表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

笑うかどには……

作者: 七都

 笑うかどには……


 と、ここまで言うと万人は「福来たる」と答えるでしょう。

 …まあ、正解です。

 逆に、それ以外を答える人の方が稀なので質問するのもばかばかしい。

 意味は、「いつもにこやかにしている家には、自然と福が舞い降りる」と言う意味です。

 良いことわざですし、その通りだと思いますよ。


 しかし、私が求めている答えとはちょっと違いますね。

 皆さんが答えた答えは「笑う門には」の方です。

 しかし、私が質問しているのは「笑う角には」です。

 ……相変わらず日本語は難しいですね。

 さあ、改めて質問しましょう。


 笑う角には……何?








 ある町には都市伝説がありました。

 都市……と言うほど規模は大きくないし、伝説……と言うほど受け継がれてもないので、とある町の噂、大袈裟に言うと怪奇現象とも呼んだ方が正確ですかね?


 その内容は、とある路地の角(真似をされては困るため場所は伏せさせて頂きます)に、22時頃に行き、その角を曲がる寸前で笑い声を出すと、どこからかともなく笑い声が聞こえてくるという。

 そして、その笑い声に対し一定のを受け答えをしなかったり、無視して角を曲がったりすると、その人は消えてしまう。

 そんな噂です。

 私は聞いただけなので実際見たわけではありません。

 だから、本当にあった話かもしれないし、なかったかもしれない。信じるかどうかはあなた次第。


 ……それでは話ましょうか。






 その町に住んでいた中学二年の少女 茜(仮名)は夏のある夜親友の 浅香(仮名)と共に、その奇妙な噂がたえない路地へと向かった。

 なぜそんな物騒な所へ向かったって?

 理由は簡単、他の人に見栄を張る為と、ちょっぴりの好奇心からである。

 ……人間とはなかなか愚かな生物だ。

 その路地のある近辺の学校では、風の噂や、情報屋の仕業によりこの奇妙な噂を手に入れるのは容易い事であった。

「ねえ? ほんとに大丈夫なの? 茜ちゃん?」

「大丈夫だって。襲われない言葉も教えて貰ったし……怖ければ帰ってもいいんだよ?」


 茜は浅香をからかう。

 今から怪奇現象へと出会うのに呑気なものだった。



 そんな話をしていると、路地へと二人はついた。

 予定の時間より早めに着いてしまったので、しばらく雑談をして待つ。


 そして、22時。


「行くよ」


 二人は唾を飲み路地の曲がり角を曲がる寸前まで行く。


 そして、笑った。


 すると、噂通りどこからともなく笑い声が聞こえてきた。



















ーーフフッフフフッ」






「き、聞こえてきたよ……だ、大丈夫なの…?」

「だ、大丈夫だって。まあ、黙って聞いててよ」


 茜は笑い声の中で一回深呼吸をした。

 そして、言った。



「来たる来たる笑うかどあなたはだあれ?」



 その声と共に笑い声が止まり静寂が戻る。

 そして、茜と闇の声の受け答えが始まった。


















「ワタシハ……ワタシ。アナタハダアレ?」


「私はあなた。私はあなた」




















「アナタハワタシ。アナタハワタシ。ワタシノノゾミハナァニ?」


「望んでいるのは通ること。あなたの方へ、笑うかど。」



















「ワラウカドニハフクキタル。

 ワラウカドニハフクキタル。

 アナタノノゾミハ、ワタシノノゾミ。ノゾミハカナウ。

 ワラウカドニフクキタリ」



















 ワラウカドニハフクキタリ。



 その言葉を最後に闇からの声は止んだ。

 どうやら成功したらしい。

「や、やったね! 浅香!」

「う、うん。……怖かった~」

「浅香見ていただけじゃん。まあ、早く角曲がって帰ろう」


 浅香が頷い後、二人は顔を合わせて笑った。

 そして、角を曲がった。


「よ~し、終わった~! 案外大したことなかったね。明日この話したらバカにした男子も頭下げるよ! ……浅香?」




 曲がり角、少女は一人だった。



















 この娘は助かってよかったですね~。

 私はこの話を初めて聞いた時、ホッとしましたよ。

 ……えっ? もう一人は? って?

 ……さぁ? 聞いた話なので私からは何とも……。

 まあ、なんでも人任せにするのは良くないってことじゃないですかね…?


 …止めてくださいよ。そんな嫌な人に会ったような顔をするのは。

 これでも少し真剣に考えて出した結論なんですから…。


 あぁっと! 帰らないでくださいよ! そんな不快な顔して変えられたら後味が悪いです!

 もう一つ笑う角について聞いた話がありますから…ねっ?

 ほらっ! スマイルスマイル!

 そうそう、そうですよ。笑うことは大事なんですから。


 それではもう一つ、お聞かせしましょう。







 その町に住んでいた男性 圭介(仮名)と、その友達 武(仮名)は、とっくに日が落ちた路地を二人歩いていた。

 そして、顔を程良く赤らめ、互いに酔っぱらっていた。

 なぜか? と問われましても簡単な話で、酒を飲んだからです。

 どうして? と言われましたら、単に『お金』が入ったからです。

 入ったといっても悪行を働いたわけではなく、単に競馬で大穴を当てただけです。

 だからその帰り、祝勝会と称して、ある居酒屋で酒を飲むことになったのです。

 そしてそこで、その時持っていた金を全て使い尽くした次第です。


 ほんとに男は……いや、人間と言う生き物はつくづく馬鹿な生き物と思いますよ。


 二人は飲み足りませんでしたが、金が底を尽きたどうにもなりません。

 そこで、仕方なく帰路につくことにしました。

 タクシーでも拾って、帰ろうかと思いましたが、二人とも何とか歩いて帰れる所に家を構えており、何より金がなかったので徒歩で帰ることにしました。


 長くなりましたが、こういう経緯があって、二人は歩いていました。


 酒が回っていることもあり、二人は大変上機嫌でした。

 面白い体験談や聞いた話で互いに笑い、そんなに面白くない体験談や聞いた話で互いに笑い、人前で話すと確実すべる体験談や聞いた話で互いに笑っていました。


 ……その顔を見ると、もう話のオチが分かったようですね。まあ、分からない方が珍しい。


 そうです。皆さんが思っているように、その二人は笑いの沸点が低くなっている事が幸いし、あの角、不運にもあの時間に笑ってしまったのです。









――フフッフフフッ」



 案の定、笑い声は聞こえてきました。

 二人の男は話を止め、辺りを見渡します。

 しかし、人はいません。


「誰だ!」


 大声で怒鳴ったのは武でした。

 すると、笑い声は止み、その言葉を待ってたかのように、どこからか声が聞こえます。




















「ワタシハ……ワタシ。アナタハダアレ?」





















 この声が聞こえた時には、二人の顔は酔っ払い特有の赤らみ顔ではありませんでした。

 なぜって…? 血の気が引いたからですよ。

 代わって、あるのは恐怖のみ。


 フフッ……おかしいですよね。

 ……えっ? 全然おかしくない? …そうですか。


 そして、黙り込んでしまった二人に至って簡単な質問が問われます。























「 アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハダアレ? アナタハ--」




















 その、繰り返される同じ質問は、よく聞くと、複数の人が代わる代わる言っているようで、何も考えず聞くと、一人の人の声でした。

















「う、うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 狂ったような叫び声を上げながら、もと来た道を走り出したのは、武でした。 

 その叫び声が響くと同時に、質問が止み、圭介の周りには、ただ、静寂が広がりました。



 ……そう、質問が止むと同時に、静寂が広がったのです。


 圭介が後ろを見たとき、彼は自分が一人だと知りました。


 そして、ただ一人にどこからともなく質問が問われます。


















「……アナタハダアレ?」

















 その問いに圭介は答えました。


「お……お、おれは、圭介だ……」


 その声色はあからさまに怯えてましたが、よくできましたとハナマルをあげたいぐらいの良い解答でした。


 その発言と共に、質問は止みました。

 ただし、質問は止んだだけでした。












「ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイスケ…ケイス――」















 何度も圭介は自分の名を呼ばれました。

 同じ単語を、何度も、何度も、何度も、何度も……

 まるで、飽くことを知らないかのように連呼しました。


 その単語は、確かに自分の名前を呼んだはずでした

 しかし、その単語は呪われているかのように、一単語、一単語聞くたびに、圭介の血の気を奪っていきました。


 奪う血の気がなくなったぐらい蒼白な顔になっても、自分の名を呼ぶ声は止みませんでした。


 体の中には 恐怖 のただ一単語だけが飛び交っていたと思います

 ですが、不思議にも圭介はその場にいました。


 人間は楽天的な生き物です。

 心のどこかでいつかは消える。幻聴なんだと思っている部分があったのでしょう。

 しかし、その楽天的な部分が功を奏しました。


 いつになってもその場にとどまり続ける圭介に対し、興味を抱いたのか、嫌悪感を抱いたのかは分かりません。

 ですが、ケイスケという単語は聞こえなくなりました。

 そして一言、











「ケイスケノノゾミハキキイレタ

 ワラウカドニハフクキタル」











 ワラウカドニハフクキタル

 確かにそう言われました。


 何回、自分が呼ばれたか分からなくなった頃に言われた為、その言葉はより鮮明に圭介の頭へ飛び込んだことでしょう。


 頭の中でその言葉がどう処理されたかは分かりません。

 ですが、圭介の中の何かが変わった…と言うより、とれた…と言う方が正確でしょうか?

 どちらにしろ、圭介は動きだしたことは真実でした。


 ……どこへかって?

 決まっているじゃないですか。


 角に……ですよ。



 圭介は角に消えました。


 そして、角にはフクが来ました。
















「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」



















 ……二人目の話は誰から聞いたかって?

 ……さぁ? 誰だったでしょうね? この頃、物忘れがはげしいもんで、どんな人に会ったかすら覚えてませんよ。

 そんなことで大丈夫なのか? と言われましても、仕事に差し支えありませんし…。


 ……えっ? 何の仕事をしているのかって? それは個人情報なので――…って、言います! 言います! だからそんな顔しないでくださいよ!


 私の仕事は…所謂カウンセラーみたいな仕事ですよ。

 世の中に流されている人々に、この世界の面白さを伝え、そこから救ってあげる仕事……。


 ……やりがいはあるのかって? …ええ、ありますよ。

 皆さん、最後には理解し、よく笑ってくださいます。

 ……ほんと、やりがいがありますよ。


 ……あなたもどうですか?

 責任を持って私が面倒を見ますよ?

 ……これが私の名刺です。どうぞ…


 ……そうです。あの ○○ ○○ と同姓同名なんですよ。

 ……もしかして、あの人のファンだったり…?

 …大ファンなんですか! モノマネできたりするんですけど…見ます?


 ――――似てる? それはよかったです。

 さまざまな人の声を練習していてよかったですよ…。


 似てる…で思い出しましたが、あなた、誰かに似てますね。


 ……私。そうだ、よく見るとあなた、私と似てますね……。

 最近、私自分の顔を見ていないので断言出来ませんが恐らく似てますよ……わたしに。


 …おっと、長話になりましたね。

 アナタの顔色も悪くなっていますよ?

 大丈夫、もうしばらくの辛抱です…スマイルスマイル……。



 …それでは聞きましょう。

 ワラウカドの先にはダレがいると思いますか…?

ジャンルにホラーを掲げていますが、あまり怖くなかったかもしれません。

コレじゃない感を感じた方はすみません

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 怖い、怖すぎる((((;゜Д゜))))深夜に見るんじゃなかった。 体温が少し下がりました。 あ、初めまして稜という者です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ