潮流:変わりゆく生活
半年ほど前、ミサキが数年ぶりにパートに出ると決まった夜、私は夫としての矜持を示すべく、努めて明るい声を上げた。
「家のことは任せてくれ。洗い物も、部屋の片付けも、俺が全部やる。君は新しい環境に慣れることだけ考えて」
「ありがとう、助かるわ」
実際にパートタイム勤務が始まると、我が家の風景は少しずつ変化していった。
食品の製造にかかわる仕事柄、ミサキはノーメイクの日が増えた。その反動か、週末の前には付け爪でネイルを楽しむようになり、近ごろでは服装や髪色が自由な職場に移りたいと、本気で計画しているようだ。
ところで、私がマニキュアと呼んでいたものと比べて、最近のネイル文化は信じられないほどの発展を遂げていた。塗料に含まれた金属の粉末を、磁石で引き寄せてコントロールすることで、微細な質感や滑らかなグラデーションまでもが表現できるらしい。
紫外線で硬化するレジンが使われるようになって、爪に塗ってから固まるまでの時間を気にする必要がなくなったことと、動画でテクニックが共有されて、誰でも真似できるようになったことが影響として大きいのだと、ミサキは楽しそうに話している。
「左手で右の爪に塗るのが難しいから、トオルが塗ってくれたら良いのに」と簡単に言うが、髪を染める手伝いをしただけでも腰が痛くなるのに、それよりも頻度の高いネイルは身体が持たない、と丁重に辞退させてもらう。
大変なことの方が多いが、子どもの成長を間近で感じながら、妻の楽しそうな笑い声を聞いて過ごせることを幸せに思うとともに、こんな日々がずっと続くことを願った。
だが、生活のリズムが変われば、家の中のさまざまなものの流れも変わる。流れが速くなるもの、逆に滞るもの。速い流れに乗っていると見逃すこともあるし、ゆるやかだからこそ目に付くこともあるのだ。




