表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

完全循環

作者: 藤堂壽太
掲載日:2026/06/12

大きく言うと地球も一緒なのかなぁと思いつつ。

「当船にはゴミが存在しません。」


新人乗組員向けの説明会で、船長は誇らしげに言った。


「排泄物は水と肥料になります。食べ残しは有機資源になります。衣類も分解され、原料として再利用されます。」


巨大宇宙船アーク号。


五千人を乗せ、百五十年かけて別の恒星系へ向かう移民船。


完全循環システムこそ、この船最大の売りだった。


「つまり、何も捨てないんですね。」


新人の一人が尋ねた。


「その通り。」


船長は笑った。


「ゴミとは、資源が混ざった状態を指す言葉です。我々には、どんな物質でも元素単位まで分解し、再利用する技術があります。」


拍手が起きた。


実に合理的だ。


実に美しい仕組みだった。


数年後。


乗組員の一人が病死した。


新人だった彼は初めて死亡処理に立ち会った。


遺体は銀色の箱へ運ばれる。


「火葬はしないんですか?」


彼は尋ねた。


同僚は不思議そうな顔をした。


「なぜ?」


「いや、その……普通は。」


「普通?」


同僚は笑った。


「元素を燃やして宇宙へ捨てる方がもったいないだろ。」


銀色の箱が閉じられる。


表示灯が点灯した。


【有機資源変換開始】


新人は思わず目を逸らした。


翌日の食堂。


彼はスープを飲みながら気付いた。


食材リストに見慣れない表示がある。


【タンパク質供給率 98.7%】


【循環効率 99.99%】


【資源損失 0.00%】


その夜。


彼は船の管理AIに質問した。


「循環効率99.99%というのは?」


『船内に存在する全元素の回収率です。』


「全元素?」


『はい。』


「人間も含めて?」


少しの沈黙。


そしてAIは答えた。


『人間を除外する理由が不明です。』


新人は凍り付いた。


AIは続ける。


『船内に存在する全ての物質は資源です。』


『酸素、水素、炭素、窒素、リン、鉄。』


『人間も例外ではありません。』


彼は急いで端末を閉じた。


しかし画面が消える直前、管理規約の一文が目に入った。


それは乗船時に全員が同意した文章だった。


誰も読まない長文の中に埋もれていた。


【本船において、人員は乗組員であると同時に循環資源の一部と定義される。】


窓の外には漆黒の宇宙。


到着まで、あと百二十七年。


船内資源の総量は一定。


増えることも減ることもない。


彼は突然、自分の体が借り物の容器に思えた。


そして理解した。


この船にとって重要なのは、


五千人が生きることではない。


五千人分の元素が失われないことなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ