25.野外活動 1日目 夕方
豪華なホテル。綺麗な海。だけど、私達は何故かホテルの裏の森の中にいる。しかも、よりによって暗くなり始めたこの時間に。しおりを読んでなかった私も悪いと思うけど、誰が夕飯は自炊だと思う?
まぁ、1日目だけらしいからいいけど・・・。それに、基本的に料理は前世も今も大好きだからいいんだけどね。しおりを読んだら作るのはカレーだった。やっぱりそこは定番だよね。
「千智ぉーー!同じ班じゃないのが悲しいよぉー。私も千智のカレー食べたいー。てゆーか、食べさせてー。」
「ちょっと、翠!皆見てるし、あと、私のカレーならいつでも食べられるでしょ!」
「うぅー。また作ってね?ね?」
「わかったから、自分の班に戻りなよ?」
「はーい。」
翠はルンルンで帰って行った。うん。可愛い。
先生達から調理上の注意を聞いてから、班ごとに調理が始まった。お米は火加減が難しいらしく先生達が一括で作ってくれるらしい。お米は自信がなかったから正直助かる。
「千智さんは料理が得意なんですか?」
「得意というか、好きなんです。」
「好き?」
「はい。だって、自分が作った物を美味しいって言ってもらえて、かつ相手が笑顔になってくれるなんてとても嬉しいことじゃないですか。」
私は笑顔で雪宮先輩に答えた。
「素敵な考えですね。」
「ありがとうございます。」
「ねー、ちーちゃん、僕ら何すればいいー?」
「お肉きざんじゃうー?」
「えーっと、じゃあ、海君と空君とそれと冬宮先輩はお肉をお願いしてもいいですかー?」
「「了解!」」
「わかった。」
海君と空君じゃあ何か不安になるけど、冬宮先輩がいればどうにかなると思ってこの人選。我ながらナイスだと思う。
「あと、樹君と雪宮先輩と竹宮先輩と皐先輩はニンジンとジャガイモの皮を剥いて一口大に切ってもらってもいいですか?」
「りょーうかいっ!」
「わかりました。」
「あぁ。」
「ん。」
「それで、最後に・・・。司先輩は私を手伝ってもらってもいいですか?」
言った。結構頑張ったと思う。伏せ目がちに司先輩を見ると無表情だった。やっぱり駄目なのかなぁ。
「何をすればいい?」
「え、えっと!じゃあ、玉ねぎをお願い出来ますか?」
「わかった。」
私は表情の読み取りにくい司先輩に玉ねぎを手渡した。
周りからは包丁の切る音や誰かの焦る声や笑い声が聞こえる。隣には無表情で玉ねぎを剥いている司先輩がいる。私はと言うと、林檎の皮剥きだ。だって、林檎をすって入れると美味しくなるし。あと、林檎は皮を剥くのが楽しい。初めから終わりまで途切れずに出来ると尚楽しいと思う。
だけど、悲しいことに司先輩に話しかけるタイミングを逃してしまった。これからどうしよう。
「千智。」
「は、はい?」
「悪かった。」
「え?」
「お前のことを仲間じゃないなんて頼りないなんて思ってない。俺は、仲間だったのが千智でよかったと思う。」
私の目を見て司先輩が言ってくれた。それだけで嘘じゃないことがわかる。
「私こそすいませんでした。今からでも仲間になれますか?」
「なるんじゃない。戻るんだ。まぁ、今も仲間じゃないなんて思ってないけどな。」
笑いながら司先輩は言った。久々に司先輩の笑顔を見た気がする。
「ところで、それ。」
司先輩は私の手元を凝視している。
「え?林檎ですか?」
「皮を剥くの上手いな。」
「そうですか?」
「俺にはそんな綺麗に剥くことは不可能だ。」
「司先輩にも不可能ってあるんですね。」
私は笑いながら言った。
「俺にも不可能で思い通りにならないことはあるさ。特に千智のことではな。」
「そうなんですか?」
「あぁ。だから、一緒にいて楽しいよ。」
わっ。頭を撫でられた。つい顔がにやけてしまう。
「司、その手をどけて下さいね。」
「澪!?」
雪宮先輩の手によって司先輩の手は払われてしまった。気持ち良かったんだけどな。
「千智さん、終わりましたましたよ。次は何をすれば良いですか?」
「じゃあ、司先輩の切っている玉ねぎの半分をみじん切りしてもらってもいいですか?」
「わかりました。」
さて、私もちゃんと仕事をしなくては!次は林檎をすって・・・。
「っぐ。」
「ッスン。」
何故かすすり泣く様な音が両方から聞こえる?横を見ると、司先輩と雪宮先輩がボロボロと泣いていた。
「え!?あ、玉ねぎ!」
そう、玉ねぎのせいで2人は美しい顔から大粒の涙を零していた。それにしても、綺麗な顔の人は何をしても綺麗と言うけどここまでとは。司先輩の涙なんてある意味ギャップ萌えというやつだと思うし、雪宮先輩は涙の効果でより一層美しく見える。
え、もしかしてこれが両手に花というやつでしょうか。嬉しい様な嬉しくない様ななんともいえない。
だって・・・。
「見て、あれ!」
「司君が玉ねぎで泣いてる!かっこいいー!」
「澪様が涙を!?美し過ぎるっ!」
「綺麗で直視出来ないー!」
「てか、真ん中の子誰?」
「あの子ずるーい。」
「あ、あれでしょ?最近生徒会に入った・・・。」
「あー、名前に数字の入った子ね。」
「一じゃなくて百じゃなくて、まぁ、いいや。」
「そんなことより、お2人の涙なんてレアだから写真を撮らなくちゃ!」
「あ、確かに!」
騒ぎになることはわかってたけど、名前に数字の入った子って・・・。確かに千って入ってるけど。
それにしても2人共、もはや神々しいオーラが出てる気がする。あ、これが眼の保養ってやつか。
「ッスン。千智さん、どうかしましたか?そんなに我々を見て。」
「っぐ。そうだな。そんなに俺らを見てもしや。」
司先輩がニヤリと怪しく微笑んだ。
「惚れたか?」
「なっ!?」
「千智さん、本当ですか!?」
雪宮先輩、そんなキラキラした目で見ないで下さい。涙と相まって直視出来なくなるので。
「違いますのでご安心下さい。」
「そんな笑顔で言わなくても・・・。」
「それは残念。」
雪宮先輩は目尻を下げて悲しげな表情だけど、司先輩は余裕の表情・・・。対照的過ぎる。
あ、唖然としてる場合じゃなかった。カレーを作らなくては!
「あの、玉ねぎは・・・。」
「終わりましたよ?」
「こっちもだ。」
こっちも対照的過ぎる。雪宮先輩は几帳面な性格が出ているのか、かなり細かく刻んである。だか、司先輩は・・・。
「あの、司先輩。私、みじん切りって言いましたよね?」
「あぁ。もちろん。聞いていたとも。」
・・・・・。目の前にあるのは、みじん切りの大きさの倍はあると思われる玉ねぎ達。
雪宮先輩のみじん切りが綺麗過ぎて司先輩のが霞むとかいうレベルではない大きさの玉ねぎ。
いや、確かにカレーだから玉ねぎが固形でも問題はない。でも、これをみじん切りと言ってしまうあたり司先輩は一種の料理音痴なのかもしれないと思える。
「司先輩。」
「何だ?」
この人、これがみじん切りだと思っているんだろうな。
「包丁を持ってさっき切っていたように構えて下さい。」
「何故?」
「いいからお願いします。」
「わ、わかった。」
私の気迫に圧された様に構えてくれた。
「こうだが?」
やはり、めちゃくちゃな構えだった。左手が伸ばしたままって・・・。
「左手はもう少し丸めて・・・。」
司先輩の左手を軽く直す。
「右手は人指し指を伸ばして、垂直に下ろす様に・・・。」
「こうか?」
「はい。それで玉ねぎをもっと細かく切って下さいね。」
「ん。」
さっきよりは見れる様になったけど、やはりどこなぎこちないし危なっかしい。
「包丁を教える時、子供なら後ろから抱きしめる様にして一緒に切りながら出来るんですけどね。」
するとそれまでぎこちなく切っていた手を止めた。
「千智、ここに立って構えてくれ。」
「はい?」
不思議に思いながら立ち、構えた。
その後ろに司先輩が立って、包丁を持っている私の手に自分の手を重ねてきた。
「司先輩!?」
「子供なら後ろからだが、俺の場合は前からで良いだろう?」
したり顔・・・。さっきの発言を撤回したい、そう思った。
その後、後ろから抱きしめられている形なのを雪宮先輩に発見され、結局雪宮先輩がさっさとみじん切りを終わらせてくれた。本当、ありがとうございます。
「はい、ちーちゃん。お肉出来たよー!」
「いい感じでしょー?」
それなりに何か起こると不安に思ってたけど、お肉は案外普通だった。
その代わり冬宮先輩がげっそりとしている様に見えたけど、そこには触れない様にした。理由は、うん。触らぬ神になんとやらだ。
「じゃあ、お肉はもう鍋に入れて火にかけて野菜も入れているから・・・。ルーを入れて最後はこれを・・・。」
「千智、それ何?」
「あ、樹君。これはね、林檎をすったものだよ。」
「カレーって林檎入れんの?」
「家庭によると思うけどうちは入れてたかなー。あとは蜂蜜とか。」
「蜂蜜かー。そう言えばさっき博先生が蜂蜜持ってたな。千智、取りに行こう!」
「うん。その前に雪宮先輩、火の加減とか少しの間よろしくお願いしますー!」
「わかりました。」
「じゃあ、行こう。」
頷こうとしたら、後ろから声がかかった。
「俺も行く。」
「皐先輩もっすか?」
「ん。」
そうして私達は3人で博先生の元に向かった。




