5.温室
本を借り終わってイケメンさんと別れた後、母親と連絡をとった。もちろん寮の荷物の件だ。だが、心配は杞憂で今日の夕方にはもう荷物が届くとのこと。過去の私、本当にナイス!
そして行く所もなくフラフラしていると、温室の屋根が見えてきたのでそのまま温室に向かうことにした。
「わぁ。」
温室の扉を開くとそこには色々な花があった。花だけではなく、ハーブ類も豊富にある。
「いいなぁ。こんなお庭でお花を育てたいなー!」
「じゃあ、僕と一緒に育てる?」
「え?」
振り向くとそこには白衣を着た男性がいた。
「あ。ごめん。怪しい者じゃなくてね、この学校の教師で保健室医をしている及川博です。」
なんだ、先生か。本当に不審者と思ってしまったじゃないか。
「そうなんですか。私は1-Aの藍川千智です。及川先生がこの花達を育てているのですか?」
「まぁ、うん。一応ね。園芸は趣味だし、それを職場で出来るとか本当に最高だしね。」
納得だ。こんなに綺麗に咲かせるにはそれなりのスキルがいる。そしてこの温室は本当によく整備されていると思う。流石、趣味なだけはある。
「それで?何故君はここにいるの?ここは一応、一般生徒は立ち入り禁止なんだけど。」
「え、そうなんですか!?」
し、知らなかった。フラッと立ち寄れる場所かと。
「確か、入学式で説明があったと思うんだけどな。」
うっ。聞いていないものはしょうがない。
「すいません、聞いてませんでした。」
「うん。素直でよろしい。でもね、この温室は許可さえあれば入れるんだよ?」
「許可?許可ってどなたのですか?」
「生徒会顧問か僕か生徒会役員だよ。」
「えっと、何故生徒会役員の方が許可を?」
「だってここは、第2生徒会室兼温室だし。一般生徒はここを秘密の花園って呼ぶくらいだし。」
ここって生徒会室なの!?そ、それはまずいかも。
「君さ、お花とか植物好き?」
「え?あ、はい!大好きです!」
突然の質問に驚いた。だって、脈絡ないし。
「じゃあ、ここの草花を僕と一緒に育てる?」
そう言えば、さっきもそんなことを言っていた様な気がする。
「いいんですか?でも、先程一般生徒は立ち入り禁止だっておっしゃられたではないですか。」
すると、及川先生は驚いた顔をした。
「へぇ。君はすぐに食いつくのではなくちゃんとルールを守ろうとするんだね。」
「おっしゃってる意味があまりわかりませんが、ルールを守ろうとするのは当然のことかと。」
「ふふふ。僕、君を気に入っちゃった。君にはここに入室する許可を出そう。それと、ここの草花を育てる権利もつけてね。」
えっと?要するにここに出入り自由になったってこと?
「いいんですか?」
「ん?いーのいーの。どうせここを一般生徒は立ち入り禁止にしたのは生徒会メンバーを休ませるためだったし。君はなんとなく大丈夫だと思うしね?」
どういう意味だろう?その意味を聞こうとした瞬間、温室の扉が開かれる音がした。
「博先生。何処ですか。」
ん?この声は。
「司君ー、こっちだよー!」
やっぱり。
「先生、この書類に印鑑を・・・。お前は今朝の方向音痴。第1生徒会室に来ないと思ったらこっちに来ていたのか。」
「藍川ちゃん、司君と知り合いだったの?」
「え!?えーと、その・・・。」
「博先生、こいつが今朝の入学式の時に俺が探していた女子生徒です。」
うわ。やっぱり、私なんだ。
「へぇ。藍川ちゃんが探し人だったんだ。」
「えぇ。それより先生、貴方こそこいつと何を?」
「ん?僕はねぇ、藍川ちゃんにここの管理を任せようかと思ってね?」
「それは、いったいどういうご意向で?」
「んー。気に入っちゃったからとか?」
「それは・・・」
「お話の途中すいません。私、ここにいて大丈夫ですか?お邪魔なら出ていきますが。」
いたたまれなくなって、遠回しに脱出の要望を勇気を持って伝えた。
「いや、大丈夫だ。」
「藍川ちゃんは気にしなくていーよ?」
無事脱出は失敗し、手持無沙汰な気持ちになった。
「先生、このお話はまた後日。」
「司君が、そう言うなら。」
そう言って会長は顔を歪ませ、先生はにこにこしていた。




