22.野外活動 1日目 午前
「そのお菓子、ちょうだーい!」
「じゃあ、チョコと交換!」
「大富豪やろーぜ!」
「おっ!いいな!」
「私らも混ぜてー!」
ガヤガヤと修学旅行の様な雰囲気が漂っている。こういう雰囲気は好きだ。だって、高校生って感じだし。
「バスはクラスごとなんだね。」
「うん!まぁ、その方がいろいろめんどくさくないしね!」
「私は翠と一緒で安心したけどね。」
「それは嬉しいけどさー、生徒会の皆さんとのバスもいいよねー。」
「そ、そうかな。」
それはない。絶対に何か起こるし。
「おーい、千智!そこ空いてるー?」
樹君がバスに入ってきた。
「前が空いてるよー!」
「さんきゅー。健!あそこ座ろうぜ!」
「あぁ。」
私達の前に座ったのは樹君と沖本君。沖本君は翠いわく、手の届くイケメンだそうだ。基準はわからないけど。
「あ、千智。もしかしたらこの後・・・。」
「樹、千智。」
声がした方を見ると、司先輩だった。
「司先輩!?どうされたんですか?」
「向こうに着いたら生徒会は集合だ。クラスとは別行動になると思うから伝えにきた。」
「わざわざすいません。」
「それを今、俺が言おうとしてたんですけどー。千智に会いたいからってわざわざ来なくても。」
「樹、何かいったか?」
「いえ、何も?」
「じゃあ、また沖縄で。」
「あ、はい!ありがとうございました!」
「あざしたー。」
司先輩は自分のバスに帰って行った。
「生徒会って大変ね。」
「あはは。そうかも。」
私は苦笑いしてしまった。
「それならやめればいいのに。」
「え?」
振り向くと柳沢さんがいた。
「むしろやめたら?何なら私が代わってあげてもいいけど?」
私が意味を理解するのに時間がかかっていると、翠が口を開いた。
「何故、柳沢さんにそんなことを言われないといけないの?」
「だって、私の方が相応しいのに身の程知らずに藍川さんが生徒会になんてなるから、心配してあげてるのよ。」
柳沢さんがさらっと言った。
「しかも、図々しくも今回の野外活動だって同じ班になって。何様?」
「ちょっと!そんな言い方!」
「だってそうでしょ?大方の人はそう思ってるはずよ。何で、あの子が?って。たまたま宝探しで優勝したからっていい気になってって。」
「千智はそんなことない!」
「どうだか。生徒会の皆さんも騙されてるのよ。」
そこまで言って、柳沢さんは私を見た。
「貴女は何も言わないの?」
挑発する様な目で笑っている。柳沢さんって、本当にすごいかも。
「ほらっ!千智も何か言ってやろうよ!」
何か言ってやろうって言われてもな。何か、何か。
「柳沢さんは結局、何がしたいの?」
それしか言えなかった。だって、翠や生徒会の皆に言われるならまだしも柳沢さんだし・・・。
「は?」
「え?」
柳沢さんも翠もポカンとしてる。すると、突然樹君が笑い出した。
「流石、千智だな。」
「樹君、笑うことないでしょ!」
「ごめんごめん。」
柳沢さんと翠は唖然としている。
「だけど、生徒会に入れるなら千智以外有り得ないから。そして、千智に何かしたら許さない。これ以上何か言うなら千智にじゃなくて、俺ら生徒会に言えよ。」
樹君の雰囲気が変わった。そのせいか空気が少し重くなった。
「ねぇ、樹君。私、トランプ持って来たんだけど大富豪やらない?」
「え、ちょ。千智?状況わかってる?」
「うん。私のせいでクラスの雰囲気が悪くなっちゃったよね。だから、無理矢理方向転換しようかと。」
「いや、千智のせいじゃ。ってか、無理矢理過ぎだろ!」
クラスの皆から笑いが漏れた。
「藍川さんってそんなキャラだったんだー!」
「なんか、誤解してたかも。」
「なんか意外だよなー。」
「大人しい系かと思った。」
「皆ー、千智を大人しい系とか思わない方がいいぜ!かなりアクティブだし、案外怒ると怖い。」
「樹君!」
クラスの雰囲気は明らかに柔らかくなった。樹君のこういう所はすごいなって思う。さりげなくフォローしてくれるし、凄く助かる。私自身、クラスの真ん中にいるのは正直得意ではない。さっきのだって結構頑張った。樹君が乗ってくれなかったら、今頃どうなっていたことやら。
「千智?ボーッとしてどうしたの?」
「翠。何か、樹君ってすごいなーと思って。」
「私には千智もすごいと思うけどね?」
「え、何で?」
「何でもよ。」
「それより!沖縄に着いたら最初はなんだっけ?」
「ホテルに荷物置いたら自由だよ。でも、班ごとね。」
「そうだった。」
「しかも、千智は着いたら生徒会の用事でしょ?」
「忘れてた。」
「でもね、千智!絶対に一緒に遊ぼうね!何としてでも!」
「う、うん。」
そんなに言わなくても大丈夫だと思うんだけど・・・。
「よし!大富豪しよう!」
「え、あ、うん!」
いつの間にか、翠のペースに飲まれていた。
「うーんっ!青い空、白い雲!沖縄に着いたぁー!」
「うん、そうだね。でも、翠。恥ずかしいから少し黙ろうか。」
「うっ。千智酷い。」
だって、さっきからいろんな人が私達を見ているのだ。明らかに、私達は怪しい人だろう。
「じゃあ、翠、ごめん。生徒会に行ってくる!」
「うん。いってらっしゃい!また後でね!」
「うん!」
私は樹君を見つけて一緒に司先輩達の元に行った。
「千智、樹。お前らは大丈夫か?」
大丈夫?何がだろう。
「何がっすか?」
「バスの中で何かあったとか。」
「あー、少しありましたけど大丈夫でした。」
「そうか。こっちも約2名を除いて大丈夫だ。」
「約2名?」
「澪と聖がまだバスの中だ。」
「何かあったんですか?」
「まぁ、いつものことだが、澪はファンに言い寄られて立ち往生。聖は女子と長時間バスの中にいて、気分不良だ。あと少ししたら2人共来るだろう。」
うわぁ。雪宮先輩はともかく、冬宮先輩のはもう末期だろう。だってそれじゃあ、日常生活きつくない?これまで、どうやって過ごして来たんだろうか。
「すいません、お待たせしてしまって。」
「すいません。遅くなりました。」
「澪、聖。意外と早かったな。撒いたのか?」
「撒いたというか・・・。」
澪先輩は言い淀んでいる。その代わり、冬宮先輩が口を開いた。
「今回は本当、すごかったですよ。告白の嵐でした。」
「「は?」」
樹君と司先輩が変な声を出した。
「聖君!」
「澪先輩、告白されたんですか?」
「え、うん。まぁ。」
「それで、答えは?」
「それはもちろんお断りしましたよ!」
「そっすか。」
断ったんだ。そっか。ん?あれ、何か私ほっとしてる?いや、そんなはずは・・・。
「千智、どうしたの?」
私が黙っていることを不思議に思ったんだろう。皐先輩が話しかけてきた。
「い、いえ。何でもないです。」
語尾が小さくなってしまった。
「千智、海に行ったら俺と遊ぼう。」
「え?」
「予約。」
「あ、はい。」
「うん。」
皐先輩と海で遊ぶ約束をしてしまった。あ、きっと、皆で遊ぼうって意味だよね。楽しみだなー。海っていったら海の家だよね。焼きとうもろこし食べたいなー。
「皆揃ったな。じゃあ、行くぞー。」
いつの間にか来ていた日向先生と及川先生の引率で私達は歩き出した。
「千智、歩きながら聞いてくれ。俺達はまだ"色"のことでお前に言っていないことがある。聞いてくれるか?」
司先輩が真面目な顔で言った。
「はい。もちろんです。」
「よかった。実は俺達の中に"色"がない時、"色"は暴走する恐れがある。」
「暴走?」
「あぁ。どういう風に暴走するのかはわからないが、何かしらが起こるということはわかっている。」
「もし、暴走が起きてしまったらどうするんですか?」
「どうにかして止める。」
「え、ノープランなんですか!?」
「正直、何が起こるか予測不能だから作戦の立てようがないというか・・・。」
まぁ、それもそっか。私も頑張らなくては!
「私もどうにかして止めますね。」
「ノープラン返しか。」
「はい。」
私達は笑いあった。
「到着ー。」
及川先生の声と共に着いたのは海の見えるホテルだった。
「わぁー!綺麗!」
「すっげ。」
「「遊ぶー!」」
「流石、沖縄。」
「置いてくぞー!」
「あ、はーい!」
私達はダッシュで先生達の後を追った。
「じゃあ、ここで解散。それぞれ荷物を置いたらまたここで会おう。あ、水着は既に着用しとくことをオススメしとく。この後は海に行くからな。そういう用意で来い。」
「あの、質問なんですけど何で皆と別行動だったんですか?」
別行動にする必要がなかったんじゃないかなと思ってしまった。
「あー、それは、澪と聖のために全員を遅らせる訳にはいかないからな。まぁ、深くは考えるな。」
「あ、はい。そうします。」
「じゃあ、解散!10分後までにここに集合。遅れた場合は・・・。」
司先輩が笑顔になった。
「その時に続きを言おう。」
暑いのに背中に一筋の冷や汗を感じた。
「私、もう行きますね!」
「俺らも!」
私は逃げるように自分の部屋に向かった。
「ここが私の部屋か。」
カードキーを使い入ると、翠がいた。
「あ、千智ー!」
「翠!同室だったんだ!」
「知らなかったの!?」
「うん。でも、翠で安心した。」
「私もよ。」
「あ!こんな話してる場合じゃなかった!あと8分以内にロビーに行かなくては!」
「何かあるの?」
「司先輩達と待ち合わせなの!ごめん、水着着てくる!」
「ごゆっくりー。私は先に行くねー。海で会えたら遊ぼうね!」
「うん!またあとで!」
そう言って翠は先に行った。
セーフ!急いだからまだ3分の余裕がある。これでお仕置きは回避だ!よかった。
「君、一人?」
「え?」
振り向いたら知らない男の人がいた。
「何歳?地元の子?」
「高校生で、地元じゃないですけど。」
「そうなんだ。じゃあ案内してあげるよ。俺、地元だし。」
「え、いえ。大丈夫です。」
「そんなこと言わずにさー。」
男の人が手を伸ばしてきた。嫌だ、怖い。誰か助けて。そう思って私は反射的に目を閉じた。
「いってぇ!」
男の人の声がして目を開けた。すると、そこには男の人の手を掴んだ冬宮先輩がいた。
「いてぇな、何しやがる!」
「それはこっちの台詞だ。嫌がる女子高生に無理矢理手を伸ばすなど有り得ないだろう。」
冬宮先輩の発言に男の人はみるみる怒っていく。
「いきなり、お前は何なんだよ!」
「俺か?俺はこいつの連れだ。」
そう言って、冬宮先輩に肩を抱き寄せられた。
「わかったらさっさと去れ。」
「チッ。」
男の人はぶつくさ言いながら去っていった。
「あの、ありがとうございました。」
「ん?あぁ。大丈夫だったか?」
「はい!冬宮先輩のお陰で大丈夫でした!」
「それならよかった。だが、お前その服・・・。」
冬宮先輩が離れながら私の服を見る。
「え?」
私の着ている服は、パステルカラーのワンピースだ。スカートの丈も膝の少し上という常識的な長さ。
「何か変ですか?」
「いや。ただ、一人で行動するなよ。必ず知り合いと行動しろ。」
「?はい。」
深い意味は分からないけど、従うにこしたことはない。あんな目に遭うのはもう嫌だしね。そうこうしていると全員揃った。
「遅れた奴はなしか。」
司先輩が心なしか残念そうなのは気のせいだろうか。
「千智さん。」
「どうしたんですか?雪宮先輩。」
「好きです。」
「え!?」
「はぁ!?」
隣にいた竹宮先輩にも聞こえていたんだろう。すごい声をあげている。
「澪!何を言って!」
「そ、そうですよ!雪宮先輩!」
「仕方ないじゃないですか。ワンピースが似合っててつい言いたくなったんですから。それに、表現しないと伝わりませんからね。」
「だが、時と場所を!」
「これでも小声で言いましたよ?あ、次からは誰にも聞こえないように耳元で囁きましょうか。」
「そ、それはやめて頂ければと・・・。」
「冗談です。さぁ、行きましょう。」
雪宮先輩がクスリと笑った。か、からかわれた!悔しいというか、何だろ、このやるせない気持ちは。
「はぁ。」
隣で溜め息をついた竹宮先輩と私は恐らく同じ気持ちだろう。この先、大丈夫だろうか。そんなことを考えながら私は海に急いだ。
「うわぁー!すごい、綺麗ー!」
近くで見る沖縄の海はとても綺麗だった。翠が騒ぐ理由もわかる気がする。
「これは、すげーな。」
「うん。本当。」
「だね。」
「あれ、ちーちゃん、いつの間にパーカーに?」
「え、あっと、さっき着替えれそうなとこがあったから脱いできた。あと、ちーちゃんって?」
「海と僕とで千智の愛称を決めたんだよ!」
「そうそう。だから、これから千智はちーちゃんね。」
「うん、わかった。」
「おい、そこの男3人!俺らも脱ぐぞ!」
「わかりましたー。」
「「はーい。」」
振り向くと、既に水着姿の竹宮先輩がいた。驚かずに済んだのは上にTシャツを着ていてくれたおかげだろう。振り向いて裸だったら完璧驚いた。竹宮先輩に感謝だ。
「千智も着替えたか。」
「あ!はい!」
司先輩と雪宮先輩が入れ替わりで出てきた。雪宮先輩はTシャツを着ていたが、司先輩は着ていなかった。まぁ、司先輩は着なさそうだよね。
「むこうに響が設置したパラソルがある。そこに物を置けるから先に行こう。」
「はい!」
私達は一足先にパラソルに向かった。
「千智ー!」
「翠!」
私が先輩方を気にすると、雪宮先輩が微笑んだ。
「話してきて大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます!」
パラソルに向かうと翠がいた。既に、水着姿で海にも入ってきたようだ。オレンジ色のビキニは明るい翠によく似合っている。
「海、気持ちいいよ!」
「満喫してるね。」
「もっちろん!あ、千智。髪結ばないの?」
「あ!忘れてた!どうしよう、ゴムがない。」
「じゃーん!シュシュ貸してあげる!」
「え!いいの!?塩がついちゃうかもよ?」
「いいのいいの!ついても洗えばいいし!それにこのシュシュ、千智の水着にピッタリだしね!」
確かに、シュシュは深い青に金色のレースで大人っぽくて可愛い。
「じゃあ、貸してもらうね。ありがと。」
「どういたしましてー!」
私はさっとポニーテールに結んだ。
「それで?千智ちゃんはいつになったら、パーカーを脱ぐのかな?」
翠は意地悪そうに微笑んだ。
「そ、それは!う、海に入る時には・・・。」
「ふぅん?」
「だって!翠にのせられて買ったけど、やっぱり恥ずかしいし!」
「私のせいにする悪い子はこうだ!」
「え、ちょっと!」
翠は私のパーカーのチャックを下ろすとパーカーを脱がせた。
「ほらー、可愛いじゃんー。」
「み、翠!」
は、恥ずかしい。やっぱり別のにすればよかったかな。私が着ているのは、肩で結ぶタイプのビキニ。しかも、色は青のグラデーションという大人っぽいもの。私的には好きな色だけど、やっぱりハードルが高かったかな。
「千智!さっきから周りの男子が千智のこと見てるよ!」
小声で翠が話しかけてきた。
「や、やっぱり似合ってない!?」
周りの人が見るほどそんなに駄目だったの!?
「は?違うよ!千智が可愛いからに決まってるでしょ!」
「えぇ!?何を言ってるの!そんなの地球がひっくり返ってもないでしょ!」
「はぁ。この子は・・・。あ!千智!写真撮ろ!」
「え、良いけど・・・。」
「丁度いい所に!沖本ー!」
沖本君が振り返った。
「同じ班だったんだ!」
「そうなんだ!知り合いがいてよかったね!」
「うん!」
すると、沖本君がこっちに来た。
「どうかした?」
「写真撮って欲しくて!」
沖本君はチラッと私を見た。
「ーーっ。いいけど。」
「やった!ありがとー!」
「あ、ありがとう!」
私と翠は並んでポーズをとった。もちろん、無難にピースだけどね。
「はい、チーズ。」
カシャッ
「はい。終わり。」
「ありがとー!ふふ。これで千智コレクションが増えた!」
ん?コレクション?何それ、って翠は聞いてないか。
「大変だな、藍川。」
「え!?ううん、翠といると楽しいからそうでもないよ!」
私は笑顔で答えた。
「そっか。じゃあ、またな。」
「うん!ありがとね!」
「あ!沖本待ってよ!じゃあ、千智またね!パーカーは預かっておくから!」
「え!ちょっと!」
行ってしまった。持っていかれたものはしょうがない。周りも皆水着だし大丈夫だよね。そうして私は先輩達の元に戻った。
戻ると既に全員揃っていた。
「ごめんなさい!遅くなりました!」
「ん?あぁ。大丈夫・・・。」
振り返った日向先生がフリーズしていた。
「あ!先生も水着なんですね!」
「あ、あぁ。」
どうしたんだろう。なんか、歯切れが悪い?
「悠、ボケッとして何してんの。」
後ろから及川先生がやって来た。
「あ、藍川ちゃん。水着姿も可愛いねー。やっぱり、水着にポニーテールは鉄板だねー。」
「ありがとうございます。」
お世辞だとしても嬉しい。
「悠も何か言ったら?」
それまでフリーズしていた日向先生が口を開いた。
「ろ、」
「「ろ?」」
私と及川先生はつい揃えて言ってしまった。
「露出が多い!」
「え!?」
「いや、悠。それは水着だからでしょ。」
そして、日向先生は顔を真っ赤にしている。次の言葉を待っていたら、以上!と言われて何処かに行ってしまった。
「悠も可愛いって言えばいいのに。シャイだなー。」
「あはははは。」
私は苦笑いになってしまった。
「じゃ、僕らは見廻りがあるから行くね。司君にもそう伝えといて。」
「はい!」
及川先生は行ってしまった。
「司先輩ー!及川先生達、見廻りに行くそうです!」
「あぁ。わかった。悪い、少し待っててくれ。」
「はーい。」
生徒会パラソルには沢山の水着女子が来ていて、声をかけるのも大変だった。これは私は蚊帳の外だなーと思っていたら、誰かに突き飛ばされた。
「わ!」
砂の上でよかったかも。あんまり痛くない。
「大丈夫?」
私に手を差し出してくるたのは皐先輩だった。
「あ、ありがとうございます。」
「ん。」
「あの?」
手を離してくれる気配がないので、顔をあげるとしーっと言われた。
「抜け出す。」
「え!?わぁ!」
そのまま、手を引かれて海までダッシュした。
バシャンッ
「気持ちいい!」
「ん。」
皐先輩を見ると、頭から水滴が滴っていてなんとも言えない色気が出ていた。私がサッと目を反らすと、皐先輩は近付いて来た。
「どうかした?」
「い、いえ!何でも!」
「それなら、どうして俺の目を見ない?」
それは見ないのではなく、見れないからですよ!とは言える訳もなく・・・。
「そ、それは・・・。」
「こちら、空!ちーちゃん発見!捕獲に向かいます!」
「了解!こちら、海!こちらもちーちゃん発見しました!援護します!」
「ラジャー!」
どこからか双子の声が聞こえて、振り返ると水をかけられた。
「きゃあ!」
「うわ。」
今ので私と皐先輩はずぶ濡れになってしまった。
「えへ、作戦失敗。」
「ちーちゃん、ごめんねー。」
そう言って2人は笑っている。うん、悪いと思ってないね。まぁ、いいけど。
「悪い遅くなった。」
そう言って来たのは司先輩と雪宮先輩と樹君。
「あれ?竹宮先輩と冬宮先輩は?」
「あいつらはパラソルに残るらしい。」
「そうなんですか。」
せっかくだから海に入ればいいのにとは思うけど、個人の自由だから何とも言えない。
「千智さん。」
「はい?」
すると、雪宮先輩が突然Tシャツを脱いだ。
「え、え!?」
そうして、私の頭に被せた。
「濡れても構いませんので、着て下さい。」
「いや、私は大丈夫ですよ?日焼けとか気になりませんし・・・。」
「千智さん。男はですね、好きな子の水着姿は見たくても他の男にその姿を見せたくないものなんですよ?」
「え!?」
どうしよう。多分、顔が真っ赤だ。
「だから私のを着て下さい。」
「は、はい。」
私は下を向いて、消え入りそうな声で言った。
「ひゅー。澪先輩、格好いいー。」
「樹君に言われても嬉しくないですけどね。」
雪宮先輩が脱いだからか女子の声が大きくなった。
「澪先輩が脱いでる!」
「え!嘘!」
「うわ!格好いいー!」
「水滴で輝いてて綺麗ー!」
「一緒に遊ぼうって誘ってみようか。」
「えー?無理でしょー。」
そういう声がいろんな所から聞こえる。すると、数人の女子が近付いて来た。
「澪君、一緒に遊ぼー。」
「私達とならいいでしょー?」
恐らく同じクラスなんだろう。すごく綺麗で大人っぽい人達だ。
「すいません。今、班の人達と遊んでるので・・・。」
きっと気を使って雪宮先輩は言ったのだろう。笑顔がひきつっている。
「あ、私ら班の人達とか気にしないから大丈夫!」
「だから一緒に遊ぼーよ。」
ひ、引き下がらない。ある意味強者だ。
「それでは言い方を変えますね。」
それまでやんわりと断っていた雪宮先輩の雰囲気が変わった。
「私が班の皆さんと遊びたいんです。だから、今回はすみません。」
きっと雪宮先輩がきっぱりと断ることは珍しいのだろう。相手は驚いている。
「そ、そっかぁー!」
「こっちこそごめんねぇ?」
「じゃあ、またねー。」
女生徒達は赤面しながら、去っていった。
「さっきの澪先輩さ。」
海に浸かっていると樹君が唐突に言った。
「うん?」
「前まであんな風に言ったことなかったんだよね。断っても断りきれてないみたいなさ。」
「そうなんだ。」
突然、大きな波が来た。
「やっぱり、好きな子が出来たからなんだろうな。」
「え?ごめん、波のせいで聞き取れなかった。」
「いや!俺も頑張ろうって話!」
「え?え?」
全く話が読めない。
「それ!」
バシャンッ!
「ちょっと!いきなりはズルいよ!」
「やったもん勝ちだろ!」
「お返し!」
「うわっ!」
そのあとは皆で水をかけあった。その戦いは竹宮先輩と冬宮先輩がお昼ご飯の時間と告げるまで続いた。




