久瑠実のコレクションを見た日
前回の続きだ。
あらすじでも言っておこう。あたしと久瑠実は仲を深めるために、お互いが知らなそうなところをさらけ出す的な企画を始めた。始めたと言っても一日だけだが。
それであたしは口調の話をして、久瑠実は部屋を公開することになった。
で。久瑠実の部屋公開のことを次に話そうって感じかな。
あたしの家を出発して、久瑠実の家に向かう。徒歩4分程度の割かし近い場所にある、
あたしは久瑠実の部屋がどんなのか、見るのが楽しみでにっこにこだが、それに対して久瑠実は何となく複雑そうな顔だ。
そんなに見せたくない部屋なんだろうか?それとも掃除を忘れたとか。
久瑠実の複雑そうな顔の理由の見当もつかずに、あたしはひたすら足を動かす。
あれこれ考えていたらあっという間に久瑠実の家の前だ。
「映子ちゃん、ここです。」
「ここか、すごい家だな…。」
ずば抜けて目立ってるその家。なんというかヨーロッパ風だ。別に城みたいとかそういうわけじゃないけど、とにかく洋風なのだ。
瓦屋根が並ぶ住宅地に一軒だけ。洋風の家が佇んでいるのだ。
「父がこういうの好きで…。中は普通ですよ。どうぞ。」
すごいお父様だな…。でも決してセンスが悪いわけではなく、とても美しい。
久瑠実が家の中に、あたしを促す。あたしは今までに人の家に入ったことがなかったので、少しためらいながらも中に入った。
「お邪魔しま~す…。」
「どうぞ。」
中は普通だと言っていたが、あたしはそうは思わない。やっぱり日本製ではなさそうな家具が並んでいるし、壁紙にはなんというかきれいな模様が入っている。
あたしはついついまじまじと家の中を見てしまう。たびたび感動して、うおーとかすげーとかいってしまう。
そういえば。久瑠実の部屋に用事があるんだった。リビングとかは後でゆっくり見させてもらおう。
「久瑠実の部屋はどこだ?」
「あ…。」
久瑠実が忘れていたかのような声をだす。おい。今日のお目当てだぞ?
「はい。案内いたします。」
久瑠実は複雑そうな顔から決意が現れたような、きりっとした顔になってそう告げた。腹をくくったのだろう。
久瑠実はあたしを自分の部屋に誘導した。
あたしの第一声と言えば。
「すげぇ。」
久瑠実の部屋に入るなり、久瑠実のコレクションをまじまじと見つめてしまっているあたし。
汚いわけはなかった。やっぱりきちんと整頓されている。
何が整頓されているかと言われれば、あたしが過去に出た雑誌の数々だ。
「…こんなかんじです。どうでしょうか映子ちゃん。」
恥ずかしそうに言う久瑠実。恥ずかしがる必要なんてないのに。
「すごいな…あたし、自分の載ってる雑誌とか全く興味ないから押し入れに放り込んでるけど。こうやって、並べて鑑賞してくれている人がいると思うと、がんばらなきゃいけねぇなって思う。なんかすげーうれしい。」
純粋にうれしかった。あたしのことを本当に応援してくれていることが。
やっぱりファンには感謝しているし、こうして雑誌を買ってくれるのはとてもありがたい。自分の姿を見て、何かしらよい感情を持ってくれたら本望である。
「ひかないのですか?」
しばしのあいだ口を開けて固まっていた久瑠実はやっとあたしにそう告げた。あたしの反応に相当驚いていたようだ。
引くわけないじゃないか…。久瑠実入学式の日に、あたしにおファンだと言っていただろ。雑誌全部集めてるとか言ってただろ。
「あたしも自分のこと言ったらひかれると思ってたよ。…普通にうれしい。」
もうな、今感激でいっぱいなんだ。
「そう…ですか。よかったです、映子ちゃんがそう言ってくれて…!」
相当どきどきしていたんだろうな。ずっと固い顔してたもんな。
そんなに心配しなくてもいいのに。あたしは、あたしは久瑠実のこと…。
「ありがとう、久瑠実。」
とりあえず感謝の意を伝える。伝えたかったから。理由はそれだけ。
「いえ。私も元気をもらっていますから。」
誰かにとって、支えのような存在になれているならあたしはうれしいんだよ。
そのあとも久瑠実の家で、いつも通りのペースでいろいろ話した。特にあたしの仕事の話だ。学校とは違うあたしの話。
そして久瑠実は、あたしが帰る前にはっきりとこう告げた。
「映子ちゃん、私映子ちゃんがお仕事しているところ見に行きたいです。見に行かせてください。」
待っていたよ。ずっと。
ついに久瑠実があたしの仕事の姿を見る気になったんだな。別人になってしまうかもしれないけど許してくれよ。
「いいよ。見に来てくれ。あたしの、生きがいをさ。」
そういったあたしの顔は、まぎれもなく仕事をしているときの顔。
久瑠実は、モデルのエコと先に出会ってしまったから。いつあたしのことを友達として見られなくなってもおかしくはない。
わかるか?もし有名人と友達になったとしたら、頭の片隅で優越感とかあるだろ。
そういうのが久瑠実は嫌なんだろうな。少し話を聞いた限り。
あたしは学校に行くときと仕事の時ではかなり容姿も、人との関わり方も違うから。今は久瑠実の中でなんとなく別人のようになっている。
それを同一人物としてみた時、あたしはどうなる?
どうか、友達でいてくれ。ファンはうれしい。でも、久瑠実とは友達でいたい。初めてできた友人を失いたくないんだよな。
好きだけど。高望みはしないさ。友達でいてくれ。
今回はここまで。つぎは久瑠実があたしの撮影現場に来た時の話。
まだまだ続きます。




