映子ちゃんに告白した日
今まで映子ちゃんの話をし続けてきたのはこの日のためです。
今日、今から。映子ちゃんのお家にお邪魔して映子ちゃんに告白することにします。
告白を決意するのなんて誰だって突然でしょう。私はタイミングを今と見ました。
しかしこれに失敗すれば、私と映子ちゃんの関係がぎくしゃくするのは確実だと思います。なんせ、同性愛です。
会話の文章だけ見ていたらただの男女ですけど、実際女と女ですからね。
しかし好きなもんは好きなのです。いつからか、憧れが友人的好意にかわり、またいつからかその感情は恋愛感情的なものに変わりました。
映子ちゃんが格好良すぎるのが悪いのです。そしてたまに見せるギャップ的可愛さがまたきゅんと来るのです。
仕方がないじゃないですか、やっぱり好きなんですから。
ずっと何も言わずに、関係を続けていくつもりでした。ついこの前までは。
しかし映子ちゃんの仕事場を見学させてもらい映子ちゃんへの愛を確認し、そしてこの前映子ちゃんから好意的なことばをもらい。言いたいと思ってしまったのです。
映子ちゃんに好きだと言いたくなってしまったのです。
3年間もモデルとして愛し続けた人を、こうやって恋愛感情で見ることになるとは夢にも思っていませんでした。
…もういいです。当たって砕けろです!!!
映子ちゃんの家に向かって、歩き始めます。いや、今になって初めて告白する前の男子の気持ちが分かりました。
今まで私に告白してくれた方々、本当にすみませんでした。すごい緊張するものですね。
なんていうんですかね。胸がキューってなるし、足の感覚がなくなりそうです。
最近はメールで告白する若者が増えていますが、私はそんなことしたくはないのです。自分の言葉で伝えたいのです。
しかし大変緊張いたしますね。
あっという間に映子ちゃんの家の前についてしまいました。インターホンを押そうと思ったけど、これまた勇気が出ません。
インターホンの前で格闘していると、映子ちゃんのお家のドアが開きました。
「ひっ!!!!」
普段の落ち着いた私では、こんな声出せないと思います。すごい声でした。
家から出てきたのは映子ちゃんです。
「よ!久瑠実。なにをそんなに驚いてるんだ?」
だって緊張しているんですもん。今なら、石につまずいただけで叫べそうです。
「何でもありません。お邪魔しますね。」
「どうぞ。」
声だけは何があろうと平然を装うことができる気がします。
いつも通り映子ちゃんの部屋に入ります。
…心臓が少々うるさいですね。もう少し静かになってくれると大変うれしいのですが。
「今日はハーブティーだって。はい。」
映子ちゃんが紅茶を持ってきてくれたようです。いつものことですが、もう、なんか何でも中継したい気分ですね。
「有難うございます。いただきますね。」
休日にお家にお邪魔するのは、最近しょっちゅうあることなので映子ちゃんはもちろんいつも通りです。
さて、どう切り出せばいいのでしょうか。帰り際とかに言ったらただのヘタレですよね。
今言うことにしましょう。
「映子ちゃん。」
「なんだ?」
どっくんどっくんどっくん。うるさいですよ。いい加減静かにしてくださいよ…。
「大事な話があるのですがいいでしょうか?」
映子ちゃんは不思議そうな顔をして首をかしげました。そうですよね、何の話か見当もつきませんよね。
「なんだ?」
ふー。ひとまず深呼吸。不思議そうな顔をした映子ちゃんが待っています。長い時間待たせるわけにはいきません。
「突然で大変申し訳ないのですが、言いたいと思ったので言わせていただきますね。私ですね…、映子ちゃんのことが好きです。その…恋愛感情的な意味で。恋人になってほしいです的な意味で。」
「へ?」
そうですよね、そうですよね!!びっくりしますよね!!絶交でもいいですよ?ごめんなさい映子ちゃん!困らせてごめんなさい!!
自分の頭に一気に血がのぼっていくのが分かります。こんなこと初めてです。絶対今、自分の顔真っ赤なんでしょうね。
「ごめんなさい突然!いいんです、気にしないでください…。わ、忘れてください…!」
しばらく映子ちゃんは驚いた顔をしていましが、突然顔がみるみる赤くなりだしました。
「…気にするわ!!!!!」
叫ばれました。
さて。まず映子ちゃんが叫んだ意味を考えましょう。
①私が気持ち悪い
②私が不愉快
③私のことを全力で引いた
④若干聞き逃したところが気になった
⑤私のことが好き
これ、前にもやった気がします。いつでしたっけ。どうでもいいですね。
まず⑤は確実にないので消しましょう。…④が理想ですね。
私が自分を慰めるために、顔を真っ赤にしたまま先々とネガティブになっていると映子ちゃんが口を開きました。
「あたしも久瑠実のこと好きだから、気にする。…忘れたくない。」
私の聞き間違いでしょうか。気がくるって幻聴でも聞こえたんでしょうか。
映子ちゃんの口から好きという単語が…。
「え?」
「好きだっつってんだよ!!!」
真っ赤になって叫ぶ映子ちゃん。それを聞いてまた、さらに赤くなる私。
「本当ですか…?いったら私の好きは、抱きしめたい!キスしたい!的な奴ですよ?わかってますか映子ちゃん。」
「わかってるよ…。キスとか考えたこともないけど、とにかく一緒にいたいなって思う。いつも遊んだあととか、家に帰ってほしくないとか、思う。」
恥ずかしいことを言い合っているのはわかっているんですけど、こうなったら止まらないんですよね。
どんどんどんどん顔に血が上がってきます。どうしましょう。
「映子ちゃん、一回頭冷やしませんか?なんかこういうと喧嘩したみたいですけど。」
「ああ、そうしよう。」
紅茶を飲んでほっと一息。ふぅ。顔も少し覚めた気がします。
さあ、本題に戻りましょうか。
「さて、映子ちゃん。私は映子ちゃんのことが恋人にしたい感じで好きです。おっけー?」
「おっけー。で、あたしも久瑠実のことが好き。」
「付き合いましょう。」
「喜んで。」
これで晴れて恋人同士…なのですが。
「映子ちゃんはなぜ私のことが好きなのですか?恋愛感情的に。」
これ、一番恋人とkaにしちゃいけない質問だと思います。だってうざいじゃないですか。これっていわゆるバカップルが、私のこと好き~?もちろ~ん!どこが~?全部~?とかやってる感じでしょう。
気になったんですもん、もう聞いちゃいましたし仕方がないですね。
「…一年生の時からだけど、なんか久瑠実の存在が新鮮で。ほかの人とは違うし。それになんか久瑠実といると落ち着くし、楽しいし。好きだなーって。こういうのどうなのって五十嵐さん…マネージャーに聞いたら恋だなって言われて、よくよく考えたら友達としてというよりは、なんか今後も一緒にいたいと思う感じの好きだなって思ったんだ。」
映子ちゃんは恥ずかしそうに、ずらーっと言葉を並べました。
映子ちゃんにこんなことを言わせてしまう日が来るとは…恐れ多い世の中ですね。いやー恐ろしいです。
「…ありがとうございます。」
「そんな返し方するなよ!!!よけい恥ずかしくなんだろ!?」
「すみません…!じゃあ私も言います…。せっかくですし。」
映子ちゃんにだけ言わせるのは申し訳なさすぎますから、私も言います。私の方が長くなってしまいそうです。しかし中途半端に切ったら多分赤面しそうなので、私もズラリと言葉を並べさせていただくことにしましょう。
「私はですね、知ってのとおりエコさんの大ファンでした。でも高校の入学式の日、初めて映子ちゃんを目の前にしてですね、この人も普通に過ごせる権利を持っているはずだなって思って、エコさんとしてみるのは絶対にやめようって思ったんですよ。で、普通に友達になれたらなって思ったんですけど、映子ちゃん学校にあまり来ないから、学校のこと一杯教えてあげたいなって思って、連絡カード書き始めて…もともとエコさんのことしか頭になかったのが、全部映子ちゃんになって。格好いいのに可愛い映子ちゃんが愛しくてたまらなくなってですね、だんだん友達というより恋人になりたいと思うようになりました。以上です。長文失礼いたしました。」
本当はもっとエピソードがありますし、全部覚えているんですがそれを全部言った2時間以上離し続けることになりそうなのでやめておきます。ほんの一部だけ。
しかし、二人してお互いに愛をささやき合うとなるとまあそのあと自分たちがどんな状況になるかなんか目に見えてますよね…。
ぷしゅー。赤面。
数分間顔を真っ赤にしてうつむいていた気がします。いや前向けないですもん。顔見れませんもん。
こんなに勢いでいろいろ言っちゃう人、なかなかいないでしょうね…。まあどっちもいわば恋愛初心者なので仕方ないと思うのですが、それにしても、これはない。っていうのはわかりますね。
なんて恋愛がへたくそなんでしょうか。まぁ同性ですから、男のプライドが一切存在しないわけでして。仕方がないですね。
先に口を開いたのは私です。
「映子ちゃん。」
「なんだ?」
「これからは一緒に登校しましょうね。メールしてくださいね。学校でドキドキしながら待つのもいいですけど、やっぱり一緒に学校行きたいです。」
「うん。つかもう予定表渡していい?久瑠実なら漏えいとかしないだろ…?」
「はい。個人情報の取り扱いにつきましては個人情報保護法に基づき適切な対処を取らせていただきますのでご心配なく。…私は予定表をもらえたら楽なのでうれしいですね。」
映子ちゃんはいつも通りの私のペースにほっとしたような顔をしました。告白後でいつも通りに戻っちゃうのもどうかと思いますが日常的なのが一番ですね。
しかし、今日は恋愛感情的な、で的を使いすぎました…。ほかにどのような表現方法があったのでしょうか。
「次会った時にでも、コピー渡すな。…手つなぎ登校?」
せっかくもとの冷静対応ができると思ったのにまさかの不意打ちです。突然来るのってやっぱりびっくりしますよ…。
「…そうですね!そうです、そうしましょう。なんでもやってやりましょう。」
「ああ、このさいな。前からあたしが赤くなるのは久瑠実といるときだけなんだ。おし、久瑠実。特権だ!あたしを赤くすることを許してやろう!!」
「やった!ありがとうございます~!」
だんだんよくわからない方向にテンションが…。
「そう、映子ちゃん。こんな状況になった今だからこそ聞いてほしい話があります。」
「ん?何の話?」
「私が敬語を使う理由です。これは今の両親も知りませんね。」
「今の?」
絶対に、今までもこれからも誰にも話すつもりはありませんでしたが、この際だから聞いていただきたいのです。
「多少暗い話になるかもしれませんが、聞いてくれますでしょうか?今の雰囲気ぶち壊しになるかもしれませんが、今言いたいです。」
「恋人なんだろ、久瑠実。遠慮すんな。話したいなら話せ。聞くから。」
恋人という名称を得た途端、随分格好良くなられましたね。性格が。
さて、思い出す気もありませんが思い出しましょう。
それは私が中学生になるまでの話です。
告白して終わりとはいかないのです。
まだ続きます。




