信頼:不安なときは②
その夜は、記憶の美化ということで自分を納得させて店を出た。
だが、違和感は週末の食卓へと続いていた。
実家から、地元の老舗メーカーの醤油が届いたのだ。「小さいボトルを見つけたから送るね」という母のメモ付きだ。
私はさっそく卵かけご飯で食べてみることにした。先日は冷えた醤油だったが、ダンボールから出したばかりのボトルは室温。これさえあれば、懐かしい実家の卵かけご飯が再現できるはずだ。
しかし、一口ほおばると私は箸を止めた。バーでウイスキーを飲んだときと全く同じ感覚だったのだ。
「味が……違う」
「味が違うって、…また?」
ミサキが心配そうに私の顔を覗き込む。
「最近、味覚がおかしいんじゃない? 亜鉛不足とか、ひどいと糖尿病や腎臓の病気でも味が変わるってネットで見たわよ」
私の味覚はどうなってしまったのだろうか。ミサキが読み上げる病名の数々に、背筋が寒くなる。会社の健康診断までは日がまだあるが、早いうちに近くの病院を予約したほうが良さそうだ。いったい何科を受診すればいいのだろうか。ミサキにこの流れで調べてもらうことにしよう。こういうとき、一人じゃないというのは本当に心強い。
ストレス性の味覚異常もあるというし、他にも味が違って感じる要因はあるのかもしれない。明日は実家の母に電話をしてみることにしよう。そういえばオールドパーのボトルは斜めに立つらしい。スガイさんに今度見せてもらおう。不安なときは、未来の予定を詰め込んでおくに限るのだ。




