11.翡翠色
封筒を受け取ってからのことは正直、あまり覚えていない。だって、あれから教室がさらに騒がしくなった上に、翠に質問攻めにされたんだもん。日向先生と樹君が来て助かったけど・・・。
だけど、翠に言われてしまった。
「続きはお昼にねっ!」
お昼が今から憂鬱です。
今日の授業は本当に身に入らなかった。というのも、招待状の件ではない。今日は授業中、チラチラと樹君がこっちを見てきたのだ。
しかも、目が合うとそそくさと前を向く。なんなんだろう。何かあるとか?執行部会の件とかかな?それなら、休憩時間に言ってくるだろうし・・・。うーん、謎。いろいろと考えていたら授業が終わっていた。翠が笑顔で近付いてくる。あ、忘れてた。
これから、恐怖の昼休みだ。
「千ー智っ!お昼ご飯食べよ!」
「う、うん。」
何故だろう。いつもは可愛く見える翠の笑顔も今日は黒く見えるよ。
「それで?昨日、何があったの?そして朝の雪宮先輩の件は?あとは、月宮君の件は?」
「ちょ、ちょっと待って!そんなに1度に言われたら答えられないよ!」
「あ、ごめん。つい・・・。じゃあ取り合えず、昨日何があったの?」
それから聞いてくるのか・・・。
「昨日は翠と別れてから図書室に行って、そこで司書の人とあって、そのあと温室に行ったの。」
「え?温室?でも、あそこって立ち入り禁止じゃあ・・・。」
「うん。でも、知らなくて。そうしたらそこで及川先生と会って。」
「保健室医の?イケメンの?なんかミステリアスな感じのするあの人?」
「うん。そうしたらなんかいろいろあって、温室の手入れをすることになって・・・。」
「えぇ!?温室の手入れってことは、出入自由ってこと!?」
翠の声のトーンが一気に上がった気がする。
「う、うん。一応は。」
「凄い!そして羨ましいー!代わって欲しいくらいだよ!」
そんなに役得感のあることなのかな?
「でさ、さっきから聞いてると千智、生徒会室に行ってないよね?まさか行ってないとか言わないよね?」
「大丈夫!ちゃんとこのあとに会長に連こ・・、連れていってもらったよ!」
「なんか不穏な言葉が聞こえたけど、行ったんならいいよ。あの生徒会役員のことを無視したらいろんな意味で恐いし。」
いろんな意味ってどういうことよ。
「あ!昨日のことは何となくわかったんだけど今朝の雪宮先輩は?」
「雪宮先輩とは昨日温室のこととか教えてもらって、多分今朝のもその関係のことなんじゃないかな?」
「なるほどねー。じゃあ、授業中の月宮君は?」
「それは私にもわからないんだよね。何か言いたいことでもあるのかな?」
「それにしても驚くくらいに見てたよねー。本当、何の用事なんだろうね。」
「やっぱり、招待状の件かな?」
「そうそれ、招待状!何て書いてあったの?」
「え?えっとね、
藍川千智様
今日、放課後に温室にて執行部会兼お茶会を催します。必ず、足をお運び下さい。つきましては、お一人でのご参加をよろしくお願い致します。
だって。」
「うわー、いいなー!私も行きたいー!役員の皆様とお茶をしたいー!」
翠はそこなのね。すると、翠が真面目な顔になった。
「あのさ、今日の執行部会のことなんだけどね。千智に大事な話があって。」
急に真面目な態度になると、こっちまで緊張してくる。
「何?大事な話って。」
「執行部会のことを記事にしたいから、詳しく教えて欲しいの!」
記事?
「私、新聞部だからいろんな記事を書くんだけど、その中でも、役員関係が多くて。」
なるほど。新聞部も大変なんだな。だけど、そんなかしこまって言うからもっと凄いことかと思ってしまったじゃないか。
「いいけど、一応役員の方々に聞いてみないと。私から聞いとくね。」
「ほんと!?ありがとー!」
キーンコーンカーンコーン
「あ、あと5分で授業が始まる!」
もう、そんな時間なんだ。話してると早いな。
「そろそろ行こっか。」
「うん。」
「次は何だっけー?」
「数学?」
「え。嫌だー。」
翠と他愛もないことを話ながら教室に戻った。
「じゃあ、今日はこの計算で終了な。」
ふぅ。ようやく終った。やってることは最初の授業なだけあって因数分解の触りだからそんなに難しくはないけど、量が多い。後ろでは翠が苦戦しているみたい。
「じゃあ、ノート出来たら提出な。終わりのSHRは伝達とかないから、出来たやつから帰っていーぞ。」
それを聞いて樹君が反応をした。
「えっ!マジで!さっすが悠先生!じゃあ、俺、行くんで!千智!一緒に行くだろー?あと、澪先輩がどうしても外せない用事が入ったとかで来られないってさー。」
そうなんだ。雪宮先輩も大変だな。そして樹君、やっぱりそう来ますか。でも、せっかく時間があるんだし、温室に行って水やりしたいなー。執行部会がいつまであるかもわからないし・・・。
「ごめん、樹君。私、水やりしたいから先に行っててくれない?」
すると、樹君が驚いた顔をした。
「え、今、樹って言った?」
呼んだらいけなかったかな?
「う、うん。あ、嫌だったら月宮君に戻すよ?」
「樹でいいから!その、本当に呼んで貰えるとは思ってなかったから・・・。」
「本当に呼んで貰えるとは思ってなかったって・・・。だって、そういう約束をしたでしょ?」
「あれは無効かと・・・。じゃ、じゃあ、これからも呼んでくれたり?」
「呼んでいいならね。」
「もちろん!」
その時、誰かが近付いてきた。
「樹、お前のその姿はかなりあれなんだが。」
「ちょ、悠先生!あれってなんすか!」
「あれはあれだろ。言い表せないくらいあれなんだよ。」
「あー、もー、あれあれって、あれって何だよ!」
「あれはあれであって、あれ以上でもあれ以下でもない。」
「もう、いいっす。わけわかんなくなりました。」
「そうか。そうしてる間に藍川は先に行かせたからな。」
「えっ!?」
千智がいた場所には誰も居なかった。
日向先生に行っていいって言われたけど、本当によかったのかな?まぁ、後で謝ればいっか。
ギィ
温室のドアを開けると、爽やかで温かい空気に触れた。
「ここは、気分がいいな。」
ふぅ。水やりしなきゃ。確か、このボタンを押したら水が出るんだよね。そして、プランターはじょうろで・・・。
「よし!」
私は土に水をかけた。すると、先程まで種だった植物から芽が出て今ではもう私の膝の高さまで育っている。
「ほ、本当に出来た。」
そう。この世界の"私"が出来ること。それは、どんな植物も育てることが出来るということ。それも、やろうと思えば一瞬で。引き継いだ"記憶"にあっただけで、本当に出来るとは思ってなかったから、驚きだ。
「これから、いろんな植物を育てられるっ!」
「誰かそこにいるのか!」
私が騒いでいたら誰かに呼びかけられた。誰だろう?確か、ここは一般生徒は立ち入り禁止だよね?じゃあ、役員の方かな?取り合えず、返事をしよう。
「はい、ここにいますー!」
奥に続く道から男子生徒が出てきた。
「何故、ここに一般生徒がいる?しかも、女だと?
有り得ない。だから女は嫌なんだ。人のテリトリーにずかずかと入ってきて土足で荒らしまくって帰る、デリカシーのないやつしか居ないんだからな。」
何この人。どんだけ男尊女卑なの?いや男尊女卑というか、ただの女嫌い?
綺麗な翡翠色の目をしていると思ったのに口を開いたら残念な人だ。
「おい、聞いているのか。ここは一般生徒は立ち入り禁止だから、さっさと出て行けと言っているのが聞こえないのか?」
これだから女は・・・とまだ言っている。
ダメだ。私、こういうタイプの人無理だ。
「・・さい。」
「あ?聞こえないんだけど。」
「うるさいって言ってるんです。さっきから何なんですか?黙って聞いていれば言いたい放題言って。
女、女って言うけど、女も男も同じ人間じゃないですか!遺伝子だって異種族間より大差ないし!
貴方が言うような人は確かにいるかもしれないけど、女っていうカテゴリーだけで決めつけるのはどうかと思います!あと、私は昨日からここの管理者になったんです。」
唖然としていた男子生徒の目が揺れた気がする。
「管理者だと?」
「はい。確認を取りたいのならば、会長か及川先生に聞いてみて下さい。事実がはっきりとしますから。それでは、私は忙しいのでこれで。」
スッキリした。言い切った。言いたいことを言うのはやっぱり清々しい。
私は水を止めるボタンを押し、じょうろを日当たりの良い場所に置いて、温室から第1生徒会室を目指した。
「女というカテゴリーか。」
男子生徒の呟きは誰にも聞こえなかった。
温室から出て気付いた。
「あの人、翡翠色の目をしていたよね?」
会長に言われた。確か、翡翠色の目をした奴には気を付けろと。そういうことだったんだ。女に対してキツい人っていうことを知っていたから私にああ言ったんだ。
「早く気付くべきだった・・・。」
後悔しても遅すぎるから、仕方なく生徒会室に急いだ。




