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19.保留の代償



私は、朝っぱらから頭がパンクしそうになっている。何故、私の横をこの人が歩いているんだろうか。


事の発端は、寮を出たあの瞬間だった。

この学園には寮が、3つある。1つ目は、私の住んでいる珀桜(ハクオウ)。ここには、樹君と華宮兄弟、皐先輩が住んでいる。2つ目は、蒼蘭(ソウラン)。ここは、司先輩と雪宮先輩が住んでいる。そして最後の3つ目は、紅蓮(コウレン)。竹宮先輩と冬宮先輩が住んでいる。

それぞれの寮に食堂がついているため、寮が違う人とはほとんど、校内でないと朝は会えない。最も、遅刻する人とは校内でも会えないが。


「あれ、見て!」

「嘘、何で珀桜に?」

「誰かを待ってるっぽくない?」

「私もあーやって待たれたいー!」

私は、女子達の向いている方を向いた。すると、どういうことだろう。そこにいるはずのない人物が入口の扉から少し離れた場所にある柱に寄りかかっていた。一瞬、絵画の様に見えたが、私を見た瞬間動いたのでその考えは払拭された。


「何故、司先輩がここに・・・?確か、寮は蒼蘭のはずですよね?」

「あぁ。千智と一緒に登校しようと思って来てみた。」

そうして今に至る。何を話せばいいんだろう。生徒会勧誘の件とか?でも、人が多い所で話す内容じゃないし、さっきから人の目が痛いし・・・。私が1人悶々としていると、司先輩が咳払いをした。

「実は千智の勧誘の件で昨日、皆で決めたことがある。それは毎朝、誰かが千智と登校をして親睦を深めるというものだ。」

「はい?」

「だから、毎朝誰かが待ってるからそいつと登校して欲しい。」

いや、ちょっと待って。私が生徒会入りを保留にしたからってそこまでやりますか?普通!

なんと言うか、すごく極端な様な・・・。

「ちなみに、これは澪の案だからな。」

何故だろう。納得している自分がいる。

「まぁ、そういう訳で、"今日1日"覚悟しておいた方がいい。」

ん?

「今日1日ですか?」

「あぁ。まぁ、その時が来たらわかる。じゃ、放課後。」

気付くと私の教室の前だった。

「あ!なんか、すいません!ありがとうございました!」

司先輩は振り返らず手を振って、自分のフロアに帰って行った。


女子達の視線と翠からの追求に耐えた私は、昼休みをむかえている。何故だろう。とても疲れた。

「それにしても、勧誘のために一緒に登校ねー。雪宮先輩って何か、うん。すごいね。」

雪宮先輩の件については、私からはもう何も言えません。それにしても、司先輩。今日1日、覚悟がいるなんて言っていたけど、何も起こらないじゃないですか。あれは、私を無駄に疲れさせるための罠だったんだろうか。

「千智、何か廊下が騒がしくない?」

「確かに。何かあったのかな?」

私と翠は耳を澄ましてみた。

「ねぇ、あれ!」

「何で、ここに!?」

「珍しくない!?普段、あまり見れないし!」

「何の用事かなー?」

「誰かに会いに来たとか?」

「男子に用事かもねー。」

着実に声が近くなっている。もしかして、これは・・・。

「何方か役員ね。」

「やっぱり、そうかな?」

「まぁ、女子のこの騒ぎ様は間違いなさそうよね。」

司先輩、忠告を疑ってすいません。これから覚悟がいるみたいです。


女子の騒がしさがMAXになった頃、教室の扉が開いた。恐らく、ここまで来るのに女子が多くて時間がかかったんだろうと私は推測した。しかも、自分が教室に入るとさっさと扉を閉めてしまった。これは相当お疲れだろう。

だが、事態は終わらなかった。

「ちょっと!何であの方がこのクラスに!?」

「私、こんなに近くで初めて見たかも。」

「誰に用事!?」

「うわー!格好いい!」

クラスの女子が騒ぎ出してしまった。

「チッ。」

今、舌打ちをされました?そんなに嫌なら来なければ、何て言ったら殺されるので言わないけど。すると、鬼の形相で私の元にやって来られた。

「どうされたんですか?冬宮先輩。」

「どーしたもこーしたも、昼を一緒に食おうとして来たら遅くなったってとこだ。」

「冬宮先輩が私とお昼を食べる!?ここで!?女子が沢山いるのに!?奇跡じゃないですか。」

「お前な。俺だって多少の我慢は出来るんだよ!」

先程、舌打ちをしたのは誰だろう?

「というわけで、もう我慢の限界を超えた。上田と言ったな?藍川千智を借りるぞ。」

「あ!はい!好きなだけどうぞ!」

「翠!?」

翠はイタズラをしたかの様に笑っている。

「それなら、好きなだけ借りていくか。まぁ、そうなると全部だが。」

私の意見とかないんでしょうね。いえ、いいんです、知ってました。

「行くぞ。」

私は手首を掴まれて教室から連行された。


教室を出ると、圧巻だった。どこを見るにも女子女子女子。しかも、私に向けられる目は敵意に近い。

正直、もう逃げたい。

それにしても、冬宮先輩はよくここまで来れたなと思う。だって、女子とは極力関わらない様にしているみたいだし今回のことは奇跡に近い。

雪宮先輩から聞いた話では、朝早くに登校し、休み時間が終わるまで生徒会室に籠っているらしい。

それから教室に入っても男子とは話すが、女子には見向きもせず、むしろ避けて過ごすらしい。ここまでの徹底ぶりにはとても驚いた。それなのに、今回はどういう風の吹き回しだろう。うーん。考えてもわからない。

「藍川、藍川。藍川千智!」

「は、はい!?」

「着いたぞ。」

着いたのは生徒会室だった。


「何処でもいいから座れよ。」

そう言って、先輩は眼鏡を外しながらソファに座った。

「あ、はい。失礼します。」

私はその横に座った。だってこのソファ、凄くフカフカで気持ちいいんだもん。

「あの、先輩。ずっと気になっていたんですけど、どうして私と一緒にお昼を食べようと思ったんですか?」

「澪先輩に頼まれたからだ。親睦を深めるとか言われて。」

「でも、先輩なら断れましたよね?女子と関わりたくないってことは雪宮先輩も知っているわけですし。」

「それは・・・。」

冬宮先輩は黙ってしまった。

「冬宮先輩?」

冬宮先輩と目が合った。

「・・・・・・・・だよ。」

「え?」

「藍川と一緒に食べたかったんだよ。」

私は思考が停止してしまった。女嫌いの冬宮先輩が私と?あ、もしかして女嫌いの克服のためとか?

「へぇー、聖先輩でもそういうこと言うんですねー。」

「えっ!?」

私が振り返るよりも速く、声の主に後ろから抱きつかれた。いや、むしろこれは両手でヘッドノックされているような・・・。

「なっ!?樹!離れろ!」

「いーやーでーすー。聖先輩だって、さっきまで千智と近かったんだから我慢して下さい。」

「俺は、断じてそんな距離で接していない!」

「でも、どっちかが動けば、距離なかったじゃないですか!同じっすよ!」

「あの、樹君。ちょっと苦しいかな?」

「千智、ごめんね。」

少し手が緩くなった。離してくれるという選択肢はないらしい。

「まぁ、今は俺の方が近いからいいっすけど。」

そう言って、樹君は私の肩に顎を乗せた。

「樹、お前いい加減!」

冬宮先輩が私の手を引っ張った瞬間。

「うわっ!」

「きゃっ!」

冬宮先輩の方に私も樹君も倒れてしまった。

「いったい何をされているんです?」

私にはその声が天使にも魔王にも聞こえた。


「ゆ、雪宮先輩と皐先輩・・・。」

私が2人の名前を呼ぶと、突然雪宮先輩が笑顔になった。

「皐君。」

雪宮先輩が皐先輩の名前を呼んだ瞬間、皐先輩が私達に近付いて来た。

「きゃあ!?」

何故か突然、皐先輩に抱き抱えられた。

「さ、皐先輩!?」

「皐!?」

「皐先輩、何して!?」

樹君も冬宮先輩も驚いたみたいで声をあげた。

「狼から羊を救って何が悪い?」

私にはあまり意味がわからなかったけど、それで2人は黙ってしまった。


「皐君、藍川さんを教室までお願いしますね。」

「はい。」

「あ、あの、樹君と冬宮先輩は?」

つい私は、気になってしまったことを聞いてしまった。

「これから少し私とお話をするだけですよ。」

笑顔で答える雪宮先輩。恐怖です。

「そ、そうですか。じゃ、じゃあ、失礼します。」

私は、怖くてそれしか言えなかった。


私と皐先輩は生徒会室から出た。が、問題が1つある。

「あの、降ろして頂ければと・・・。」

「駄目。」

「即答ですか!?」

「俺だって、澪先輩の気持ちがわかるってことわかってる?」

「え?」

「意外と、心が乱れてるってこと。」

抱き抱えられている腕の力が強くなった。

「いや、でも、流石にこの体勢は・・・。」

そう。私は皐先輩の腕の上に乗せられていた。

「俺がしたいからしてるだけ。」

優しく微笑まれて不覚にも、ドキッとしてしまった。

「それに、千智を見上げることなんて滅多にないから、新鮮。」

「私も先輩を見下ろすことなんてなかったので新鮮です・・・。」

は、恥ずかしい。紅くなった顔を隠せないのが何よりも恥ずかしい。

「じゃあ、お互い様。」

そのまま歩かれたけど、人通りが増える前に降ろしてもらった。だって、本当にいじめの対象になるし!その上 、教室にまで送ってもらってしまった。そのせいでまた、翠と女子達に質問攻めにあったけど。

司先輩、長い長い1日はまだまだ終わりそうにないです。



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