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8.秘密の花園



「着きましたね。」

「えぇ。」

温室に着いた。最初に来たときは中に入ることに夢中で気付かなかったけど、結構大きさがある。高さも幅も何もかも。温室っていうけど、全面ガラス張りみたいだし、中には噴水みたいなのもあるし、樹木もある。正直、植物園かって言いたくなる。

広さ的に言えば、よく及川先生は一人でここを維持できたなと思う。まぁ、それを言えば、これからの私もなんだけど。

「藍川さん?」

入り口を前にして突然止まった私を不思議に思っているんだろう。雪宮先輩がこっちを振り返っている。

「すいません。すぐ行きます!」

急いで先輩の元に向かった。


「ここが水の出るスイッチです。それで、こっちがじょうろです。基本的にはパイプが繋がってそこから水が出るのでじょうろは不要なんですが、プランターなどには使うかもしれないので常備はしてあります。もし、使用されるなら使用後は必ずよく水をきって、日当たりの良い場所に置いて下さいね。」

スイッチ1つで水やりが出来るとは・・・。

高校の温室なのにすごい設備。流石乙女ゲームの世界とでもいうのだろうか。

「あとは、植物の苗や種のことなんですが、種は奥の部屋にいくつか種類があります。それらは自由にして頂いて構わないと思います。苗は、必要な物はこちらの経費で落ちるので大丈夫です。」

「あの、必要な物とは依頼があるとかそういうことですか?」

出来れば、好きな花とかも育てたいなー。

「いえ、それは稀なことですよ。基本、藍川さんの好きな植物を育ててもらえれば大丈夫です。なので、欲しい苗や種があれば遠慮なく言って下さいね!」

え、それは嬉しい。そんなことを言われたら本当に遠慮なくしちゃいますよ?取り合えず、何を育てようかなー。

「藍川さん、育てたいものが多くて選ぶのが大変そうですね。」

「え!?わかりますか!?」

「はい。とても楽しそうでしたので。」

そんなにわかりやすく出ていたのかな。気を付けなければ。

「あ。でも、遠慮なく言って下さいとは言いましたが、流石にラフレシアとかは無理ですからね?」

笑いながら雪宮先輩が言った。

「わ、わかってますよ!流石に私もラフレシアを育てたいとは思いませんよ!」

「そうですか?わかりませんよ?」

雪宮先輩は意地悪そうに微笑んだ。まぁ、確かに1度は生で見てみたいけれどもね!と、思うことは秘密にしておこう。


「一通りの説明は終わりましたかね。何か質問などわからないことはありましたか?」

「いえ!雪宮先輩が丁寧に教えて下さったお陰で大丈夫です!」

「そうですか。それはよかったです。藍川さんはこのあと、どうする予定で?」

そういえば、荷物のことがあるんだった。

「一度家に帰ろうかと思っています。荷物のことがあるので。」

「それなら、門までお送りしますよ。」

「え!それは悪いですよ!」

「私がしたいからいいんですよ。それに藍川さん、男性からの好意には素直に甘えるべきですよ。」

また意地悪そうな笑みをされた。うっ。その微笑みは犯罪だと思われます。だって、断れないもん。

「それなら、甘えさせて頂きます。」

「えぇ。ぜひ。」

今度は満面の笑みで言われた。

「雪宮先輩。」

「はい?」

「ありがとうございます。」

私も満面の笑みで返した。

「っっーー。ど、どういたしまして。」

雪宮先輩の顔が心なしか紅く見えたのは気のせいだろう。


「もう門まで着いてしまいましたね。」

「そうですね。」

「まぁ、明日も会えますしね。おや?」

雪宮先輩の見ている方を見ると、そこには明らかに学園の生徒ではない人がいる。年は私達とそんなに変わらないと思うけど、制服を着ていないからか怪しく見える。それに、心なしかそわそわしている様に見えないこともない。

「どうしたのでしょう?」

「何方か生徒に用事ですかね?」

「声、かけてみましょうか。」

「え、藍川さん!?」

雪宮先輩の制止よりも早く私は行動に移していた。


「あのー!どうかしましたか?」

門の所にいた人が振り返った。またもや整ったお顔。今日だけでどれだけの美顔に出会ったことか。

「何方かお探しですか?よければ手伝いますけど?」

「いや、今日は下見に来ただけなので大丈夫です。」

「そうですか。」

と、そこに置いてきた雪宮先輩が到着した。

「いきなり走らないで下さいよ。驚くじゃないですか。」

「すいません。」

でも、雪宮先輩はそうは言っても走ったのに息が一つも乱れていない。感心していると青年が口を開いた。

「困っているかもしれないと思ってわざわざ声をかけて下さったんですよね。ありがとうございました。よければ貴女のお名前を聞いても?」

「藍川千智です。貴方の名前は・・・。」

「またお会いした時に言いますね。」

言葉を遮るように言われた。

「それでは、またお会いしましょう。」

そして青年は門から遠ざかって行った。


「何をしに来たんですかね?」

「下見って言ってましたよ?」

「下見・・・。」

それから少し雪宮先輩は黙ってしまった。

「藍川さん、すいません。司への用事を思い出したのでこれで失礼します。」

「いえ!わざわざありがとうございました!」

「新入生は今日はまだ家に泊まっても良いそうですよ。」

「そうなんですか!いろいろとありがとうございます!それでは、失礼します。」

「ええ。また明日。」

そうして私は帰路についた。

雪宮先輩の突然の思案に一抹の不安と疑問を覚えて。



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