映子ちゃんに私が敬語しか使わない理由を話した日
「多少暗い話になるかもしれませんが、聞いてくれますでしょうか?今の雰囲気ぶち壊しになるかもしれませんが、今言いたいです。」
「恋人なんだろ、久瑠実。遠慮すんな。話したいなら話せ。聞くから。」
格好良い映子ちゃんのお言葉に甘えて、私の昔話をさせていただくことにしましょう。
懐かしいですね。…ほんの5年ほど前までその暮らしを続けていたというのに、なんでこんなに懐かしく感じるのでしょうか?
「中学校に入るまでの話をさせていただきますね…。私の生みの親はですね、交通事故で亡くなっています。私が生まれた直後ですから、私はほとんど知らないんですけどね。」
映子ちゃんがぐっと息をのむのが分かりました。こんな重苦しい話を聞かせて申し訳ないです。しかし、私には今までこんなに近い人はいなかったのです。こんなことを話せるような人は存在しなかったのです。
「そして小学校6年生の年齢まで、おじさんとおばさんにあたる方のお家に引き取ってもらいました。まあ、虐待的なことをされたんですよ。殴られ蹴られ。まぁいろいろ。で、言われました。おじさんにですね、俺にため口使うほど価値がないだろうと。それをいまだに引きずっているというわけです。」
本当に懐かしい話です。とにかく、現実味がわきません。しかし事実には変わりがありません。現にいま、おじさんは今刑務所にいらっしゃいます。外で問題を起こして。
おじさんの話は今はどうでもいいので話しませんけどね?
「そうだったんだな…。そんな理由考えもしなかった。…学校は?」
映子ちゃんは私にごちゃごちゃというべきではないと感じたのか、私がいったことに対して深く追及はしてきませんでした。
映子ちゃんみたいにやさしい人ではなかったら、何されたのかとかデリカシーのないことを聞かれそうです。いやですね。
「小学校と中学校は行っていません。小学校は行かせてもらえませんでしたし、中学校の年齢の時は、今の両親に養子としてひきとってもらったんですけどどうも外に出たくなくて。当時は外に出たらあの人たちに会いそうで怖かったんです。高校は内申点ゼロで受けましたけど、家で勉強していたので当日ほぼ満点を取って今の高校に入ることができました。そこで、映子ちゃんに出会えました。」
私は自然と笑顔になっていました。やっぱり映子ちゃんの存在があるだけで、自然と嬉しく思うというか、幸せな気持ちになります。
映子ちゃんに出会っていなかったら、私はどうなっていたんでしょう。実際に見たこともないエコさんを無心に追っかけていたのでしょうか?それとも、普通の女子高生を演じて、女子高生らしいと思うことでもしていたのでしょうか?
どちらにしても考えたくもない状況です。…今そうなっていないのだから、いいのですが。
「あたしと、学校への登校状況はほとんど同じだったんだな。…なんか、久瑠実はすっごい学校に詳しいイメージがあった…。」
「全然学校にはいっていませんよ。実は私も学校のことにはあまり詳しくないのですよ。高校のことは、おかげさまで結構詳しくなりましたけどね。」
映子ちゃんに学校のことを伝えるために、高校はすべての事柄に対して細心の注意を払い、行動していましたからね。いやでも詳しくなってしまいます。あ、全くいやじゃないですよ?映子ちゃんのためならどこまでもですからね。
「本当に意外だ。なんかあたし、結構久瑠実の子と勘違いしてた気がする。」
「何も言っていなかったんですからそうなりますよ。誰だって。」
映子ちゃんが申し訳なさそうな顔をするので、そう言いました。
私の一年間の行動を見ていて気づけたならすごいと思います。引きこもりって暇なので結構な情報量がありましてですね…。
「そうか…。なぁ、あたしは久瑠実の負担とかになってないか?」
私の心配ばかりしないでくださいよ。私は映子ちゃんに心配を掛けるためにこの話をしたわけではないのですから。ただ隠し事はあるのが嫌だっただけです。
「負担などになっていません。中学生のときの私は、エコさんに救われたんですよ。…中学校になって初めて本屋に行ったとき、表紙を飾るエコさんを見つけました。意識が吸い寄せられるように、本を手に取っていたんです。だから、中学生、引きこもり時代の心の友はエコさんだったわけです。」
これがエコさんとの出会いの真実です。もっとロマンチックに出会いたかったです。
私のことを知っている人は、エコさんとの出会いがこんなだとは思いもしなかったでしょうね…。こんなです。ご期待に沿えなかったなら大変申し訳ございませんでした!元ひきこもりです!ひっきーです!!
「あたしは、久瑠実の心の支えになれたのか?」
「もちろんです!映子ちゃんがいなかったら高校入試も受けてないと思います。エコさんのインタビュー記事で同い年だと知って、同い年の人がこんなに頑張っているんだから私も頑張ろうって思えました。」
映子ちゃんが同い年だと知った時は本当に驚きました。わたしとは違ってすごく大人びていて、格好良かったですからね。
同い年の子が人目にさらされるような仕事を必死でやっているのに、私みたいなただの人間が人生の中でさぼりをやるのは、どうも罪深く思えたのです。
「よかった。あたしばっかり久瑠実に力をもらってたような気がしてたから、少しでも久瑠実の力になれていたならうれしい。」
もちろんですよ、映子ちゃん。私の原動力は、いつでも映子ちゃんあってこそです。初めてはまったのがエコさん…映子ちゃんのモデルをした姿ですからね。
「私の頭は、中学生のころから映子ちゃんのことばかりですよ。あの、映子ちゃん。この話をしたのは、別に同情してほしいとか、心配してほしいとかそういうのは一切なくて。映子ちゃんに対して隠し事をしたくなかったからですからね?」
「わかってる。あたしは久瑠実のこと知れてうれしかったよ。なぁ久瑠実、ため口使えねぇか?なんか変わるだろ。」
ため口…敬語に慣れてしまった今、使いならすまでに相当な時間を必要としそうですね。私にとっては、他国語を話すのと同じような感覚ですからね。
「そうですね…。幼いころしか使ったことがない分、恥ずかしさもありますし…なんだかなれなさそうです。でも、映子ちゃんの前でなら使えそうです。今は無理かもしれませんけどね。」
映子ちゃん以外に私のことを変えられる存在がいるのでしょうか。
「待ってるよ、久瑠実。」
私には支えとなる大事な言葉でした。いつか映子ちゃんの期待に応えられるように頑張ります。
どれぐらいかかるのかはわかりませんが、映子ちゃんを待たせるわけにはいきませんからさっさとどうにかしますね。
「変な話をして申し訳ありませんでした。突然本当にすみません!どうかこれからもよろしく頼みたいのですが…。」
「もちろんだよ。あたしもよろしく頼みたい。もう、久瑠実がいない学校に興味絵おモテないからさ。ま、気にするな。あたしは久瑠実のことが知れてうれしかったから。…な、昨日さ母さんがもらってきたお菓子食べるか?」
「はい!なんのお菓子ですか?」
「ストロベリーチョコレート。」
気を使わせてごめんなさい。有難うございます、映子ちゃん。
どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
まだ続きます。




