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刑事の目  作者: あると
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第五話「終結」

「これ、熱々でうまいですよ」

橘次郎は青森名物のせんべい汁をかき込んだ。

「こいつもあったまるぞ」

佐々木は赤い顔で地酒を口に運ぶ。

「お酒じゃなくて、こっちも食べてみてください、佐々木部長」

「おめぇたち、やてか」

訛りのきついだみ声が二人の間に割って入ってきた。佐々木よりも赤い顔のいかつい男だ。

「山本主任、ご機嫌ですね」

橘は熱燗を傾けて酒を注いだ。

「あだりめだろ。おめらのお陰だかんな。本当さありがどーごし」

山本は湯気で曇ったコップから酒をあおり、橘の背中を叩いた。橘はむせてせんべい汁をこぼしてしまった。向かいの女性が気づいてテーブルを拭く。

「あ、ありがとう」

橘が頭を下げると彼女はにこりと笑った。

「ツグローさん、新しいのどうぞ」

「ツグローじゃなくて……まあいいや」

お椀を受け取る際に女性と手が触れ、橘の目尻が下がる。

彼女と山本、それに十数名の男たちとの宴席が催されていた。橘と佐々木以外は青森県警の警察官だ。警視庁・青森県警の合同捜査本部の打ち上げだった。

橘たちが水戸から八戸に向かった日の夜のうちに、警視庁が捜査していた恐喝事件の容疑者は特定できた。八戸ナンバーのランクルの所有者であった。

翌日から内偵捜査を始め、数日が経過したある日のこと。対象者が別の事件に関係していることが判明した。

ドラッグだ。

もちろん薬局で扱っている風邪薬などの医薬品ではない。非合法の薬物の仲買人だという証拠が出てきたのだ。容疑者の観察の結果である。

これにより、警視庁と青森県警との合同捜査が行われることになった。

青森県警の捜査員たちと内偵を進めていくに従って、企業恐喝事件の全容も明らかになった。恐喝されていた会社社長の息子が容疑者からドラッグを購入していたのだ。このネタを元に社長が強請られていたのである。

二つの事件が解決し、橘は地道な捜査の苦労が報われたと思った。新聞にも写真付きで取り上げられた。

「ま、飲め」

山本は一升瓶を持ち上げた。

「僕、あまり飲めないですから」

おそるおそる差し出したコップになみなみと注がれた。強面の山本が笑っていた。恐くもあるが、よく見ると愛嬌がある顔だ。

「少しだけですよ」

青森県警の面々がはやし立てた。

「もうちょっと飲もうかな」

おだてられやすい橘は調子に乗る。雰囲気に躍らされてコップを傾けると、男たちがさらに笑った。

「おらの酒も」

次々に差し出される酒瓶に橘は悲鳴を上げた。

「そこらで勘弁してやってください」

佐々木は笑いながらフォローした。

「そへば」

にやりと笑う山本に、佐々木は満更でもない顔でコップを差し出した。

「いただきましょう」

佐々木は酒が嫌いではない。かといって好んで晩酌をするわけでもなかった。ただし強い。飲み会の席では周囲の面倒をみることが多かった。

「乾杯!」

佐々木も山本に酒を注ぎ、二人はコップを合わせた。

青森の男は一気に酒を飲み干した。けろりとした様子の山本を見て、佐々木は感心した。

今日は酔いつぶれるかもしれない。

佐々木のペースはいつもより早かった。

女性警察官が橘に水を渡した。橘はとろんとした目で笑う。

新米刑事の面倒は彼女に任せることに決め、佐々木は山本がする郷土の話に耳を傾けた。訥々と語る言葉に心が解きほぐれていくのを感じた。

心地好かった。


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