23.野外活動 1日目 午後
「全く。昼飯も忘れて遊ぶとは・・・。呆れを通り越して尊敬するな。」
「で、ですよねー。」
今私は、竹宮先輩とお昼ご飯を買いに行っている。
「そもそも、何で俺が買い出しに・・・。」
「それはじゃんけんに負けたからでは?」
そう。じゃんけんで負けた2人がお昼ご飯を買いに行くことになった。そして今に至る。
「それはわかっているが・・・。」
「あ!ほら!お店がありますよ!焼きとうもろこし無いかなー。」
周りを見渡すと焼きそばやたこ焼きなどがある。
「あ、あった!」
「キョロキョロするな!人とぶつかるぞ!」
「大丈夫ですよー。きゃあ!」
「うわぁ!」
竹宮先輩からの忠告も虚しく、私は誰かにぶつかってしまった。
「す、すいません!」
「いや、俺も前を見てなかっ・・た・・・し。」
私がぶつかったのは目が覚める様な金髪の男性だった。恐らく同じくらいの年だろう。そしてサーフボードを持っていることから、地元のサーファーだと思われる。
「あの?」
さっきからぶつかった男性が動かない。
「地元の子じゃねぇよな?それなら大抵知ってるし・・・。」
「あのー。」
自分の世界に入っているのか聞こえていない。
「いや、でも、最近引っ越して来たっつー可能性も・・・。」
「すいませーん。」
「うわ!今の聞いてた!?」
「ガヤガヤしているので聞こえませんでした。」
「そ、そっか。」
そう言って目線を外された。
「あの、手・・・。」
「えっ!?あ、わりぃ!」
そう。ぶつかった時に支えてもらってからずっと手を掴まれていた。決して嫌な訳じゃないんだけどね?ただ、そろそろ離して欲しいと思ってただけで。
「ぶつかった詫びに昼飯を一緒に・・・」
「藍川。」
「あ!竹宮先輩!」
男性の声は竹宮先輩に遮られてあまり聞こえなかった。
「俺の忠告を無視して行きやがって。ところでこの人は?」
竹宮先輩は男性の金髪の髪を眩しそうに眺めた。
「あ、えっと、私がぶつかってしまった・・・。」
そう言えば名前を聞いていない。私が説明に困っているのがわかったのか、男性が口を開いた。
「湍水恭だ。」
「だそうです。」
「だそうです。じゃ、ないだろ!すいません、こいつ視野が狭くて・・・。」
視野が狭いって。そこまで言いますか。
「ほら、藍川も!」
「すいませんでした。」
「いや、俺も周りを見てなかったし・・・。お互い様っつーことで。」
「ありがとうございます!」
「あのさ、昼飯ってもう食べた?」
何でそんなことを聞かれるのかわからなかったけど、素直に答えた。
「いえ、私達昼食の買い出しに来たんです。」
「そうだったんだ。それなら良い所があるぜ!連れてってやるよ!」
湍水さんは任せとけと言わんばかりの顔で、私の手を掴み歩きだした。一言、耳元で囁いて。
「・・・・・・だろ?」
「え、え!?」
まずい、また竹宮先輩とはぐれてしまう。次にまたはぐれたら・・・。想像するだけでも怖い。
「あ、おい!藍川!」
「竹宮先輩、昼食の買い出しに行ってくるので、皆と一緒に待ってて下さい!すぐに戻りますから!」
「おい、待て!」
ごめんなさい、竹宮先輩。待てって声は聞こえているんですけど、どうしても今行かないといけないと思ったんです。
だって、さっき湍水さんが言った言葉は・・・。
「"お前ら"色"持ちだろ?"」
絶対に物語が始まると思ったから。
「はい、到着!」
「海の家、海月?」
「海月って読めんの!?すげー。俺、初めて来た時はうみつきって読んだんだよなー。つっても、小学生の頃だけどさ。」
そう言って湍水さんはお店に入って行った。うーん。悪い人には見えないけど、何か先が見えない人だなーと思いつつ、後を追った。
中に入ると、湍水さんはお店の主人と思われる男性と話していた。男性の印象を一言で表すならワイルドだ。恐らく私一人なら回れ右をしていただろう。
それにしても、お店は繁盛していて人で溢れている。
「あ、こっちこっち。」
笑顔で手招きされた。だけど、ワイルドな男性には思いっきり睨まれてしまった。うぅ、怖い。
「恭、この子は?」
「さっき、俺がよそ見しててぶつかっちゃった・・・。ごめん、名前なんだっけ?」
「あ、えっと、藍川千智です。」
「そうそう!千智ちゃん。」
「名前も知らないのに連れてきたの?」
「まぁ、その成り行きで。」
ん?連れてきたのって言った?なんか、語尾が引っ掛かる様な?
「成り行きでこんな珍しい者を拾ってくるなんてねぇ?」
そう言って、ワイルドな見た目の男性はまた私を凝視して来た。
「それにしてもこの子・・・。」
ずいっとワイルドなお顔が近づいて来た。私がのけぞりそうになると、そのままぐいっとひっぱられた。
「え、わぁ!?」
「かーわいいわねぇ!なにこれ、お人形さんみたいじゃない!」
「え、ちょっと待って・・・。」
髪の毛を触られたと思ったら頬を触られ、あちこちを触られる。
「く、くすぐったいです!」
「公衆の面前で何をしているんだよ!」
「だって、恭ちゃん!この子すっごく可愛いのよ!?それを愛でなくて何を愛でるのよ!」
「いや、それはわかるけども。じゃなくて、そろそろ離れろよ!千智ちゃん、死にそうだから!」
「そう?残念ねぇ?」
や、やっと解放された。やっぱり語尾が引っ掛かると思ったのは正しかった。さっきからワイルドなお顔に似合わず、女性らしい言葉遣いだ。
「とまどってると思うから言うけど、こいつこんな顔だし日焼けしてるから厳ついけど根は良い奴だから。」
「恭ちゃん、良いこと言ってくれるわねー。私のことは、愛ちゃんって呼んでね?あ、愛お姉さんでもいーわよー?」
「何が愛ちゃんだ。本名は愛二郎だろーが!」
「その名前で呼ばないでよ!」
「そもそも、お前はオカマ・・・。」
「オネェさんって言いなさい?」
恭さんが黙ってしまった。何だろう、この威圧感。
愛お姉さん恐るべし。
「そう言えば、昼飯を買いに来たんだったよな!」
話題を変える様に湍水さんが言った。
「あ、はい!」
「ここ、主人は変だけど安くて旨いから。」
「主人が変は余計よ。」
「じゃあ、愛お姉さんのオススメを10人分頼めますか?」
「ごめんねぇ?もう一回言ってくれる?」
「はい。10人分・・・。」
「そこじゃなくて、お姉さんのところ!」
「愛お姉さん?」
「し、あ、わ、せっ!こんな可愛い子にお姉さんなんて言われるなんてっ!もう私、腕によりをかけて作ってくるわっ!それまで恭ちゃん、よろしくねー!」
「ありがとうございます!」
愛お姉さんは笑顔で厨房に戻って行った。うん、私の適応力って恐ろしい。
「まぁ、座ろうよ。あのことも聞きたいんだろ?」
「はい・・・。」
あのこと・・・。きっと"色"の話だ。湍水さんは何を知っているんだろう。
「まず、千智ちゃんは色持ちだよな?あと、あの竹宮先輩って言ったっけ?あの人も。」
「はい。」
「でも、竹宮って人には"色"がないよな?」
「はい。でも何で湍水さんがそのことを?」
「それは湍水家は色持ちの"色"が消失した場合、"色"を主の元へ返すのを援護する役目を負っているからだ。」
「援護?」
「あぁ、援護すると言っても湍水家は"色"の力を持ってない。だから、湍水家は"色"を消失した奴を儀式の場に案内することが役目なんだ。そして、その後は"色"を消失した奴と千智ちゃん次第。」
「わ、私ですか?」
「おう。桜色の髪の毛と藍色の瞳を持つ者にしか出来ないことらしいぜ?まぁ、気楽に頑張れよ。」
「は、はぁ。」
気楽にって・・・。私、何をするんだろう?
「あ、それと、"色"が消失した奴の中で"色"を取り戻せるのは湍水家と適合した者のみだからな。」
「適合?」
また、難しい言葉が出てきた。
「あぁ。"色"護りの家はいくつかあってさ。あ、俺達みたいな奴のことを"色"護りって言うんだけどさ、その家々で相性の良い"色"があるらしいんだよな。だけど、相性の良し悪しは事前にはわからないから、消失者全員を儀式の場まで連れていかなければならないって言うのが伝承なんだけどさ。」
いろんなことを一気に言われたからか混乱してきた。要するに儀式の場って所に行ったら、何かしら起きて、誰かしらが"色"を取り戻すってことよね。
「飲み物でも頼もうか。もちろん、奢るし。」
「え、いや、それは自分で!」
「愛二郎!トロピカルジュース2つな!金はいつものとこに置いとくから!」
「それくらい自分で取りなさいよっ!そして、愛二郎って呼ぶなっ!」
「へいへい。」
「千智ちゃんは座ってて良いからねー!全部、恭にやらしちゃいなさい!」
「そんな訳には・・・。」
「良いって。ほら。ここのトロピカルジュース、結構旨いんだぜ?」
「すいません、ありがとうございます。」
「あぁ。」
差し出されたジュースを一口飲んだ。
「美味しい。」
「だろ?後味が爽やかなのが良いんだよな。」
そう言って、湍水さんは一気に飲み干した。
「そろそろご登場だな。」
「何がですか?」
「君の騎士様達?」
湍水さんは笑いながら言った。すると突然、お店の扉が勢いよく開いた。
「千智さんっ!?」
「あ、雪宮先ぱ・・・。」
「よかった・・・。」
「っーーー!?」
だ、抱きしめられてる!?公衆の面前で!?いやそれよりも、雪宮先輩の服を私が借りてるから上半身裸で!!
「澪、藍川が苦しそうだが?」
「あ、すいません。つい・・・。」
やっと解放された。いや、やっとという程時間が経ってないのに何故か凄く長く感じた。
「変な金髪の男に連れて行かれたって聞いたけど?」
そう言った皐先輩の手には何故か竹刀がある。
「あ、あの、皐先輩。その竹刀は?」
すると、皐先輩は珍しく笑顔になった。
「それは聞かない方がいい。」
「・・・。」
やばい、ヤバイ、ヤヴァイ。これは本当にいけないやつだと思う。だって皐先輩、顔は笑ってるのに目は笑ってないし。
「皐先輩は一番剣術が得意だし、怒らすと怖いよなー。」
「樹君!皐先輩が何をやるかわからないけど、止めて!」
「うん?それは無理ー。これでも俺だって案外怒ってるし?」
そう言って、樹君は私の手に触れた。
「それにこの手に奴が触れたってだけでも許せないし?」
ドキンっと心臓が跳ねた。目の前にいるのは樹君なのに、雰囲気がいつもとまるで違う別人の様。
「藍川ちゃん、怪我してない?」
「藍川!痛い所は!?」
「日向先生、及川先生、大丈夫ですよ?」
そんな私、怪我をするイメージなのかな?
「抜け駆けパーンチ!」
「抜け駆けキーック!」
「うわっ!おい!海、空!何するんだよ!」
「何か異常に樹がムカついた。」
「同感!」
「それだけで、パンチにキックとかないだろ!」
「そんなことより!ちーちゃん大丈夫?」
「響先輩に変な金髪に誘拐されたって聞いたけど?」
「そんなことより・・・。」
樹君が肩を落としている。仕方ないけど、スルーでいこう。
「誘拐はされてないよ?自分の意思でついていったの。」
「ほぉ?自分の意思?」
それまで黙っていた司先輩が口を開いた。
「はい!その湍水さんは・・・。」
「湍水さん?もしかして、お前の前に座って足を組んでる金髪の奴のことか?」
何かトゲのある言い方?気のせいかな?
「はい!こちら、湍水恭さんです!」
「どうもー。湍水です。」
「どうも、星宮司です。うちの藍川がお世話になりました。それじゃ、こいつ連れて帰るんで。」
「待ちなよ?料理もうすぐ出来るんだけど。」
「テイクアウトしますので、お気遣いなく。」
司先輩の笑顔がなんか黒い。
「じゃあ千智ちゃんの意見を聞こうか。ここにまだ残りたいか、それとも皆と帰るか。」
「残りますっ!」
「いや、即答!?」
樹君、ナイスツッコミ。それに比べ皆は渋い顔をしている。
「私だけが残るんじゃなくて、皆にも残って欲しいんです!"色"に関係あることだから!」
皆の顔色が変わった。
「"色"だと?」
司先輩が驚いた様な悲しそうな表情で言った。
「はい。湍水さんは"色"について知っているんです。」
司先輩は湍水さんを凝視した。
「イケメンに見つめられる趣味はねーんだけど、それにしても整った顔をしてるよねー。会長サン。」
「人をおちょくるな。それに何故、俺が会長だと?」
「おちょくってないよ?大真面目。それは企業秘密。」
一気に空気が悪くなってしまった。私がどうしようかとあわあわしていたら、厨房から中性的な声。
「お料理出来たわよー!はい、10人前!」
この場に一番不適切な程の陽気な声で愛お姉さんが登場した。
「あらぁー?なっにこれっ!イケメンがいっぱいじゃない!もしかして、千智ちゃんのお友達!?いやぁー!テイクアウトなんかせずにここで食べていってぇー!サービスするからっ!」
愛お姉さんのお陰で雰囲気が和らいだ気がする。多分。
その後、テイクアウトしようとした先輩方に詰め寄った愛お姉さん説得により、少し遅めのお昼は海月でとることになった。この先、大丈夫かな。




