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ビターチョコとストロベリー  作者: 須谷
森崎映子からの話
36/40

大好きな久瑠実

 高校生活ももう少しで終わりを告げる、そんな時期になった。

 そんな時期にあたしのもとに新しい仕事が舞い込んできた。 

 ドラマの主演である。ずっと練習し続けてきた演技。その練習が報われる時が来たのだ。それがとてもうれしい。やっと新しいステージに進める。


 高校生の間で大分雰囲気が変わったあたし。やっぱりお高いイメージは消えないらしいが、少し軽い感じの仕事もするようになった。 

 そのうわさが監督に届いたらしく、使ってみたいと思ったらしい。光栄なことだ。役柄は、前向きな高校生みたいな感じだ。高校生活の終わりを締めくくる、いい役だ。

 ドラマの撮影は結構しんどいと言われているが、あたしは楽しみで仕方がない。いろんな仕事がしたいんだ。いろんな仕事が。

 そしてたくさんの人に見てほしい。批判もあると思う。でも。

 少しでもたくさんの人に見てもらい、少しでもたくさんの人の支えになりたいんだ。

 ドラマの撮影期間中と、放送中は何かと仕事が増えてしまうので、久瑠実にあまり会えないのは少しさびしい。

 でも、あたしを支えてくれる久瑠実のために頑張る。もちろん体調を崩したりなんかしない。健康第一でやるから、心配はいらないよ。


 卒業式の日がドラマの撮影日に被った。一応卒業資格は得られたのだが、卒業少々授与式には参加できなくなってしまった。もちろん打ち上げとかにも。

 それが残念で仕方がない。久瑠実と一緒に卒業したかったなぁと思いつつ、あきらめる。

 まあ仕方がないけどな。


 ちなみに、進学について。あたしは大学にはいかず、仕事をすることにした。そして久瑠実は国公立の有名大学に行くことになった。

 さすが久瑠実だな!オール5の学年主席だもんな!!


 あたしのドラマ撮影が始まるのは、卒業式の一週間前だ。なんでそんな時期から撮影を始めるのかは知らない。多分編集の具合がその辺がちょうどいいのだろう。

 もう少し後だったらなあとは思うけど、仕方がない。

 あたしは五十嵐さんが運転する車に揺られて、撮影場所に向かう。あたしは車の中では寝なくなった。切り替えるモードがなくなったからだ。 

 おかげでかなり仕事中の雰囲気が変わってしまったのだ。目つきとか。

 でも評判はいいから良しとしよう。

 起きているからやっぱり五十嵐さんとは話す。小さいころは親の手下だと思っていたから絶対に話さなかったが、今はそんなことはないと知っているので普通に話す。

「ついにドラマ撮影ね。体調とか大丈夫?」

「大丈夫です。久瑠実に体調についてはかなり言われているので、崩すわけには行けませんしね。」

 ちょっと笑いながらそういう。まぎれもない事実だから仕方がない。高1の時から健康のことは言われ続けているんだから。

「さすが久瑠実ちゃんね。頼りになるわ。」

「結構意気投合してますよね…。」

「同じ人を想っているんですもの…。」

「誤解を招くような言い方しないでくださいよ。」

 家から30分程度で撮影場所に着いた。今日撮影するところは結構近いのだ。ドラマ撮影はコロコロ場所が変わる。今日が近いだけだ。

 楽しみだなぁ。あたしは監督さんやキャストの方々に挨拶をする。

「おはようございます。」

「おはよう、エコさん。よろしくね。」

 かなりの先輩だけど、今回はわき役。なんだか申し訳ない気持ちになるが仕方がない。

 この人たちが堂々と演技ができるように、あたしも全力を尽くす。

 

 撮影が始まった。セリフはばっちり覚えているが、監督の要望で少しずつ変わることもある。それに対応しながらの撮影は結構しんどい。

 しかしたのしい。これ以上ないほどに楽しい。生きがいを感じる。

 久瑠実がくれたたくさんの言葉を胸に秘め、前を向き、演じる。

 あいつが自分の演技を見た時、喜んでくれるように。


 一日目の撮影が終わった。

「お疲れ様、エコ。かえろっか。」

 五十嵐さんの声が懐かしく感じられる。今日一日、長く感じた。

 慣れ親しんだ五十嵐さんの車に乗り込めば、安心感が心に宿る。撮影は楽しかったけれど、それと同時にかなり緊張していたみたいだ。

「あんまり時間ないけど少し寝たら?」

 五十嵐さんがあたしを心配してか、そんなことを言う。

「そうします…。」

 疲れた体は、すぐに眠りについた。

 

「エコ、ついたわよ。」

 五十嵐さんの声で目が覚める。あれ…ここは。

 そうだ、撮影の後疲れて車で寝てしまったんだ。

「ああ…すみません。有難うございました。」

「明日も早いから、ちゃんと寝てね?」

「わかってますよ。」

 久瑠実にうるさく言われているからな。


 家の中に入り、ごはんをたべて、風呂に入って。やっと自分の部屋に戻る。

 携帯を確認すると、久瑠実からメールが来ていた。

“撮影お疲れ様です。ゆっくり休んでください。”

 やはりあたしの体調を心配しているみたいだ。そんなに心配しなくても、久瑠実に言われたことを無視したりなんてしないよ。

「かわんねぇなぁ…。1年の時から。」

 あたしは思わず独り言をつぶやいた。そしてメールを返す。

“わかってるよ、心配するな。”

 マジでカップルのメールだな。これ。


 その後も撮影は問題なく進んだ。たまにスタッフとか監督がもめて、撮影中止になるドラマとか映画があるけど、そんなこともなく。

 ごくごく円滑に、和やかな雰囲気で撮影は進んでいった。

 ただ、高校の戸津行式の日には少しさびしい気持ちになったが。


 撮影の途中にあった久瑠実の大学の入学式は見に行った。

 数少ない休みだったがどうしても久瑠実の姿が見たくて、連れて行ってもらった。

 久瑠実とたくさん話すことはできなかったけど、何となく心が軽くなった。もっと一緒に入れたらいいけど、今は仕方がない。 

 今は我慢だ。メールだけでガマン!!

 

 7月の始め、ついにドラマの撮影が終わった。長い長い撮影期間が終わりを告げたのだ。

キャストの人たちとも、かなり仲良くなったので、打ち上げみたいなこともした。

 ずいぶん業界になじんでしまった。


 撮影終了後日の休日。朝から家に五十嵐さんがやってきた。

「おはようエコ。」

「なんすか、休日妨害ですか…。」

 五十嵐さん=仕事である。だから休日はあまり見たくないのだが…。

「今日は運び人よ。ある人にエコをある場所に運べと脅されているのよ。さ、乗りなさい。」

 脅しってなんだ。脅しって。

「そうですか…。」

 とりあえず車に乗り込む。

「出発しんこ―!!!」

 なんでそんなにテンション高いんですか五十嵐さん。


 よくわからないところをぐるぐる回って40分くらいかけてたどり着いた場所は、あたしの家だった。

「は?」

「ご依頼主はいまこの家にいる方でーす。」

 ちょっとまってどういうこと?

「どういうことだって顔してるわね?詳しくは本人に聞いちゃいなさい。」

 あたしは車から降り、とりあえずインターホンを押す。

 するとすぐに久瑠実が家から出てきた。

「いらっしゃいませ、映子ちゃん。どうぞ入って下さい。」

 状況がうまく把握できていない。どういうことなんだ。

「これは…?」

 驚いているっていうか、ただただ状況が分からない。

「映子ちゃん、ちゃんと卒業式をやっていないでしょう?だから、撮影終了祝いも兼ねてやろうとずっと企画をしていたんです。私だけではできない部分もあるので、映子ちゃんのご両親や五十嵐さんにも協力していただきました。」

 久瑠実はにっこりと笑って見せた。

 あたしの目は涙を含んでいく。

「…映子ちゃん?」

「ありがと、久瑠実。ありがと~…。」

 気づけばもう号泣していた。勢いで久瑠実に抱き着けば、久瑠実はびっくりしながらもにっこり笑った。

「私が高校一年生の時、一度映子ちゃんがサプライズで誕生日会してくれたことを覚えてらっしゃいますか?とっても嬉しかったんです。だから、映子ちゃんにもあの感動を、と思いましてね。」

 そんなこと覚えていてくれたんだ。

「映子ちゃん、たくさん準備してますから始めましょう。」

「うん…。ありがと~。」

 驚いたし嬉しかった。


 ずっと高校からあたしの卒業証書を預かっていたらしい久瑠実は、それをあたしのお母さんに渡す。

 渡す役は、あたしの母親らしい。その方がそれらしいからかな。

「卒業証書。第2267号、森崎映子。…」

 お母さんから卒業証書を受け取る。ずっともらえていなかったその大事なもの。

 卒業証書をもらい実感する。もう高校で久瑠実と会うことはできない。…さびしいなぁ。

「久瑠実?」

 後ろを向くと久瑠実が泣いていた。どうした?

「映子ちゃん…さびしいです…。もう学校で会えないし、映子ちゃんの仕事も増えるし…。」

 久瑠実もさびしいと思っていたらしい。奇遇だな、あたしもだ。

「ね、映子と久瑠実ちゃん。一緒に住んだらいいんじゃないかしら?」

「「え?」」 

 あたしのお母さんが問題発言をした。確かにもう18だし親離れしてもいい年だけど…?

 司の方法があったことをすっかり忘れていた。

「いまさら何驚いた顔してるのよ。とっくに考えてると思ってたわ。付き合ってるのなら、一緒に住んだらいいじゃない。」

 なんで知ってんの?言ってないだろ?顔にも出したつもりはないぞ?出てたと思うけど。

「私も、久瑠実ちゃんのお母さんもとっくに気づいてるわよ。…何年映子の母親やってると思ってるのよ。…もう、いつ言い出すのかとどきどきしてたのに自分から言っちゃったじゃない!」

 あたしが子供の時はあたしを仕事に縛り付けているだけだと思ったけど、ちゃんと母親らしいところもあるらしい。

 初めて知った。

 しかし、もうすこし同性愛に対して反応はないのか。

「映子ちゃん…。」

「うん。」

 今じゃ、言葉なしでも大まかな会話ができるわけだけど。

 久瑠実のお義母さんも口を開いた。

「私も知ってたけど待ってたのに…。私も、二人は一緒に住んだらいいと思うよ。お金は出してもいいし。」

「本当ですか…?」

「いいのか!?」

 いつの間にか両親も五十嵐さんも、にっこり微笑んでいた。気づかれていないと思っていたのは自分たちだけで、周りの大人はみんな気づいていたらしい。

「嬉しいです…。映子ちゃんは、私と同じ家に住んでもいいのですか?」

「ああ。もちろん。あ、家賃はあたしが出す。」

 あたしは親の方を向いて、はっきりと言った。今まで稼いだ金はほぼ一切使っていないから、かなりたまっているだろう。

 だから二人分ぐらい問題なく出せるはずだ。

「久瑠実を養えるように頑張る。今までのも合わせて、どうにかする。あたしたちの問題だからあたしたちでどうにかする。」

 もう親には頼りたくない。できるだけ自分たちで頑張りたい。孫の顔は…あたしより10個も歳が上の兄に頑張ってもらう。実は兄がいる。

「私は何を…?申し訳ないです…。」

「大学卒業したらマネージャーでもやってくれよ。五十嵐さんにはお世話になってるけど、五十嵐さんにはもっと合う人がいると思うからそっちに行ってほしい。」

 あたしは珍しくはっきりとした口調で言った。そうじゃないと決意が伝わらないだろ?

 両親と五十嵐さんは何かを悟ったのか、しっかりとうなずいた。

 そして五十嵐さんが、一言。 

「私はエコが望むなら、なんでも。」

 ずっとマネージャーとモデルという関係で関わってきたわけだけど、今は前よりいい関係になれたと思う。いい兆しだ。

 あたしも五十嵐さんも変わった。

「「ありがとうございます。」」

どうかこれからも、この温かい人たちの中で生きさせてくれ。


 無事卒業式と、クランクアップ祝いをおえ、あたしと久瑠実はあたしの部屋にいた。ここもまた、二人でいるのにはかなり慣れた部屋である。

 あたしは久瑠実に言いたいことがあった。

「なぁ久瑠実、ドラマの先行上映会があるんだけど、そこにあたしでるから、来ないか?」

 あたしの全力のドラマだ。久瑠実にはでいるだけ早く見てもらいたい。

「いいのですか?チケットとか…。」

 もちろん。久瑠実はあたしの家族だろ?

「あたしの親族ということで、な?」

 先行上映会では、キャストのコメントとかがある。聞いてほしい。

「行きます。」

 いかないとか言われたらどうしようかと思った。あたしは安心して力が抜けた。


 先行上映会は結構後の話。ドラマがテレビで放送されるのは冬からだから、それまでに家を探すことになった。 

 といっても、あたしは番線のためにバラエティ番組や雑誌などに出まくらなければならないため家さがしにはあまり協力できない。

 すべては久瑠実の独断である。

 あたしはぶっちゃけ久瑠実が選ぶ場所ならどこでもいいと思っている。だって久瑠実はいつだってかなりセンスがいいから。

 信用しているんだ、心から。 

 きっとあたしたちにピッタリのいい家を見つけてくるだろう。


 結論として。風通しのいいちいさめの一軒家を買うことになった。不動産屋で見つけたわけではないらしい。

 久瑠実のお義父さんの友人夫妻が引っ越すということで、住んでいた家をけっこう安くで売ってもらえることになったのだ。

 夫婦こだわりの家で見知らぬ人に手放すのが嫌だと言っていたらしいので好都合だった。

夫婦と久瑠実は顔見知りである。そして夫婦はあたしの大ファンであるらしい。


 税金やらなんやらで結構金がかさむかと思っていたがそんなこともなかった。全部ひっくるめても、あたしの貯金額の足元にも及ばなかった。自分でも焦った。

 未成年だから、親を通して無事いろいろな手続きも完了。

 あとは引っ越しだけ。

 

 あたしはやっぱり仕事で忙しかったから、荷物の運び出しは久瑠実や両親がやってくれることになった。

 引っ越し先の家はあたしの久瑠実の家のちょうど真ん中ぐらいにある家出引っ越し業者は必要ない。

 大きめの家具は全部新しく買ったから、小さいものが多いしトラックはいらないのだ。

因みに家具は久瑠実と家具屋に言って一緒に選んだ。

 配置はもちろん久瑠実がやった。まだ見ていないけど、きっとあたしが落ち着くような配置にしてあるんだろう。小さな頭で名一杯計算して。やっぱり賢いから。

 一軒家だけど、ちいさめだから配置も楽だったと聞いている。

 そして今から、あたしはその家に初めて帰宅するのだ。


 ドキドキしながら、家のカギを開ける。やっぱりインターホンじゃ客人っぽくて違うだろうということになり、鍵を渡された。

 中に入ると、久瑠実がぱたぱたとはしって玄関にやってきた。

「おかえりなさい、映子ちゃん。晩御飯できていますよ。」 

 さすが久瑠実、発言も新婚夫婦そのもの。

 リビングには一緒に買った家具が並んでいるわけだが、買った時よりもかなりきれいに見える。 

 なんというか周りの雰囲気に合っているのだろう。壁紙の色とかも工夫されていて、家具がそれに合っているのだ。

「すげぇな…。さすがだ…。」

 久瑠実のセンスに間違いはないと思う。初めて来たのにこの安心感。

「とりあえず食べてください。」

 まぁ家を探検するのは、夕飯の後にしよう。

「そうだな、いただきます。」

 

 夕飯を食べ終わり家を見て回る。さすがこだわりハウス。屋根裏部屋もある。

 部屋に至っては、前まで住んでいたところとほとんど同じになっている。

「なんでおんなじ感じなんだ?」

「高校のころの気持ちを忘れないようにね?」

 そういうところ久瑠実っぽいよな。

 もう一つ部屋があったんだけど、そこは一番風通しがいい部屋で。もちろんデザインは…。

「ここは高校のときの隠し部屋をイメージしてものを配置しました。もちろん暗号は必要ありませんし、中はまぁ服置き場なんですけどね。」

 久瑠実に一段と近づいた場所があるのは結構嬉しかった。


 

 もうすぐ先行上映会が始まる。久瑠実との同居?同棲にも慣れ、結構立った。しかしそんな生活を始めてから、久瑠実があたしの仕事をしている姿を見るのは初めてだ。

 緊張する。なんせはじめて自分の演技が公開されるのだから。

 インタビューとかは上映が終わった後。

「エコさん、緊張してる?」

 年上の女優さんがあたしに聞いてくる。

「そうですね…結構。恋人が来ているので。」

「あら、そうなの?いいわね!いやぁ、そりゃあ緊張するわ。」

 彼女はにっこり笑った。この人もそういうの経験したことあるのかな。

「北村さんはそういうの経験したことあるんですか?」

「あら大胆な質問ね…!…あるわよ。私も初めての上映会の時に、彼氏に見に来てもらったの。」

 そうだったんだ。そういう人結構多いのかな…。まぁ、その時一番大切な人に見に来てもらいたいよな。

「その人とは…。」

「その人とはね…。」

 何故かためるので、つばをごくりと飲み込む。その人とは…?

「結婚しているわよ。ほら。」

 そういってあたしの前に左手を差し出した。その薬指には、結婚指輪が輝いている。

 ちゃんと結ばれたんだな。

「おお!それは良かったです。」

「なんか、初めての上映会に連れてこられた恋人とは結ばれる、っていうジンクスでも作りたいわね。業界に。」

「それいいですね!」

 気づけば緊張もほぐれていた。彼女はあたしの緊張をほぐそうとしてくれていたみたいだ。 

 アナウンスが入る。もうすぐだ。

 

 ドラマの先行上映がはじまった。自分の声が会場に響いているのが分かる。客観的に見るととても恥ずかしい。

 でも久瑠実が喜んでくれたらいいなぁ。


 上映が終わり、都合の合ったキャストが壇上に上がっていく。

 まずはコメントから。

 今回はあたしが主演なわけだから、必然的に順番は最初に回ってくる。

「じゃあまずはエコさん、今回のドラマについてお聞かせください。」

「今回ここにお集まりいただいたみなさんありがとうございます。改めまして、モデルやってます、エコです。初めてのドラマでしたが、ほかの出演者さんの手助けもあり、無事撮影を終えることができました。あと、個人的な話なんですが、プライベートの方で私を支えてくれた人がいまして…。」

 会場がざわめく。おお?といいながらシャッターを切る取材陣。

 「高校生の時の同級生なんですが、本当にすごい人で。名前の通った私に普通の扱いをするんです。普通の高校生の扱いを。高校生になってから私がこんなに頑張れたのは確実に彼女のおかげです。いつもはあまり言えないんですが、この場を借りて言わせていただきます。いつもありがとう、大好きです。…この辺で。ありがとうございました。」

 あたしは深く頭を下げる。すると会場から大きな拍手が上がった。

 横にいる先輩女優さんを見れば、にこっと微笑んでくれた。そして小声で。

「やるじゃない。」

 そういった。


 そのあともイベントは続く。質問がどんどん飛んでくる。

「エコさん、今回初めての撮影だったそうですが大変だったこととかありますか?」

「そうですね…。しいて言うなら、途中で睡魔に襲われて寝そうになることが多々あったことですかね。」

 会場がくすっと笑う。事実だぞ?笑い取ろうとか思ってないから。

「エコさんエコさん!!恋人のこと教えてください!」

「それはだめですよ?私の物ですからね。」

 笑いながら言えば、また会場がざわめいた。


 無事先行上映会が終わった。

 久瑠実は終始泣いていたけど、一部一部くすくす笑っていた。それを見て一安心した。

 あたしは寄り道を一切せず家に帰る。

「ただいま~。って、なんで玄関に…?」

「おかえりなさい、映子ちゃん。今日は…とっても素敵でした。」

 あたしは靴を脱ぎながら、久瑠実に笑顔を向けた。

 「来てくれてありがと。恥ずかしかった…いろいろ。ごめんな、久瑠実の話だしちゃって。」

「いいんです…。あの、えっと…。」

 久瑠実の次の発言を待つ。

「大好き、映子ちゃん。」

 短かったけど、敬語ではない言葉が返ってきた。


 

 物音で目が覚めた。久瑠実が横で、起き上がったらしい。

 うとうとした目で久瑠実を見つめる。

「ああ、久瑠実…。おはよ。」

「おはよう。映子ちゃん。」


映子視点完結です。

次、番外編です。

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