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ビターチョコとストロベリー  作者: 須谷
森崎映子からの話
22/40

久瑠実が家に来た日

 今回は久瑠実があたしの家に遊びに来た日の話でもしよう。あの日は久瑠実の誕生日で、前々からあたしの家で誕生日会を企画していたんだ。

 喜んでもらえるかどうか、そわそわしたものだ。


 ある日突然、あたしは久瑠実に言った。

「久瑠実、今日あたしの家来ないか?」

 久瑠実にサプライズをするために、あたしが家にいるときに久瑠実を呼んだ。

もちろん久瑠実にそのことは伝えていない。発言するとき、ぎこちなくなっていなかったか心配だ。

 でも久瑠実から威勢のいい返事が返ってきたので、問題なく伝えられたことを知った。

「はい!!もちろんです!!行きたいです!!」

 ほっとした。これで無理だと言われたら、予定が台無しだから。まぁ久瑠実の両親にも話をつけて、予定を開けておいてもらったんだけど。

「そういってくれて良かった。放課後、学校から直でいいか?」

「はい、構いません。」

 そういった久瑠実の顔はにやけ気味。あたしが誘っただけでそんなに嬉しいものなのか?

 あたしはにやけている久瑠実に少々困ったような顔を向けながらも、サプライズが楽しみで自然と笑みがこぼれた。

 久瑠実が喜んでくれたら本望だ。


 その日の放課後、あたしと久瑠実は学校から直接、あたしの家に向かった。

あたしは珍しく、放課後まで久瑠実と一緒にいれて幸せいっぱいだ。

 でも、サプライズが成功するかどうかが不安で、顔は笑えていない。

 言及してこない久瑠実に感謝をしつつ、数日かけて準備した誕生日会会場のことをずっと考えていた。

 あたしの家は学校から徒歩で15分程度。久瑠実の家の帰り道の途中にある。話しながら歩いているとあっという間にあたしの家に着いた。

 緊張する。久瑠実がこういうことが好きなタイプなのかがわからないから余計に緊張する。

 あたしはぎこちない手つきで、自分の家の扉を開ける。その途中に久瑠実の方を見ると不安げな顔。

 あたしがあまりにも緊張しているから、それを不安に思ったらしい。

 あたしは申し訳なく思って、思い切り扉を開けた。

 扉の先には、昨日施された装飾がたんまりとある。

 自然とあたしの顔には満足げな表情が浮かぶ。今久瑠実が何を思っているのかはわからないけど、客観的に見ていい出来だ。

「へ…?どういうことですか?」

 久瑠実の問いに対して、あたしはにっこり笑って返す。

「久瑠実、今日誕生日だろ?…いつも、世話になってるからサプライズ…したいなって。お母さんに協力してもらって、今に至る。」

 ずっと久瑠実に頼りっぱなしだから、せめてこういう機会に恩返しができたらなとずっと思っていた。

 久瑠実になら人見知りも発動しないようだし、頑張れる。

「映子ちゃん…。」

「迷惑…だったか?」

 あんまりにも久瑠実が小さくつぶやくものだから、心配になった。

久瑠実に迷惑をかけるのは嫌だ。たぶん今なら仕事をミスるよりもいや。

「いえ…。とっても嬉しいです!!嬉しすぎてなんもいえねぇって感じです!私…自分の誕生日なんて忘れてたから、すごいびっくりして!!」

 ぼろぼろ泣きだした久瑠実に驚いた。かなり喜んでくれたようで嬉しかった。

なんだかんだであたしのことばっかり考えて、自分のことを忘れてしまっている久瑠実に、恩返しができたようでよかった。醍醐味はまだ先だけど。

 やっぱりぼろぼろ泣き続けている久瑠実は、あたしに抱き着いてきた。

「ふぇぇええ!!映子ちゃぁあん…!」

 普段のキャラもぶっ壊れて、あたしにしがみついている久瑠実の頭に、あたしは手をのせた。自然とあたしの顔は笑顔になって、手は久瑠実の頭を撫でる。

「喜んでもらえたか?」

 反応でわかりきっているけど、わざと聞いてみた。久瑠実の口からもう一度。はっきりききたかったから。

 久瑠実に対しては随分と欲深いあたしである。

 久瑠実に出会うまでは、欲なんて高校に入りたいってこと以外なかったのにな。

 「もちろんですよぉぉ…!大好き映子ちゃん!」

 しばらく久瑠実は泣き続け、その間あたしは久瑠実の頭を撫で続けた。

 

 久瑠実が玄関先で泣いていたせいで、なかなかたどり着かなかったリビングには、大きなケーキと親たちが必死に作った豪華な料理が並んでいる。 

 そしてリビングにはあたしの親はもちろん、久瑠実の両親も呼んである。

自分の親までいると知った久瑠実は、せっかく泣き止んだのにまた泣き始めてしまった。

 久瑠実は泣きすぎて、そろそろ頭痛が来るころだと思うけれど、喜んでもらえてあたしはうれしい。頭痛は可愛そうだけど。

「こんなに良くしてもらって本当にいいんですか?私には、豪華すぎますよ。」

 そんなふうに言う久瑠実。本当はもっと豪華にしてもいいぐらいなのに、欲のないやつ。

普段学校では思いっきり世話になってるから、こんなんじゃ本当に足りない。

「わざわざ仕事を前々から、抜いてもらってたんだ。久瑠実に断る権利はないな。」

 でも久瑠実のためだとか言ったら責任感じるんだろうから、わざと茶化して言う。

「それじゃあお言葉に甘えさせてください!」

それでいい。

「ああ、存分に甘えていいんだ。」


 久瑠実にだれがここまで企画したのかを聞いてきたので、正直に自分が企画は全部したといった。それを聞いた久瑠実は思いっきり驚いた顔をしていた。

 喜んでもらえたようで本当に良かった。あたしの頭にはそれしかない。

「食べよう、久瑠実。うちの親とお前の両親もみんなそろってるから。」

 せっかくの誕生日会。なるべく人数が多い方が楽しいだろうと思って、両親もばっちり派遣している。

「はい、ありがとうございます!」


 晩餐を終え、久瑠実とあたしの部屋で話す。

「映子ちゃん、いつ今日のことを企画したんですか?」

「1か月前ぐらい。久瑠実の誕生日いつかなって思って、久瑠実のお母さんに電話したらちょうど一か月後だっていうから、それ聞いた瞬間やろうって決めた。」

 誕生日特集的な雑誌の撮影があって、ふと久瑠実の誕生日が気になったのだ。久瑠実のお母さんは突然の電話にも快く返答してくれた。そのおかげで今回の誕生日会も企画で来た。久瑠実のお母さんが穏やかな人で良かったと思う。

 少しでも咎め口調が入っていたら、人見知りが発動していただろう。

 人との関わり方というか、やさしさがちょっとだけ久瑠実の雰囲気に似ているなと思った。

「そうだったんですか…。全然気づきませんでした。」

 気づいたら意味がないじゃないか。…まぁ、ほとんど学校にいかないあたしは顔色でばれたりとかそういうリスクがないし、久瑠実も自分の誕生日を忘れていたようだからばれることはなかった。

 ばれていたら台無しになってしまっていただろう。

「気づいたら意味ないだろ?まぁ、あたしが学校にしょっちゅう行ってたら顔色とかでばれたんだろうけどな。久瑠実、あたしのことをあたしより知っているから。」

 久瑠実のあたしの詳しさはあたしもびっくりするぐらいだ。顔を見た瞬間体温分かりそう、それぐらい詳しいと思う。

 高校のことはずっと一緒に行動しているから全部知られているし、仕事のことも多分ファンで一番の詳しさと言っても過言ではないだろう。

「すげぇ驚いた顔してんな。こちらとしてはそのほうがうれしいけどさ。」

 あんまりにも久瑠実が今までに見せたことのないような、驚いた顔をしているからたまらず聞いた。

「だって映子ちゃん、私のことあんまり存じ上げていないかと思っていましたから。」

 たしかにあたしは表に自分の感情を出せない方だ。行動とか大まかな感情は、久瑠実はわかってしまうだろうけど、あたしが詳しく何を考えているかはわからないだろう。

 あまり伝えることをしないから。

「学校では世話になってるし、何より毎日学校のこと教えてくれるし。すごい嬉しかったんだ。あたしのことを、友達としてみてくれて。ファンだって言われた時には、こいつもあたしのこと言いふらしたり、立場を利用したりしていろいろするんだと思っていたけど、お前全然そんなことしないからさ。」

 学校のこと教えてくれるのは本当にうれしいのだ。久瑠実が見ている学校のことを知れるのは幸せである。

 あの心のこもった紙は、あたしにとっては大切なもの。

「そんなことするわけないじゃないですか。もちろん友達になれたらうれしいと思っていましたが、映子ちゃん本人を見てからそんなのふっとびましたよ。この人は、同じ場所にいる以上私との上下関係はないんだなって思いました。」

 高校にいたら、みんな高校生ですよ。個人でどんなに活躍していても。双久瑠実は付け足した。

 こういう考えの人間が、身近にたった一人でもいればこんなに心が軽くなるのだと、久瑠実に出会い初めて知った。

 モデルになるために、縛られていた自分の精神を解放したのは、まぎれもなく、今目の前にいるこの小さな高校生だ。

「久瑠実がそう思ってくれているおかげで気がずいぶん楽なんだよ。もし下からきゃっきゃとこられちゃたまったもんじゃない。まぁ、学校では利用しているみたいになっちゃてるけど。」

 パシリみたいになって本当に嫌なんだ。でも自分じゃどうにでもできないから、解決方法が見つけられない。

「たとえば私が足を痛めて、一人じゃ、満足に行動できなくなったら、映子ちゃんはきっと助けてくれると思います。それと同じで、苦手なことを助けてもらうのは悪いことじゃないし、責任を感じているのならほかの形で返してくれたらかまいません。」

 あたしはほっと息をついた。知らず知らず責任を感じていたのだろう。でも久瑠実がいったことで、少し心が楽になった。

「じゃあ、何かしらの形でお礼させてくれ。」

「今日ので充分うれしかったんですよ?」

今日のなんかじゃ全然足りていないんだ。もっともっとお世話になっているはずだ。普段言葉にも行動にも表せない代わりに、こういう時に恩返しをしたいんだ。

「こんなのほんのちょっとだ。久瑠実は毎日あたしに何かをしてくれてるんだからさ。…あ、プレゼントあるんだ。」

 数日前に、自分で買いに行ったプレゼント。親や五十嵐さんに何を買うべきか聞こうと思ったけれど、自分で決めた。

 大切な人へのプレゼントは自分で決めるべきだと思ったから。

 「中身は家に帰ってから見てくれ。はずかしいから。」

 そういってあたしは久瑠実の手に、包装された小さな箱を押し付けた。

「ありがとうございます、映子ちゃん!」

「がんばって選んでみた。だから、喜んでくれるとうれしい…。」

 初めて人に選んだプレゼント。あまり自信はないけど、実用的なものにしたつもりだ。

「映子ちゃんから何かをしてもらえたってだけで、とっても嬉しいですよ。ありがとう、映子ちゃん!!」


 そのあと少ししてから、久瑠実は両親と一緒に帰って行った。両親同士も仲良くなったようで、今後も良好な交友関係を続けられそうだ。

 ちなみに久瑠実に渡したのは、赤ベースの可愛らしい腕時計だ。見た瞬間久瑠実の雰囲気にピッタリだなと思って購入した。

 多少高校生にしては、値は張ったがそんなこと、稼いでいるあたしには関係のないことだ。

 あと手紙も添えてある。喜んでくれるかな?

 

 久瑠実が帰った後数十分後、あたしの携帯には久瑠実からのメールが届いていた。


『プレゼント有難うございます。とてもかわいいデザインで気に入りました。大切に使わせていただきますね(*^_^*)』 


 メールを見て一安心。あたしの初めてのサプライズ計画は無事すべて成功したようだ。

とりあえずメールを返しておく。

 いろいろ返事の仕方を考えたけど、結局いつも通りの短い文章で返した。


『よかった。』


 もう少し味気があるメールを返せるようになりたい。あまりにも自分の心が伝わらなさすぎる気がするから。


 久瑠実にサプライズをした時の話は以上だ。

 次は出かけた時の話。


番外編のアイデア募集中です。

まだまだ続きます。

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