映子ちゃんと水族館に行った日
高校2年生、付き合って少し経ったぐらいの時期のお話です。
高校2年の真ん中ぐらいのある日、映子ちゃんはぼそりとつぶやきました。
「水族館って…いるかとか鮫とかがいるのか?見れるのか?」
「多分そうでしょうね。私も行ったことがないので詳しくはわかりませんが。」
「久瑠実、水族館に行こう。」
私たちは急遽、水族館に行くことを決めました。
次の休日。私たちは駅で待ち合わせをすることに。
もちろん私は15分前に駅に着きます。もちろんそこに映子ちゃんの姿はありません。
…と思ったら映子ちゃんは、駅のコンビニにいました。
私は映子ちゃんのもとに駆け寄ります。
「映子ちゃん、なんでそんなに早く…。」
「イルカとかってテレビとか絵本でしか見たことないからウキウキしちゃってさぁ…。」
私も結構楽しみだったりします。何瀬一度も言ったことのない場所ですからね。
それにしても映子ちゃん可愛い…。
「それでこんな早くに…。それで何か買われたのですか?」
「特に何も。時間つぶそうと思ってただけだよ。飲み物も持ってきてるしさ。」
用意周到な映子ちゃん。けっこう節約家なんですよね…映子ちゃん。お金いっぱい持ってるのに。まあそれは置いておいて。
「そうですか。まぁそろったので行きましょうか。」
映子ちゃんを誘導するのは私の仕事です。やっぱり今日も、私が大まかな予定を立てて、その予定に合わせて行動する感じです。
あ、言うの忘れてましたけど。私たち付き合っているので、デートですから。で・え・と。
「ところで久瑠実。どこの水族館に行くんだ?」
「結構大きいところが近くにあるそうなのでそこに行こうかと思っています。電車で数駅です。」
「そんな近くにあったんだな…。」
すぐに電車がやってきたので、さっさと電車に乗り込みます。ラッシュの時間帯は外したので、座ることが可能です。
「すいてるなぁ。」
変装した映子ちゃんがぼやいています。
「そうですね。通勤とかファミリーが良く乗る時間は避けているので。」
「そんな時間帯あるのか?」
私も最近まで知りませんでしたが、たまに服を買いに行くときに知りました。
「あるみたいですねぇ。だいたい人が考えることは同じですから。」
不思議ですねぇまったく。
「電車とかめったにのらねぇからなぁ。危ないって五十嵐さんがうるさいから。」
「まぁ仮にもトップモデルですよ。そりゃあそうもいいたくなりますよ。」
こうやって普通に出かけているとなんの変哲もない友人に思えて仕方がないのですが、やっぱりこの方はすごい人です。
「まぁねぇ…。普通に生きたいけど、もうここまできちゃあ後戻りはできねぇなぁ…。一応変装してきたけど、大丈夫かな?」
変装と言っても目元は隠していません。服装がかなり女子高生の私服っぽいって感じです。
「雑誌の印象とはかなり違いますけど、映子ちゃん身長高いから結構目立ちますよね…。」
「そうだなぁ…。170だからなぁ…久瑠実と今は…16センチぐらい違うのか?」
私の身長は現時点で154センチ。映子ちゃんは私のことを小さい小さい言いますけど、映子ちゃんから見た感じなので実際そんなに小さくもないんですよ?
「そうなりますねぇ。…まぁメイクもしていないし、ヒールもはいていないし。映子ちゃんのトレードマークはあまりないですから、大丈夫でしょう。」
「あたしのトレードマークってなんなんだよ…。」
そこ気にするところじゃないですよ。
あっという間に目的の駅に到着しました。
「ここです。映子ちゃん。おりましょう。」
「ああ、うん。本当に近いんだな…。」
私たちの最寄駅から8駅。所要時間20分程度。毎日一時間近くかけて移動している映子ちゃんにとってはかなり近く感じるかもしれません。
「そうですね。こっちです。」
もちろん今回も、ばっちり地図を頭に入れてきました。まぁ駅からそんなに遠くないので、その必要はないのかもしれませんが万が一のためにね?
「頼りになるな…久瑠実は。」
映子ちゃん、ハードルあげないで下さいよ…。
「そんなことないですよ。地図を一度見ただけです。」
一度だけじっくり見つめましたよ。
「そっか…。」
「あ!映子ちゃん!案内とかは私の役目ですからとっちゃだめですよ~?」
映子ちゃんに看病されたりとか、案内されたりとかはしたい…ですけど、させるのは心苦しいのでいやです。
「は~い。」
とろうとしてたんですか…?
無事水族館に到着しました。目の前で見るとやはり大きな建物です。
建物の外装はやっぱり水色。イルカの絵とかが書いてあります。
「うわ~…水族館だ…。初めて見たぞ…。」
感動してらっしゃる映子ちゃん。私も結構感動していますよ。初めてですからね、私も。
「そうですねぇ…こんなところにたくさんきているんですね、最近の小学生は!!」
遠足とか校外学習とか修学旅行とか。だいたい水族館とか動物園とか行くってっ聞きますし。
「うらやましい…もっと早く来ていればよかった。」
「外装だけで満足しないでくださいよ。楽しいのはまだまだこれからですよ?」
ということで、中に足を踏み入れます。
高校生料金でチケットを買って中に入ります。まず迎えてくれたのは、クラゲでした。
「おー!クラゲだ!海でひっくり返ってるやつしか見たことない!」
「海にはいったことあるんですね。」
「撮影でなー、おー動いてるー!」
クラゲが自由そうにゆらゆらと動いています。
見たことのない動きにびっくりしました。初めてですからね、やっぱり。
「わー…。」
声が自然ともれてしまっていました。
「きれいだなぁ…ここにずっといれそうだ…。」
「ここにずっといるわけにはいきませんよ。」
私が笑いながら返すと映子ちゃんもくすっと笑いました。
「そうだな、とりあえず進もうか。」
トンネルみたいになっていて上が水槽さったりとか、それはそれは大きな吸いそうだったりとか。いろんなものがありました。
もちろん水槽の中では、魚たちが思い思いに泳いでいます。
中には鮫とかもいますけどね。
「そう、映子ちゃん。イルカショー見に行きますか?」
「イルカショー?」
「イルカが飛んだりするやつですよ。」
知らないのでしょうか?さすがに私は名前だけですが知っています。
「ああ、ニュースで見たことあるぞ。あれ、見れるのか?」
「ええ、もうすぐ開始の時間ですよ。」
開始15分前。そろそろ客も集まり始めるころでしょう。早めにいかないといい席が取れませんからね。
「いこう!!」
「ですね!」
会場にはすでに、少しの客が集まっていました。
目の前には大きな水槽というかプールというか。
「おー、でっかいなー。」
「そうですねぇ。想像以上に大きい会場です…。」
いい年した女子高生らしき二人の会話に、周りの人が少し驚いているような気がしますが気にしません。
仕方がないじゃないですか!だって…ねぇ?今まで来たことないんですから。
「とりあえず座りましょうか。」
前の方はあまり見えなさそうだし、その上濡れてしまいそうなので、比較的視界がよさそうな真ん中らへんに座ります。
「あと何分ぐらい?」
「5分ちょっとだと思います。」
「そっか~!」
結構楽しそうな映子ちゃん。初めての施設って楽しいですよね。
イルカショーが始まりました。飼育員の方々が場を進めていきます。
一通りイルカの紹介とかが終わり、ついにショーの始まりです。
イルカたちが次々にジャンプを決めていきます。
「おー!!」
映子ちゃんは無心にイルカを眺め、手をたたいています。
来てよかったですね…。
イルカショーが終わっても映子ちゃんは立ち上がらずにじーっと前を見ていました。
「映子ちゃん?」
「あ!いや、なんかまだないのかなーと思って。」
「おしまいですよ。面白かったですか?」
「ああ、とっても。」
映子ちゃんの子供のような、キラキラした笑顔に見入ってしまいました。
「次は何を見ましょうか?」
「あたし、ジンベエザメみてぇな…。いる?」
ジンベエザメはいたはずです。確か出口に近いところに。
「いますよ。出口付近にいたはずです。とりあえず道なりに進みましょう。」
「そうだな。」
やっぱり映子ちゃんはいちいち声を上げて、私は心の中でやたら感動して、を繰り返していると、ジンベエザメの水槽の前にたどり着きました。
「ここですね。」
「うわー…!でけー!すげー!」
感想が小学生男子ですがお気になさらず。こういう方なのです。
「それにしても、なんでジンベエザメが見たかったんですか?」
「一回同じぐらいの年齢の奴に聞いたことがあってさ。気になってたんだ。そいつすごい楽しそうに言うから、なんかやけに気になっちゃって…。」
珍しいですね。映子ちゃんが仕事関係の人とそんな話をするなんて。
「同世代の人ですか?」
「そう。この前珍しく同年代の人と出くわしたんだよ。時間空いた時に話しかけられたから、何となく話した。」
話しかけられたんですか…。まぁそうでしょうね。業界の人ならあのエコさまと話せたら万々歳でしょうね。
「そうだったんですか…。」
「心配そうな顔すんなよ。あたしは久瑠実以外見えてないし~。」
映子ちゃんがごくごく普通にそんなことを言うので、大変驚きました。
「映子ちゃん…!?」
「見えてないし~~~。」
照れていました。
一通り水族館内を見終わり、もう出口です。
「お土産屋でもよりましょうか。」
「うん、そうだな。」
水族館のお土産屋には、大量の人形が並んでいます。大中小サイズのイルカだとか、鮫とか魚の人形だとか。
案の定、動物好きの映子ちゃんはそれらにくぎ付け。
「かわいい!こっちもかわいい!あれもかわい~!」
わかりきったことですが、やっぱりこのモードの映子ちゃんはギャップ萌えです。
そんな騒いだらばれますよ?今までなんでばれなかったのか不思議でたまらないんですけどね。
「そうですねぇ…あんまり買うとかさばりますから、人形は一つぐらいにしておいてくださいよ?」
「わかってるよ~。」
映子ちゃんはそういって迷わずジンベエザメの人形を手に取りました。
どうやら映子ちゃん、ジンベエザメがとてもお気に召したようです。
「ジンベエザメ、そんなに気に入りましたか?」
「あいつが言ってたより可愛かったから。」
想像以上だったってことですか。
「な、久瑠実。おそろいのものかお~。」
映子ちゃんとお揃い。映子ちゃんとお揃い。映子ちゃんとお揃い!!
嬉しいですよ!?これはこれは…。大変光栄ですよ!?
「いいですよ~!どれにしますか?」
こういうのカップルっぽくていいですよね。
「こいつ~。」
映子ちゃんが差し出したのは、比較的シンプルなイルカのストラップ。
「いいですね。買いましょうか。」
映子ちゃんのお顔もご満悦。
二人でレジを通って、外に出ます。水族館にいたのは3時間半。どれぐらいが平均の滞在時間なのかはわかりませんが、個人としては大満足です。
「楽しかった!!!」
「そうですね、大満足です!」
初めての水族館。結構いい感じでした。
「寄り道したいところとかありますか?」
「今日はとくに。」
とのことなので、帰路につくことにしましょう。
電車に乗り込み、やっぱり座ってひと段落。
歩き疲れた足がちょっと楽になります。
「結構疲れたな~。」
「そうですねぇ…。あ、映子ちゃん。ほかに行ってみたいところとかありますか?どこでもいいですよ。」
せっかくだから映子ちゃんとはいろんなところに行きたいです。きっと今後、映子ちゃんはもっと忙しくなってしまうだろうから。
「うーん。動物園行ったことないし~、ネズミーランドも行ってみたいし…。あと、京都とか行きたいな。ああ、あと、温泉とか!!」
「いっぱいありますね。片っ端から、行きませんか?何年かかるかわかりませんけど。私には金銭問題もありますし。」
稼ぎのない高校生なので、あんまり出かけまくることはできませんしね。
「おごるのにな~、久瑠実にならいくらでも。」
「それはやっぱり気が引けますよ。ちゃんと、うちのお金で行きます。」
あんまり迷惑かけたくないんですよ。もっとも、映子ちゃんはお金なんていくらでも出してやると思っているんでしょうけどね。
「そうだな。気が重いよな。遠くへの旅行とかは、久瑠実が稼ぐようになったらいこう。」
そのときまで、関係が続いていたらいいなと思いながら、映子ちゃんに笑顔を向けました。
とりあえず、次は動物園にいってみましょう。
次はおそらく映子視点。




