17.宝探し(後編)
私は翠から連絡を受け、今、グラウンドにいる。
心なしかグラウンドには人が多い気がする。何かあったのかな?
「あ!千智ー!こっちだよー!」
「翠!どうしたの、この人の集まりは。」
「あのね!雨宮先輩の宝をめぐってみんな頑張っているんだけど、誰も取れなくて!」
なるほど。皐先輩がいたのか。だからこんなに人が、いや、主に女子が多いのか。
「それでなんで私を呼んだの?」
「なんか、千智だったらどうにかなるかなって。」
えへへと翠が笑っている。うん、すっごく可愛いよ。
「ちなみに、皐先輩はどんな要求をしているの?」
「それがね!猫の名前を呼んで、自分の方に来た方が勝ちなんだって!」
なんですと!それはある意味出来レースなのでは・・・。
「それは私にも無理・・かも。」
「いや、大丈夫!千智ならいける!すいませーん!次、この子がチャレンジします!」
「え!?ちょっと、翠!」
マジですか。私、動物を手懐けるスキルはないよ!?
「次・・・。千智。」
皐先輩に見つかってしまった。
「さぁ、頑張ってね!優勝のために!」
翠、まさかと思うけど、食券に目がくらんで私に行かせた訳ではないよね!?違うよね!?
「はぁ。駄目でも責めないでね。」
「もちろん!だって、私も挑戦して駄目だったもん!」
翠、それは威張れないよ。
「まぁ、頑張るよ。」
そうして私は何故か挑戦する羽目になった。
「千智が挑戦者だと、やりにくい。」
「そうですか?ところで、猫ってノアールですか?」
私がノアールと言うと、猫がすりよって来た。
「ノアール、くすぐったいよ。」
「一番強力な挑戦者。」
私はノアールを抱き上げた。そうして小声で皐先輩に言った。
「皐先輩、能力を使わずにやりません?」
「やっぱり、バレた?」
「それに、先輩は能力を使いすぎると眠くなるんですよね?」
「それもバレてた。」
「えぇ。だから、完全な運任せをしませんか?」
「わかった。俺もそろそろ眠い。」
そう言って先輩は、あくびをした。
「じゃあ、始める。」
「はい。」
「ルールは簡単。あの線の上にノアールを置く。俺達はあの線の反対側にある線の上に立つ。ノアールの名前を呼び、ノアールが来た方の人間が勝者。」
「わかりました。あの、しゃがんでも大丈夫ですか?」
「もちろん。じゃあ、始めよ。」
そして完全運任せの勝負が始まった。
「それではノアールを放します。スタート!」
ノアールがよたよたと歩き始めた。
「ノアール、おいで。こっち。」
皐先輩が声をかけた。私的には、序盤での声かけって不要な気がする。だって、どうせ進行方向は一緒だし。勝負は残り半分をきってからだと思う。
「ノアール、そのままおいで。」
半分をきった。私は一言ノアールに向かって言った。
「ノアール、こっちにおいで。こっちだよ。」
すると、ノアールは地面を蹴って私の胸に飛び込んで来た。
「にゃあ。」
「ありがとう、ノアール。」
「流石だな。初めて会った時からノアールは千智になついていたしな。」
周りの生徒がざわめき始めた。
「あの子、すごーいっ!」
「あの子誰!?何で皐君と仲良さげなの!?」
何か、一気にうるさくなったかも。どうしようかとしていると、皐先輩が手を差し出してきた。
「宝を持っていくと良い。」
コロンと手の上に転がったのは群青色の石。
「千智の優勝を陰ながら応援してる。」
「ありがとうございます!優勝を目指して頑張ります!」
「期待してる。」
「おーい!千智!お疲れ!」
私と皐先輩が話していると翠がこっちに来ながら話しかけてきた。
「あ、ごめんなさい。もしかして、邪魔だったかな?」
「え?邪魔?何で?」
「え、えっと、いや、邪魔じゃなかったんなら大丈夫。」
「そう?変な翠。皐先輩もそう思いません?」
「・・・。」
何で沈黙?
「そうだね。」
ちょっと待って。何、今の間。すっごく気になるんだけど。
「そろそろ行かなくて良いの?優勝するんでしょ?」
確かに。そろそろ行かなくては。
「皐先輩、ありがとうございました!それではまた!翠もまた後でね!」
そうして私はグラウンドにある目的の場所に向かった。
「やっぱり、藍川さんは私の邪魔ね。皐先輩の宝は私が貰う予定だったのに。まぁ、終わったことは仕方ないから次に行こうっと。次は出来れば、澪先輩に会いたいな。」
その時、柳沢も同じ目的地を目指しているとは知らずに。
「到着ー。」
着いたのは、入学式の時に来た桜の木の下。何か、ここにありそうだと思ったんだよねー。
「あ!」
桜の根本に宝箱を発見した。
「やったね!」
どきどきしながら箱を開けると、空だった。
「もう取られてたかー。」
悔しい。もっと早くに来ればよかったー。
「まぁ、悔やんでも仕方ないっか。」
最後に桜を見て来た道を戻ろうとしたら、木の上が目に入った。
「ん?上に何かある?」
そう言えば、樹君が言ってたな。もう一度探した場所を探すのもいいかもって。木の上なら見落とすかも。
「登るしかないか・・・。」
自慢じゃないけど、前世では遊びで木登りはよくしてた。と言っても、小学生の時だけど。
「よし!」
そうして私は慎重に木を登り始めた。
「案外、楽に登れた・・・。」
そんなことよりもと木の上を見ると案の定、宝箱があった。今度こそと思い私は箱を開けた。
「あった!」
そこには、紫色の石があった。図書室の石の色と同じだ。これは、得点がどうなんだろう?
「まぁ、そんなことを考えても仕方ないか。」
次に行こうと思ったその時、声をかけられた。
「頑張ってるな。」
声のする方向を見ると、なんと木の上で会長が寝ているではないか。
「何をされてるんですか!」
「ん?寝てる。」
いや、見ればわかりますけれども!
「まぁ、簡単に言うと職務放棄だな。」
そんなんで大丈夫なんだろうか。
「多少は大丈夫なんだよ。」
「そうですか。って、何で私の考えていることを!」
「何となくだ。」
もう考えるのを止めよう。
「あ!そう言えば、会長。宝ってまだ持ってます?」
「あぁ。これだろ?」
見せてくれたのはオレンジ色の石。
「それなら話は早いです。宝を下さい!」
会長が少し笑った。
「わかった。俺からの要求は2つある。まず、1つ目。千智、優勝をして何を願うか決めているか?」
優勝をして何を願うか?そう言えば、何も考えてなかった。んー、何が良いかな?
「取り合えず、まだ決めていません。」
「そうか。特に願うことがないなら、これから言うことを頭に入れて置いてくれないか。」
何だろう?
「生徒会に入りたいという願いが、実現可能なことを。」
「え?」
それは、私に生徒会に入れということ?
「まぁ、その場合は生徒会役員全員が賛成しなければならないんだけどな。でも、千智ならみんな賛成だ。その事は知っておいて欲しい。」
「わかりました。でも、私には生徒会なんて・・・。」
「だとしても、俺達は千智に入って欲しい。ゆっくりで良いから考えてくれないか。」
会長のオレンジの瞳が私を捕らえて離さない。
「わかり、ました。ちゃんと考えてみます。」
「あぁ。そしてもう1つの要求って言うのは、会長って呼ぶのをやめないか。」
「はい?」
会長って呼ぶのをやめる?
「あのなぁ、会長っていうのは役職だろ!つまり、響だったら、監査って呼ばれてるもんなんだからな!」
なるほど。確かに、私ならそれは嫌かも。
「すいません、気付きませんでした。」
「ん。これからは、名前で呼んでくれ。」
「はい!星宮先輩!」
そう言うと、星宮先輩は無言になった。
「あの、星宮先輩?」
「お前は鈍感なのか鋭いのかよくわからないな。」
そう言って星宮先輩が私に近付いた。そして、私の耳に顔を寄せた。
「司と呼んで欲しいということに気付かないのか?」
顔が近くて、息づかいがわかって私の顔はもう真っ赤だろう。私の心臓の許容量は当に越えている。
「ほ、星宮先輩・・・。」
「司だと言っているだろう?それとも、わざとなのか?」
わざとなんてとんでもない。こんなことをわざとしていたら、心臓がいくつあっても足りない。
「司先輩、あの、呼びますから、離れませんか?流石に、木の上なんでバランスが・・・。」
「もう一度。」
「え?」
「もう一度名前を呼んでくれたら離れる。」
「司先輩。」
「やはり、名前を呼ばれるのは良い。」
そう言って司先輩は離れてくれた。短い時間だったのに長く感じられたのは私だけなのだろうか。
「ほら、宝だ。」
これは本当に貰っても良いのだろうか。だって、私、何もしていない気がするんだけど。
「あの、要求って本当にあれだけで良かったんですか?」
すると、司先輩はニヤリとした。
「他にも何か要求して欲しかったか?」
やばい、これは身の危険を感じる。
「いえ、それは全く!ただ、本当の要求は何だったんだろうと思って・・・。」
「そんなに拒否をしなくても。本当の要求?それはな。俺を見つけることだ。」
「はい?」
「簡単に言うと、隠れている俺を見つけるだけで要求はクリアなんだよ。」
「あの、それじゃあ、さっきの私への要求は・・・。」
「まぁ、不要だな。」
なんですとー。それってしてやられたってこと?それなら、私も少しくらい意地悪してもバチは当たらないよね。
「酷いですね、会長。」
「ほう。呼び方を戻すか。」
あ、やばい。これは不味いやつだ。しかも、司先輩がじりじりとこっちに寄ってきている。
「あの、先輩。そんなにこっちに来ると枝がしなって・・・。」
「先輩?誰先輩だろうな。」
「司先輩!司先輩ですからー!」
そう叫んだ瞬間。
「あっ。」
私の足が枝から滑った。
「っ!千智!」
司先輩が手を伸ばしてくれたけどそれは空を掴んだ。私は痛みを覚悟して目を瞑った。けれど。
「いた、くない?」
いや、むしろこれは・・・。
「桜から、天女が落ちてきたのかと思いましたよ。」
「ゆ、雪宮先輩!」
これは、属に言う、お姫様抱っこというやつでしょうか。
「す、すいません!すぐに降りて!」
「大丈夫ですよ?軽いですから。」
軽いとか!そんなことないのに気を使わせてしまい・・・。
「それより、司?少し、イタズラが過ぎましたね。」
「うっ。」
「明日から、仕事量を3倍にします。」
「それは!」
「文句がおありで?」
「いや、ない。」
何故だろう。笑顔なのにいや、笑顔が怖い。
「藍川さん、大丈夫ですか?」
「は、はい。雪宮先輩に助けて頂いたので。あの、本当にすいません。そして、ありがとうございました。」
「いえ。ある意味役得ですから、お気になさらないで下さい。」
どういう意味なんだろ?でも、そんなことより。
「あの、雪宮先輩、そろそろ降りたいのですが。」
「あぁ、失礼しました。どうぞ。」
そう言って、雪宮先輩は地面に降ろしてくれようとした。だが、
「やはり、もう少しこのままでいますか。」
「はいっ!?」
え、今何て?
「こんな状況は恐らくこの先ないですからね。」
そう言って、雪宮先輩はイタズラをする様に笑った。うん、これは抵抗したらさらに酷くなるやつだ。でも、どうすれば・・・。
「あっ!雪宮先輩!!宝はまだお持ちですか?」
私は話をそらすように言った。
「はい、まだ持ってますよ?」
良かった!
「じゃあ、要求を・・・。」
「お待ち下さる?藍川さん。」
声のする方向を見ると、柳沢さんが立っていた。
「柳沢さん。」
「雪宮先輩、お話の途中に申し訳ありません。ですが雪宮先輩の宝、私に頂けませんか。」
「君は確か、私のファンクラブに入っていた・・・。」
「柳沢円香です!覚えて頂いていて光栄です!」
柳沢さんの表情が突然輝いた。うん、恋心ってすごい。
「ところで、藍川さん。いつまで雪宮先輩に乗っているつもりで?もう少し先輩の迷惑を考えたらどうなんです?全く、図々しい人ね。」
そこまで言われちゃうのか・・・。いや、まぁ、でも、当たっていると言えば当たっているけどね?
「柳沢さん、藍川さんは私のわがままに付き合ってくれているだけですから、そんな言い方はしないで下さい。」
すると、柳沢さんが少し悔しそうな顔をした。
「差し出がましいことをすいません。」
「いえ。そう言えば、私の宝の話でしたね。私からの要求はクイズですので、クイズに正解した方に宝は差し上げますよ。それでいいですか?」
「はい。」
「もちろんです。」
私と柳沢さんは返事をした。
「それではクイズの内容です。私、雪宮澪の最も好きな花は何でしょう。」
え?
「あの、それがクイズですか?」
そう言ったのは、柳沢さん。
「はい、そうです。それでは、2人共じゃんけんをして下さい。」
訳がわからなかったけどじゃんけんをした結果、柳沢さんが勝った。
「勝った方から先程の答えを司に伝えて下さい。もしも答えが被った場合は、負けた方が答えを変えて下さい。司、降りて来て下さい、お仕事です。」
司先輩が飛び降りて来た。
「ほ、星宮先輩!いつからそこに・・・。」
柳沢さんが驚いた様に言った。
「ずっと前からだ。」
「それでは、さっさと始めましょう。柳沢さん、司に私に聞こえない声量で伝えて下さい。」
「はい。」
柳沢さんの声は私にも聞こえなかった。
「それでは次に藍川さん、お願いします。」
そう言うと、雪宮先輩はやっと降ろしてくれた。
「はい。」
私は司先輩の元に行き、小さな声で桜と答えた。
「司、2人の答えは被っていましたか?」
「いや、大丈夫だ。」
「そうですか、それでは答えを発表します。答えは、桜です。」
「嘘、何で?だって、プロフィールには白いバラだって・・・。」
「そうですね、バラも好きですよ?ただプロフィールの際は、最も好きな花とは聞かれなかったので。」
そう言って、雪宮先輩は微笑んだ。
「司、正解者はいらっしゃいましたか?」
「あぁ。千智の勝ちだ。」
柳沢さんがハッとした表情でこっちを見た。
「何で、貴女が雪宮先輩の1番好きな花を知っているのよ。」
「正直、知らなかったの。でも、雪宮先輩とここで初めて会った時の桜を見る表情がとても優しかったからそうかなって思っただけ。それに、私はプロフィールのことは知らなかったし。」
私がそう言うと、柳沢さんは雪宮先輩を見た。
「その宝は藍川さんにあげて下さい。でも、藍川さん!優勝をするのは私ですから!それでは、失礼します。」
そう言って、柳沢さんは去って行った。うーん、嵐みたいだったかも。
「それでは、藍川さん、これを。」
私の手にのっているのは淡い青色の石。
「ありがとうございます。」
その時、宝探しを終える10分前になるチャイムが鳴った。
「そろそろ、講堂に戻らなくてはならないな。」
「そうですね。千智さんも行きましょう。」
「あ、はい!」
そうして、私達はこれから結果発表の行われる講堂に向かった。




