表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

仲良しの人間模様

ヤんでしまう、その前の

――――――ごめん、愛してる。



 秋の夜8時、電灯からの明かりがまばらに道路を照らす。

「結城、こんな時間まで付き合わせて悪いな。」

「いや、あとあと休日を潰さないよう、今できることをしたまでだ。

 前会長と違って、会長は予定を立てて動いていくれるからむしろ助かる。」

「だけど連日放課後はつぶれているだろう?

 剣道部の大会も近いし、エースをなかなか練習に参加させられなくてみんなに申し訳がない。」


 人によって異なるが、結城にとって竹刀(たまに木刀)の素振りや、形の練習により不足分は補える。

 またサッカーや野球などと違い、現在は団体戦といっても勝者数法を採用している。

 そのため対戦順を決める監督の専権を侵さず、ただ目の前の相手に勝てば、結城の責任は果たされる。

 なので気にしていない、と結城から聞いたことがあるが、それで悪いと思う気持ちが消えるわけではない。


「会長こそ連日自由な時間が減って大変だろう。遊ぶ時間や息抜きの時間は確保できているのか?」

「家に帰ればとりあえず風呂に入ってご飯だしな。復習して今日の反省をしたらもう寝るしかない。」

「わからない科目とかあればいつでも相談にのる。

 テスト前には、予想をかけるから纏めたものを渡すよ。」

「ああ神様、仏様、結城様~。」

 拝み始める会長をスルーし、結城はすたすた歩いていく。

「あ」

 ペースを落とさない結城を、会長は追いかける。


「もうおなかがすいているだろう?」

「あんまりお菓子食べていなかったからな。

 結城、さすがに今日はうちで一緒に食べないか?」

 生徒会活動で遅くなったときには、いつも結城が会長を自宅まで送り届ける。

 が、会長と結城の自宅は、学校をはさんで西と北東。

 送る場合また学校に戻らなくてはいけず、それだけ食べる時間は遅くなる。

 半々の確率で、結城は誘いに応じていた。

 そんな会長を、結城は不思議そうに見る。

「晴海さんに夕食誘われたって言っていなかったか?」


 晴海とは、会長の次兄の名だ。ちなみに10歳差。

 同じ都内ではあるが区が違う、と言って、職場へ徒歩5分ほどの場所に1人暮らしをはじめた気ままな兄。

 会長は自分の口の片端が上がるのを感じた。

 なんだ、今日帰っているのか。けど自分にはその連絡は来ていない。

「結城は晴兄と仲良しだな。」

「まあ親友だしな。」

 上げていた口の端がピクリと揺れる。

「あと都合がつく日が今日ぐらい、とか言っていたから。

 家族にも会いたいだろうし、一石二鳥だな。」

 自分で一石二鳥とか、どんだけ仲良しなんだよ、と内心毒づく。

 結城は家の都合で土日は塞がっていて、生徒会会議のみ抜け出せると言っていた。

 ことさら平日が忙しい社会人と、土日に予定が詰まっている学生。

 電車で30分ほどの距離があるのだから、会う暇などお互いにないだろう。


 その後もたわいない話をしていると、会長の家にたどり着く。

 会長が扉を開けようと手を伸ばしたところ、それは内側から開かれた。


「遅いぞ。結城、比奈。

 待ちくたびれて食事に箸をつけるところだったよ。」


 そもそも我が家の誰も、玄関扉を開いて招きいれるほど、ホスピタリティにあふれてはいない。


「こんばんは。お邪魔します。

 ああ、いい匂い。今日は晴海さんの手料理なのか。」

「ああ、久しぶりに腕によりをかけた。」


 料理の匂いをかぐだけで、それが母の手作りか、兄の手作りかなんてわからない。

 そもそも記憶にある晴兄は料理など作っていなかった。


 満面の笑みをたたえる晴海が、どこか遠い人のようで、

 会長の心はつきんと痛んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ