母様、少しのぞかせていただいてもよろしいでしょうか?」
「映子も喜ぶと思うわ~!どうぞどうぞ。」
映子ちゃんのお母様って結構いろいろ適当でいらっしゃいますよね?
私は映子ちゃんのお母様に導かれ、映子ちゃんの部屋へ。
間取りは寸法まで完璧に覚えているということは森崎家の人間には秘密です。
私は映子ちゃんの部屋に入ってから早速、ベッドで寝ている映子ちゃんのそばに歩み寄ります。
「映子ちゃん、体調はいかがですか?」
本日メールが来てから気にし続けたことを口にします。
「朝に比べたら大分ましになったよ。熱も下がった。」
にっこり笑顔でそう言う映子ちゃん。重症じゃなさそうでよかったです。
力が抜けてしまいました。
「そうですか。良かったです。でも無理はしちゃいけませんよ?」
くぎを刺すようにそう言います。もう体調を崩されては困りますから。私の寿命が縮みそうですし。心配で。
「わかってるよ。学校はなるべく行きたいし。」
やっぱり映子ちゃんは学校にこだわるようです。
「なんでそんなに学校にこだわるのですか?」
「秘密。」
何度聞いても教えてくれないのです。お母様も知っているようですがうふふと笑ってはぐらかしてきます。
なぜなのでしょうか…。わかりませんね。青春したいとか?
「また秘密…ですか。いつか教えて下さいね?」
「いつか、な。」
そういって笑う映子ちゃんの顔はいたずらっ子そのもの。何かあるのでしょう。
「絶対ですよ?…じゃあそろそろ失礼いたしますね。お見舞いの品を持ってこられなくて申し訳ありませんでした。」
風邪をうつしたくないという映子ちゃんの意思も尊重して早めに失礼することにしました。ゆっくり寝てほしいですし。
「大丈夫だ。…今日はありがとう。今度はちゃんと学校行くから。」
心なしか映子ちゃんがさびしそうな顔をしたのは気のせいでしょうか。私もついにうぬぼれ野郎になってしまいましたか…。
「はい。次は来てくださいね!でも無理はしちゃいけませんからね?それでは失礼します。」
「じゃあな、久瑠実。」
ベッドで横になっている映子ちゃんに手を振って部屋を出ました。映子ちゃんは布団の中でごそごそと手を振りかえしてくれました。
…今日もなんて可愛いんでしょう。
映子ちゃんのお母様に少し挨拶をして映子ちゃんの家を出ます。
私の頭の中はさびしそうな顔に見えた映子ちゃんの表情でいっぱいでした。
あれはどういう意味だったのでしょうか。私にはわかりません。
まあ、気にしないことにしましょう。気にしたってどうにもなりませんしね。妄想するのもいやですしね。
「でもなんだったんでしょう…。」
めずらしく独り言をつぶやきながら家路についた私でした。
後日。映子ちゃんからは朝っぱらからメールが届いていました。
時間はといえば午前5時ごろです。もし映子ちゃんからのメールじゃなかったら、床に携帯を投げつけたくなる時間でしょうけど、映子ちゃんからなのでおーるおっけーです。
“風邪治ったよ。昨日はありがとう。”
相変わらずそっけない文面ですが映子ちゃんらしくて好きです。
私も、いつもどおりの私らしい文面で返すことにしましょう。
“体調がよくなられたようで良かったです(*^_^*)無理はなさらずに。”
映子ちゃんは仕事をする人ですから、長い文章は控えます。
極力短い文章で私の気持ちを伝えられるように努力しているんです。
次、映子ちゃんのお仕事がない平日には学校で映子ちゃんに会いたいです。
さて今回はこれぐらいにしておきましょう。短いですが、体調の悪い映子ちゃんの話はあまりしたくないのです。可愛いんですけどね。
次は映子ちゃんと体育祭に参加した時のことでもお話しましょう。
まだまだ続きます。