28.野外活動 2日目 午前 水族館
「ふわぁ。」
眠い目を擦りながら時計を見ると、まだ6時少し前。起きる時間には少し早い。けれど、私は起きて私服に着替えた。今日の服装は、シフォンの膝丈のスカートに薄手のカーディガンにした。色合いはパステルで髪は下ろして行く。
「うん、いいかも。」
鏡の前でチェックをしたらいい感じにまとまっていた。私は翠を起こさない様にそっと部屋を後にした。
私が向かったのは海だった。昼間の賑やかな海も良いけど、朝の静かな海が好きだった。
「うーんっ!気持ちいい!」
朝日が水面に反射してキラキラしていてとても綺麗だ。
「足だけ浸けようかな。どうしよっかな。」
悩んだ結果、靴を持って水の中を歩くことにした。
「ひんやりしてて気持ちいいー!」
やっぱり沖縄最高と思っていると、前方の岩の後ろに人影が見えた。
「朝早くにごめん。こうでもしなきゃ会えないと思って。」
「いや、大丈夫。」
ど、どうしよう。つい隠れてしまったけど、あれは樹君と春奈ちゃん。これじゃあ盗み聞きになってしまう。でも雰囲気的に出れないし、何か打開策は・・・。そんなことを考えていると春奈ちゃんが口を開いた。
「あのね、私、ずっと前から樹君のことが好きだったの。付き合ってくれないかな?」
こ、これは告白現場というやつ!?どうしよ、本当にここにいちゃいけない気がする。
「吉田さん、ありがと。でも、ごめん。俺今、どうしようもなく好きな子がいるんだ。その子以外のことは考えられない。」
樹君がキッパリと言った。そんなに好きな人いるんだ・・・。
「そっ・・か。ごめんね、こっちこそ。」
「いや。」
「1つだけ聞いても良い?」
「答えれる範囲なら。」
「樹君の好きな人ってーーさん?」
あ、風が吹いて名前だけ聞こえなかった。ちょっと、ピンポイント過ぎでしょ。あ、もしかしてこれイベントでそういう物語?作った人、恐ろしいわ。
「吉田さん、ごめん。好きな人に最初に好きだって伝えたいからそれは言えない。」
「そ、そうだよね!詮索してごめん!じゃあ私、もう行くね!ありがとう!」
そうして、春奈ちゃんは走り去って行った。
さて、ここからどうしようか。でも、このままな訳にはいかないし・・・。えい!出ちゃえ!
「樹君!」
その瞬間樹君が、ガバッと勢いよく振り返った。
「千智!?どうしたの?こんなとこで。」
そんなに勢いよく振り返られると何か罪悪感が・・・。
「朝の散歩。」
ほら、っと私は手に持った靴を見せた。うん、嘘はついてない。
「そっか。俺もそんな感じ。」
樹君がいつもの笑顔で笑った。
やっぱりさっきのは触れちゃ駄目だよね。
「じゃ、もう私行くね!」
「千智!」
私が向こうに行こうとした瞬間、樹君に腕を掴まれた。
「どうしたの?手なんか掴んで。」
「あ、いや、その・・・。千智、これから暇?」
「散歩の続きをしよっかなーって思ってただけだから、一応暇だけど?」
「じゃあ、俺も行っていい?」
「え?良いけど?」
「よし!じゃあ、行こう!」
樹君は私の手をひいたまま歩きだした。
「千智は朝の海が好きなの?」
樹君が歩きながら聞いてきた。
「うん。何か落ち着くっていうか。」
「わかる気がする。昼間の海も良いけど、朝の海は静かでまた違っていいよね。」
そう言って樹君は靴を脱いだ。
「それに、水がひんやりして気持ちいい。」
樹君につられて私も入ってしまった。
「なんか、こういうの良いね。青春してるって感じ。」
前世では全く出来なかったことだもんね。私が遠くを見ていると樹君が手をひいた。
「これからいっぱいあるよ。まだ始まったばっかでしょ?」
「うん、そうだね。」
私達はお互いに笑合った。
樹君と別れて部屋に戻ると、翠がベットに腰掛けていた。
「あれ、翠。起きたの?おはよう。」
「おはよ、千智。」
心なしか声が低い?
「翠、何かあったの?」
すると翠がずいっと近付いて来た。
「こんな朝からどこに行ってたのよー!起きたら千智のベットはすっからかんだし、書き置きもないし!」
まさかこれは心配してくれてる・・・?
「ごめん、翠!心配してくれた、」
「今日は寝顔が見れなかったじゃんー!」
無言で回れ右をして食堂に向かったのは言うまでもない。
朝食はバイキング形式で既に皆、各々おしゃべりを楽しみながら食べていた。
「ちーちゃんー!こっち来なよ!上田さんもー!」
誘ってくれたのは海君だった。もちろんそのテーブルには役員が勢揃いだったけど。
「翠、行くよー。」
「千智、待ってよぉー!」
私は、スタスタとテーブルに向かって行った。
私が役員勢揃いの席に座ると、周りの女子に睨まれた。まぁ、正直、機嫌があまりよくないからオドオドしないけど。
「おはようございます。私、ここに座って大丈夫でした?」
一応、聞いてみた。これで皆に駄目だと言われたら、へこむけど。
「おはよ、千智。席なら何も問題ない。」
「そうですか。よかったです。」
私は、皐先輩に微笑んだ。
「千智、歩くの速いよー。隣、座ってもいい?」
「どーぞー。」
「千智、ごめんって!機嫌直してー。ね?」
そんなこと言われてもなー。まさか寝顔を毎日見られていたとは、プライバシーの侵害だ。
「千智さんはご機嫌ななめですか?」
雪宮先輩が心配そうに私を見た。
「いったい何があったんだか。」
冬宮先輩が呆れた様にこっちを見た。
「・・・・・・です。」
「「え?」」
「翠が毎日私の寝顔を見てたんですっ!」
その瞬間、何故か皆、黙ってしまった。
「え、何で皆して黙るんですか?」
私は間がもたなくて口を開いた。
「それは羨ましいですね。私もぜひ見たいところです。」
「澪先輩!?」
なんという発言を・・・。
「まぁ、そんなことは置いといて。見たものは仕方ないだろう。さっさと上田を許してやるんだな。」
冬宮先輩、あんまりです。隣で翠が着実に元気になっていっている気がする。私は小さくため息をついて翠を見た。
「次はないからね。」
「千智っ!」
「あー、もう、抱きつかないでよー。」
ただでさえ暑いのに抱きつかれてまた暑くなった気がする。
「朝から仲良しだねー。俺も混ぜてもらおっかな。」
「え?」
突然頭上から声がして慌てて上を向いた。
「ひゃっ。」
は、博先生、手が手がぁぁぁ!
「おはよう、藍川ちゃん。」
「お、おおお、おはよう、ございます!?」
吃り過ぎてちゃんと言葉が出てこない。だって、博先生の両手が私の頬に触れて上を向かされている様な態勢で恥ずかし過ぎて顔が紅い。
「博先生!!何してるんだよ!?」
「すぐに離れて下さい!」
樹君と澪先輩により博先生は離れてくれた。
「えー、残念。」
ちっとも悪意がない所が本当に凄いです。
「よし、点呼終了したな。今日は班ごとに水族館を見学してもらう。注意事項としては、勝手に水族館の外に出ないことと、班から離れて別のやつと行動しないことだ。何かあったら必ず教員に連絡すること。以上、解散!」
案外話が早く終わった。前世ではこういう注意事項系統の話は長々と続いてめんどくさいと思ってたけど、この世界はそんなにめんどくさくなくて助かる。
「藍川、おいて行くぞ。」
「え、冬宮先輩、待って下さいー!」
気付いたら皆、入口に移動していた。
「「ちーちゃん、早くー!」」
「はーい!」
私は走って皆の元に向かった。
水族館に入ると、一面真っ青でイワシの群れが大水槽で泳いでいた。
「うわぁー!綺麗。」
「そうか?よく食卓で見るイワシに変わりないと思うが。」
「ちょ、冬宮先輩。そんなこと言わないで下さいよ!」
何故だろう、イワシが少し逃げた気がする。
「そうですよ、聖君!水族館で食卓の話ははタブーです。」
冬宮先輩には魚を愛でるということがないのだろうか。
「ねー、ちーちゃん、見て!」
「タコだよ!大きい!」
海君と空君に手をひかれて見ると、吸盤だけでもかなり大きなタコがいた。
「うわ!すごい!なにこれ、本当にタコ!?」
「本当にね!これ、お寿司何人前できるかな?」
「んー、20人はできるんじゃない?」
気のせいかな。タコが水槽の奥の方に逃げた気がする。
「お前らな、寿司も水族館ではタブーだから。」
「「りょうかーい。」」
なんで皆、食べることばっかり・・・。そう考えながら後ろを振り向くと、司先輩が1人で熱心にイワシを見ていた。
「司先輩。」
「なんだ?」
先輩が水槽から目を離さずに言った。
「綺麗ですね。」
「あぁ。」
司先輩の顔が心なしか優しい気がする。
「千智は水族館が好きなのか?」
「そうですね。魚が好きと言うよりは水族館という空間が好きですね。」
「俺も同じだ。水族館は落ち着くからな。」
「でも、魚が好きでなくても流石に魚の前で食卓の話はしませんけどね。」
「それはそうだ。」
司先輩はあれは魚が可哀想だと言いながら笑っていた。
奥に進むとクラゲの水槽が沢山あった。
「わ、可愛い!」
クラゲは白や青、赤などの色がいた。
「こんなに色んな色がいるんですね。」
「初めて見た。」
皐先輩が水槽をつつきながら答えてくれた。
「何か、クラゲが先輩の手の方に集まっていませんか?」
「ん?・・・・確かに。」
皐先輩が手を動かすとクラゲも一緒に移動している。
「クラゲも動物なんですか?」
「・・・・・。それは、わからない。」
「ですよね。」
うーん。フェロモンが効いてるってことは動物なんだろうか。能力の基準は難しい。
「あれ?」
「どうした?」
「皆がいません。」
そう、気付くと私と皐先輩以外の役員の皆がいなかった。
「どうしよう、はぐれた?ううん、置いていかれた?」
私が隣で焦っていると、皐先輩が私の頭に手を置いた。
「大丈夫。水族館内には必ずいるから、焦ることはない。多分、皆もそう思って水族館を見て回ってると思う。だから、俺達もそうしよ。」
皐先輩が優しく微笑んでくれた。
「そう、ですよね!そうしましょう!」
私達は2人で歩き始めた。
「千智、見て。ペンギン。」
「あ、本当ですね!可愛い。」
私と皐先輩はペンギンがいるウィンドウの前のベンチに座った。
「あ、ペンギンが集まってきましたよ。」
「ペンギンは動物だから・・・。」
「こんなに集まってきてくれるなら、役得感ありますね。」
「んー。」
皐先輩が私をじっと見た。
「そう、だね。役得。」
笑顔の皐先輩の真意はわからなかった。
しばらくベンチに座って、集まってくるペンギンを見ながら話していると、後ろからにぎやかな女子の声がした。
「あれー?皐君?」
「あ、本当だ。」
近付いて来たのは、上級生と思われる女子生徒3人だった。
「皐君、なーにしてるのー?」
「千智とペンギン見てる。」
皐先輩はペンギンから目線を離さずに言った。
「千智?」
その時、私のことが初めて目に入ったかの様に私を見た。
「あぁ、生徒会のね。」
納得したというより、何処か蔑むかの様に言われた。あれですよね、きっと何こいつとか思われて邪魔だと思っているんですよね。
「そんなことより!皐君、一緒に回ろうよー。」
「そーそー!女子ばっかりで退屈してたんだっ!」
「いいでしょー?」
ここぞとばかりに私と皐先輩の間に入ってきた。素直にこの行動力はすごいと思う。
「千智と回ってるから、無理。」
うっ。何か睨まれて・・・。
「大丈夫だよ!私ら気にしないし!」
「一緒に回ろうよ、皆の方が楽しいでしょ。」
チラッと私の方を見た。目が本気で怖い。夜道は気を付けよう。
「千智といると楽しいから、他の人は必要ない。」
「なっ!?」
キリッと今度は確実に睨まれた。な、なんということを・・・。真面目に夜道は気を付けよう。
「あ、千智。イルカショーの時間。行こ。」
「え、あ、皐先輩!?」
皐先輩の手にひかれるまま、その場を後にした。
さっきの女生徒が見えなくなってから、皐先輩に話しかけた。
「皐先輩!」
「どうしたの?手、痛い?」
「あ、いえ、それは大丈夫です。」
「そっか。」
皐先輩がぎゅっと私の手を握り直した。
「え、あの。」
離してくれる気はないらしい。
「じゃなくて!あの、さっきの方々はいいんですか?あんな風に話を終わらせてしまって。」
「さっきの?」
「え、あの女子の・・・。お知り合いじゃないんですか?」
「んー・・・。クラスにいたような、いないような・・・?」
「ま、まさか、クラスの方のこと覚えてないんですか?」
まさかそんなはず・・・。もう4月も中頃だし、全員は無理でも少しくらい顔は覚えていても・・・。
「男子はわかると思うけど、女子はわかんない。」
「えぇ!?何でですか!?」
「女子は皆一緒に見える。」
「そんなことないですよ!髪型とかちゃんと違いますし!」
いや、髪型以前に顔も違うけれども!
「あ、でも、千智は違う。何処にいてもわかる。」
「え?」
「千智は気付いたら目で追ってるら。唯一、ずっと見ていたいって思う。」
「な、え。」
顔が紅くなっているのがわかるから、皐先輩の顔を見れない。
「千智?どうしたの?」
「な、何でもないです!」
「そう?行こう。」
「はい・・・。」
私は顔を上げられないまま、皐先輩に手をひかれ歩いた。




